■「初心者になれる」ことの新鮮な喜び

千利休が新しい茶道を確立したのは61歳だったというが、50歳から一人茶会を始めた山口さんにとって、茶道は何をもたらしたのか。

「50歳を過ぎると、何か新しく始めたり、学んだりする機会がだんだん減ってくるんですよ。自分から動かなければ、誰も何も教えてくれない。職場でも誰も注意してくれなくなるし、それまでの経験でなんとかやっていくことが多くなるでしょう。だから、こうしてまったく未知の世界に飛び込んで“初心者”になることは、とても新鮮な体験で楽しいです。

また、勉強や修業も義務になってしまうとつらいでしょうが、楽しんでやるならむしろ大歓迎。しかも、この歳になると、若いころにはあった『やるからにはうまくならないと』といった気負いもあまり感じずにすみます。下手くそでも恥じる必要などない、構えずどんどんやってみればいい、という図々しさも身についてくる(笑)。50代ならではの楽しみ方を覚えた感じですね」

山口さんが好きだという『徒然草』には、こんなくだりがある。

能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひ得て、さし出でたらんこそ、いと心にくからめ」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得ることなし。(『徒然草』百五十段より)

<現代語訳>
これから芸を身につけようとする人が、「下手くそなうちは、人に見られたら恥だ。人知れず猛特訓して上達してから芸を披露するのが格好良い」などと、よく勘違いしがちだ。こんな事を言う人が芸を身につけた例しは何一つとしてない。

元々この一節は「芸事は恥ずかしがらずどんどん人前に出て恥をかいた方が上達する」ぐらいの意味だが、山口さんはこれを、「下手でも気にするな」という教えとしてとらえている。第一歩を踏み出すことを恐れず、人前で恥をかくことを厭わず、真剣に、でも構えずに楽しむことが重要、ということだ。

自慢することが目的でなければ初心者でも恥じることはないし、「道」として取り組むのでなければ「守破離」にこだわる必要もない。こうした自由な発想が趣味を心から楽しむための原点なのかもしれない。

山口さん自筆歌

上は、今日の一人茶会で詠んだ山口さんの狂歌だ。

「万葉集にある持統天皇の元歌『春過ぎて 夏来たるらし 白妙の 衣ほしたり 天の香具山』のパロディで『春過ぎて 夏来たるらし 白妙の 衣の下に 蚊の入りて刺す』としました。元歌は衣を干すさまを見て夏の訪れを感じるというものですが、私は蚊に刺されたことで夏を感じたわけですね。

『白妙の』は『衣』にかかる枕詞ですが、実際この日は白いシャツを着ていて、公園で、本来服に隠れているはずの部分を蚊に刺されましたのでこのように詠みました。『衣のしたに』のところで、元歌の『衣ほしたり』と母音を合わせてあるところが自分なりのポイントです」(山口さん)

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取材・文/成田幸久
写真/大井成義

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