文/池上信次

筆者のCD棚に、ジャズとともに並ぶ「J-POPフィーチャリング・スーパー・ジャズ・セッション」のCD。

ジャズでは聴けない、スーパー・ジャズ・セッション」の続きです(その3)。野口五郎が象徴的だった「歌謡曲フィーチャリング・スーパー・ジャズ・セッション」は1980年代に入るとすっかり少なくなりました。歌謡曲(というかいわゆる邦楽ポップス)シーンはニューミュージックが全盛となり、バンドブームの時代でもあり、ことさらスーパー・セッションの力を借りる必要もなかったのかとも思われます。しかしそれらが成熟し、「J-POP」という言葉で呼ばれるようになった90年代半ばになると、再び「フィーチャリング・スーパー・ジャズ・セッション」を行なうアーティストが増えてきたのです。なかでも強力に押し進めたのが国民的アイドル・グループのSMAPです。

その最初は94年7月リリースの『SMAP 006 – Sexy Six』。そして翌95年7月の『SMAP 007- Gold Singer』、96年3月『SMAP 008 -Tacomax』、同年8月『SMAP 009』と同路線のアルバムを連続リリースします(アルバムはすべてビクターエンタテイメント)。

参加ジャズ・ミュージシャンを列記します。

『006』:フィル・ウッズ(アルト・サックス)、マイケル・ブレッカー(テナー・サックス)、ジェイムス・ジナス(ベース)、ジュジュ・ハウス(ドラムス)
『007』:マイケル・ブレッカー、ボブ・バーグ(テナー・サックス)、ワー・ワー・ワトソン、デヴィッド・T・ウォーカー(以上ギター)、ウィル・リー、チャック・レイニー(以上ベース)、オマー・ハキム、ヴィニー・カリウタ、バーナード・パーディ、デニス・チェンバース(以上ドラムス)
『008』:フィル・ウッズ、マイケル・ブレッカー(以上サックス)、ハイラム・ブロック(ギター)、ウィル・リー、アンソニー・ジャクソン(以上ベース)、オマー・ハキム、スティーヴ・ガッド(以上ドラムス)
『009』:ランディ・ブレッカー(トランペット)、エリック・マリエンサル(アルト・サックス)、マイケル・ブレッカー(テナー・サックス)、レイ・パーカー・Jr(ギター)、ジョン・パティトゥッチ、トニー・レヴィン(以上ベース)、オマー・ハキム、バーナード・パーディ、デイヴ・ウェックル(以上ドラムス)

全部は書ききれないので、これはそれぞれの一部なのですが、なんともすごい人たちが揃いました。『007』のような、スーパー・ドラマー4人を1枚で聴けるアルバムなんてジャズ界隈にはありませんね。『009』のジョン・パティトゥッチとバーナード・パーディの共演は、おそらくほかでは聴けないのではないでしょうか。

ちなみに『006』から『009』の4枚とも参加したマイケル・ブレッカーは、自身のソロ・キャリアでもっともアクティヴだった時期にもかかわらず(だからこそ、なのでしょう)、同時期には高橋真梨子、米倉利紀、古内東子、井出泰彰、渡辺美里など多くの日本のJ-POPアーティストのアルバムに参加しています。それらの中にも「スーパー・ジャズ・セッション」があります。なかでもよく知られるのは吉田美和のアルバムでしょう。

吉田美和『Beauty and Harmony』(エピック)

演奏:吉田美和(ヴォーカル)、グレッグ・アダムス(トランペット)、マイケル・ブレッカー(テナー・サックス)、デヴィッド・T・ウォーカー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、ハーヴェイ・メイソン(ドラムス)、ラルフ・マクドナルド(パーカッション)ほか
発表:1995年12月

オリコンなどのデータによれば、SMAPの『006』はチャート2位で売上25.4万枚、『007』は1位/54.0万枚、『008』は2位/55.8万枚、『009』は1位/37.2万枚という大ヒットになりました。吉田美和『Beauty and Harmony』の売上はさらに多く、チャート1位/140.6万枚となっています。100万枚超セールスが連発した時代ですから、ジャズマンがJ-POPの活性化に寄与した、というところまではいかないでしょうが、ジャズ・ファンの数十倍(?)におよぶであろう、ふだんジャズになじみのないJ-POPファンが、その音楽を聴き、名前を目にした(どのアルバムにも詳細なクレジットがあります)のですから、ジャズ・ファンの拡大に大きく貢献したことは間違いありません。

SMAPのこの路線はさらに続き、97年の『011 ス』にはナイル・ロジャース(ギター/プロデュース)やナラダ・マイケル・ウォルデン(ドラムス)などファンク系ミュージシャンも参加するなど、勢いは止まりません(なお、『010』は映像作品でジャズマンは参加しません)。しかし音楽業界の好景気は続かず、日本レコード協会のデータによれば、90年代に入って急上昇した市場のCD売り上げは、98年をピークに今度は急降下をたどります。それと軌を一にするように、94年から始まったSMAPのスーパー・セッション路線は98年6月リリースの『012』で最後となり、同様の企画も激減していきました。当時、ジャズ・ファンからは大きく注目されなかったと思いますが、振り返ればジャズ界にとって、これはたいへん大きな「事件」だったといえるのではないでしょうか。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ「絶対名曲20」』を現在シリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)。編集者としては、『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/伝説のライヴ・イン・ジャパン』、『村井康司著/ページをめくるとジャズが聞こえる』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。

 

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