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なぜジャズのレコードには録音年月日が必ず記されているのか?【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道16】

文/池上信次

第16回なぜジャズのレコードには録音年月日が必ず記されているのか?

ジャズのアルバムを見ると、参加ミュージシャン名はもちろんですが、そこには(ほとんど)必ず録音年月日が記載されています。裏側だけでは足りないのか、タイトルが録音年月日というアルバムもあるくらいです(1)。ポップスのヒット曲のアルバムはどうでしょうか。たまたま机の上にあったスティーヴィー・ワンダーのCDを見てみますと、録音年月日の記載はありません。隅に書かれた「(C)1973」が唯一の年号表示です。とくに録音年月日は気にしていないようですね。この違いには大きな理由があるのです。

(1)ジョン・マクラフリン・トリオ『Live At The Royal Festival Hall November 27, 1989』(JMT)

(1)ジョン・マクラフリン・トリオ『Live At The Royal Festival Hall November 27, 1989』(JMT)

ポップスとジャズを比較しながら説明します。ポップスではアーティストが自分の「持ち歌」を、オリジナルとは別のアレンジで録音し直すケースは多くはありません。それをわざわざセルフ・カヴァーと呼ぶことからも、それは特別な行為であり、一度発表した持ち歌は「完成形」であるという前提で、それを変えることはしないのです。だからこそ演奏者と楽曲とアレンジは不可分な形で強いイメージが作られているのですね。それがヒットすればなおさらです。ライヴではレコードのオリジナルの「再現」が求められることになるでしょう。

ポップスの演奏が台本のある映画とするならば、ジャズの演奏はドキュメンタリー映画

しかしジャズの場合はまったく反対です。ジャズマンは、レコードの「看板曲」など、ライヴでは同じ曲を頻繁に演奏しますが、レコードの再現は求められないどころか、再現してはジャズとしてはまったく評価されません。ジャズのジャズたるところのひとつは即興演奏ですから、そうであれば演奏のたびに違う内容になるはずだからです。ポップスの演奏が台本のある映画とするならば、ジャズの演奏はドキュメンタリー映画みたいなものなのです。ジャズの演奏は毎回内容が異なり、レコードはそれを「記録」したものですから、日付を明記することは鑑賞の上でとても重要な情報となるのですね。同じ曲を同じメンバー、同じアレンジで演奏しても、その日と翌日では当然ながら内容は違ってきます。ですから同じ曲を何度も演奏、レコーディングすることは珍しくありません。勝負どころは楽曲以上に「個性」の表現にあるからです。録音年月日は、それらを区別するための指標のひとつでもあります。

録音年月日という情報が必要なもうひとつの理由は、ジャズは時代とともにある音楽だから。ジャズにおいては録音された時代とその音楽は密接な繫がりがあります。1950年代の「最先端」は現在の「当たり前」になっているように、ジャズは常に変化の連続です。その流れの上で、その音楽はどういう位置にあるのかは、重要な評価軸のひとつといえます。もちろん音楽そのものの価値は時代とは関係ありませんが、時代を知ることはジャズの理解の上では大切なことといえましょう。そのためにも、その音楽はいつ作られたかという記録は重要です。

マイルス・デイヴィスの代表曲「ソー・ホワット」は公式盤で10ヴァージョン

例を挙げてみます。マイルス・デイヴィスの代表曲のひとつとして知られる「ソー・ホワット」ですが、この曲は公式盤でなんと10ヴァージョンもリリースされています(死後に発表された発掘音源を除く)。もっとも有名なのは、初演であるアルバム『カインド・オブ・ブルー』の冒頭に収録されているヴァージョンですが、これだけ多いと「マイルスのソー・ホワット」だけでは話が通じないかもしれません。もちろんアルバム・タイトルでも区別できますが、さらに録音順を把握し、時代背景もわかると、この音楽をより楽しめることでしょう。

*マイルス・デイヴィスの「ソー・ホワット」収録アルバム

1.『カインド・オブ・ブルー』(コロンビア)
[1959年3月2日録音]スタジオ録音。6人編成。

2.『イン・ストックホルム 1960 コンプリート』(ドラゴン)
[1960年3月22日、10月13日録音]ライヴ録音3ヴァージョン収録。メンバー・チェンジ。

3.『ブラックホークのマイルス・デイヴィス Vol.2』(コロンビア)
[1961年4月22日録音]ライヴ録音(以下同)。メンバー・チェンジ。

4.『アット・カーネギー・ホール』Miles Davis At Carnegie Hall
[1961年5月19日録音]5人編成+オーケストラ。

5.『フォア・アンド・モア』
[1964年2月12日録音]5人編成(以下同)。

6.『マイルス・イン・トーキョー』
[1964年7月14日録音]メンバー・チェンジ。

7.『マイルス・イン・ベルリン』
[1964年9月25日録音]メンバー・チェンジ。

8.『プラグド・ニッケル vol.1』
[1965年12月23日録音]7.と同メンバー。

初演から、6年後の『プラグド・ニッケル vol.1』までの8枚10ヴァージョンは、ほとんどがメンバー違いあるいは編成違いです。初演以降はすべてライヴ・レコーディングで、大きな変化としては、テンポがだんだん速くなっていくこと。最終版は初演の2倍以上の爆速で、まるで別曲のようです。この変化の理由には、フリー・ジャズの登場、新世代の台頭などさまざまな時代背景があります。どの演奏もそれ自体で楽しめますが、時代の流れを知り、それぞれの関連がわかるとより面白く聴けることでしょう。

ポップスと比較すれば、ポップスは時代にかかわらず「完成形」を楽しむもので、ジャズは時代の中で変化していくことを楽しむ音楽ともいえるでしょう。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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