中牟田「クルマづくりを目指すなかで、デザインをするときに、どうしても効率化を考えてしまう側面がある。でも、魂銅器のオブジェ作品を見たとき、深く感じたのは僕らも今までのクルマづくりの工程をもう一回見直してみようということでした。効率化を考えない、たとえ時間はかかっても、本当につくりたいものは何なのかと突き詰めてゆく。それが大事なんだということを、玉川堂さんの仕事を見て改めて教えられた気がします」
玉川「うちも仕事の効率を考えれば、1枚の銅板から打てば済むわけですから、銅の塊を叩こうなんて絶対にしません(笑)。当初は銅板から魂動デザインを大きくつくってみたのですが、何か違う。そこから我々のモノづくりの原点に帰って技術までも復刻させた」
中牟田「我々も同じことがいえるのですが、魂動デザインのモデルを特殊な粘土で制作しているのはまさにそれです。匠の技でクルマに魂を込める、その過程はまずデザイナーがクルマの楽しさを柔軟な思想で描き出す。次にクレイモデラーが、描かれた平面のイメージに、粘土を使って独自の造形美を与えます。その独創的なフォルムを金属など様々な素材に置き換えて本物の存在感を加えるのがハードモデラーの技です。粘土で造形しなくてもクルマはつくれてしまう。でも、それでは“魂”が入らないんだと僕らは思っています」
玉川「玉川堂の鎚起銅器のデザインの考え方として、機能性を高めるというのがまずあります。ティーポット(急須)に例をとれば、お茶っ葉の対流がいい形状、液垂れしない形状というのがあるわけです。だから、机の上のデザインだけではなくて、やはり自分たちが使ってモノがわかっていないと、本当の意味でいいデザインというのは生まれてこない。経験的にいえば、機能性を高めれば高めるほど器は美しくなります。ただし、今度の魂動デザインを表現したオブジェの場合は、機能性ではなく、まさに魂そのものです。機能美を追求してきた玉川堂が、マツダさんのデザイン哲学“魂を動かす”という、その魂に触れることができた。これからの玉川堂のモノづくりに相当いい影響を与えてもらったと感謝しています」
中牟田「人間が地球に生まれて、生活をしてゆく上でどうしても人が手でつくっていかなければいけない道具やモノがあって、そこには人間のDNAが受け継がれて入っていると思うんです。それが今やデジタルの世界、バーチャルの時代になって、新しいものがどんどん出てはすごい速さで変わってゆく。そうじゃなくて、もう一度、昔の人たちが自分たちの手でつくってきたモノを見直すことによって継承もしてゆく。それがこれからのデザインのポイントのひとつでもあるだろうと。新しいものはテクノロジーを進化させるために必要だけれども、そのおおもとにある人の手によるプリミティブなモノづくりというものを、我々は頭の中、身体の中に入れながらやっていきたいと思います」