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マツダ①MAZDA_1632

反射する光も計算し尽くす「魂動デザイン」によって、生命感あふれる美しい造形に仕上げられたマツダ最上級車種の「アテンザ」セダン。

 

2008年のリーマンショックを引き金とする国際金融危機のなか、低迷が続いていたマツダの業績がいま見事にV字回復し、二期連続で過去最高益をあげている。躍進の原動力は、2010年からスタートした「クルマに命を与え、その生命感をカタチにする」というマツダの“魂動”デザインである。文字通り、人の魂を動かす、生きたクルマをつくるためのデザイン戦略だ。その制作現場でとりわけ重要な役割を果たしているのが、クレイモデラーと呼ばれる人たちである。彼らはクレイと呼ばれる工業用の特殊な硬質粘土を自らの手で削りだすことで、デザイナーが平面に描いたスケッチイメージを三次元の造形美に昇華させる。マツダ魂動デザインならではの生命感をカタチにして、クルマをアートの域にまで高める、きわめて高度な技を持った職能集団といえる。今回は、そんなクレイモデラーの仕事について、マツダデザイン本部の呉羽博史(くれは・ひろし)さんにお話をうかがった。

マツダ②MAZDA_0567

マツダ車のデザインについてわかりやすく解説するデザイン本部 デザインモデリングスタジオ部長の呉羽博史さん。

 

――マツダ魂動デザインにはクレイモデラーが必要不可欠なのですね

「マツダのクレイモデラーの仕事は、デザイナーが描いたイメージスケッチから、そこに込められた世界観を感じ取って、三次元の造形にすることです。そのために私たちが開発した特殊な“クレイ”(工業用粘土)から立体造形を削ってゆきます。最初は小さなスケールモデルから試作を始めて、細かくデザインを絞り込んでいって、実物大のクレイモデルをつくります。普通の粘土とは違って、クレイは鋼鉄に近い質感・硬さを持っていますから、よりホンモノに近い質感と臨場感が把握できます」

――今はパソコンのなかで立体造形も可能な時代ですが。

「私たちが人の手で削り出すクレイモデルにこだわる理由は、人の感性に訴えかける直感的な造形をつくれるからです。反射した光をより美しく見せるための微調整も人の手が可能にします。クルマというのは、当たる光がちょっとでも変化すると、人の気持ちが乱れるような世界を内包しています。クルマの表面にほんの僅かでも凹みがあると、光はスムーズに流れてゆきません。そのために、私たちはスケールモデルをつくるときから0.2㎜単位で光の効果をみています。
例えばボンネットやドアなど、ひとつひとつのパーツで光がどんな移ろいをみせるのか、その面と線の光の効果をより美しくコントロールしてゆきたい。そこで求められるのが0.2㎜の精度なのです。ただし、普通の粘土では1㎜以内の精度の造形は無理です。なぜなら粘土は呼吸するので、気温や湿度によってすぐに1~2㎜変わってきてしまう。その点、マツダの使うクレイは収縮率がまったくないので、そこまでつくり込むことができます。
もっといえば0.5~1㎜の間のアールのかけ方で、すごくデザインテイストが変わってくるのがクルマの世界なんです。そのために、私たちは硬質なクレイを開発しました。おかげで、きついエッジからフェイドアウトしてゆく光の流れをきれいにコントロールできる、きわめて繊細な造形美が可能になったわけです」

マツダ③ MAZDA_0203

クレイモデラーは、非常に硬いクレイをコンマ数mmという単位で削り、立体造形をつくりあげていく。

 

――クレイモデラーは0.2㎜の繊細な世界を手で削り出すのですか。

「何度も削り直したりはしません。ほとんど一発でカタチをつくります。普通の粘土ならやわらかいので、何度でもやりなおせる。その点、クレイは鋼鉄に近い硬さを持ってますから、モデラーは一発でカタチをつくらないといけない。それもあらゆる角度で破綻しないように計算しながらです。ですから削る時は覚悟がいる。そうすると、カタチを削り出す前に、いろいろ思考をする。結果、イメージの空間上にカタチが相当表現できるようになってゆく。そういう意味では、硬質粘土を開発したことで、クレイモデラーの技がより超人化したともいえます。本来、人間が持っている能力を引き出すことにもなりました。
クレイモデラーは0コンマ以下の精度で面と線を削っていますが、その時はクルマの魂、内側のエネルギーを外に解き放つようなイメージの作業です。人間の身体をみてもそうですね。やわらかいけど、鍛えると強い線が出て、内から発散するエネルギーを筋肉で押さえ込んでいる。そのエネルギーを解き放つことで、瞬時に静から動へ転じる。そこで躍動感が生まれる。クルマでも、その生命感を表現したいのです」

――そのためにも光を上手にコントロールするのですね。

「ええ、光をぽかんと発散させるんじゃなくて、マツダの魂動デザインをまとったクルマのそばを人が動くと光もまた動いていくようにデザインされている。そういうふうにアールをかけます。トリプルアールといって1回2回3回押さえ込んで決める。そうしたアールのかけ方で、光がそこに収縮しては開いていく。そういう光のコントロールをボディ全体でやっています。もっといえば、光と影、陰と陽の兼ね合いです。クルマに太陽が当たっている時、上からの光は当たった面を白くしますが、エッジから下は暗く影になる。また、影がないと光の美しさが際立たない。基本上はそうした計算によって車体にラインを入れていきます」

――なぜ0コンマ以下の精度が求められるのですか。

「わずか0.1㎜の違いでも、ぱっと見ただけでわかりますよ。例えばクルマの印象をリッチにしたいのに、少しやせてるかなと思う。それをリッチになおす。その時の数値の差は100分の5㎜です。逆にいえば、人の目は0.1㎜以下の違いを敏感に見分けられる、感じとっているということなんです。
実際にボディを触ってみれば、違いがもっとよくわかりますよ。人の手って本当にすごくて、0.1㎜の違いを触って感じることができるのです。マツダが手づくりにこだわる理由は、まさしくそこなんです。数字のデータ上は0.1㎜しか違わないと、何も変わってないに等しい。でも、人が触ればわかる。マツダデザインのモデルがいいのは、削りながら触っているからです。デザイナーが判断に困る、決定に悩む時は、クレイモデルに触れて、“ああ、これ気持ちいい、ここだな”と決められる。自信を持ってデザインを決定できるのは、クレイモデルを使っているからなんです。数字のデータだけでは、その気持ちよさまでは感じ取れない。マツダデザインは人間の五感で勝負をしています」

――クルマを選ぶ際は触ったほうがいいですね。

「みなさん、触れるときって目をつぶるじゃないですか。あれは指に感覚を集中したいから。私たちも削るときは視覚に頼らず、黙って手指に感覚を集中させます。
実際、触っていただいたほうが、マツダがつくっているクルマのよさがわかっていただけると思います。最後の追い込み(流れるようなラインの最終点)とかに、違和感がない。それは我々が触りながら、気持ちのいい感触を確かめながらやっているからです。型でパンパンとつくると、触れると引っかかるところがあって、滑らかにラインが流れていきません。ですから、本当は素手で直に触れてもらえるのがいい。そのほうが、私たちの仕事を感じてもらえると思います。それに、自分の手に馴染むかどうかも、クルマを判断するうえでの基準になるでしょう。ああ、リッチだなとか、繊細だなとか、見るだけじゃわからない部分を触ることで理解できるのです」

 

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