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「魂動デザイン」によって生命感あふれる造形をまとったマツダの最上級車「アテンザ」。後ろの建物は、新潟県燕市で江戸末期から約200年続く鎚起銅器の老舗『玉川堂』。

 

クルマに命を与え、その生命感をカタチにする。それがマツダの掲げる「魂動デザイン」の哲学だという。今まさに意志をもって動き出そうとする一瞬の緊張感と、まるで体温をもって呼吸しているかのような生命感をまとった“生きたクルマ”をつくる。そのために匠の技で魂を込め、クルマを美しいアートにまで昇華させてゆく。そんな魂動デザインの出発は2010年。そして、今日までロードスター、デミオ、アクセラ、アテンザ、CX-3、CX-5という、マツダ・デザインを身にまとった6車種が世に送り出された。

マツダが魂動デザインを研ぎ澄ませていく過程で出逢い、そのモノづくりの姿勢に大いに共感・共鳴し合ったのが、日本を代表する金属加工地として名高い、新潟県燕市に江戸末期からおよそ200年続く鎚起銅器(ついきどうき)の老舗『玉川堂』(ぎょくせんどう)である。銅の一枚板を数十種の金鎚を巧みに使い分けながら、ときに力強く、ときに細心に叩くことで、湯沸し・急須・酒器などの見事な器に打ち上げてみせる。これが鎚起の技である。
クルマと銅器。一見、無縁と思える両者がなぜ互いに魅かれあったのか。魂動デザインを統括推進してきたマツダ・デザイン本部の中牟田 泰(なかむた・やすし)さんと、玉川堂7代目当主の玉川基行(たまがわ・もとゆき)さんのふたりに、その理由とモノづくりの魂について語っていただいた(敬称略)。

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「人の心を惹き付けるデザイン」について語り合うマツダ・デザイン本部 アドバンスデザインスタジオ部長の中牟田 泰さん(向かって左)と、鎚起銅器『玉川堂』代表取締役(七代目)の玉川基行さん。

 

――クルマと鎚起銅器。そもそもの出会いを教えてください。

中牟田「マツダが魂動デザインを手掛けてゆくなかで、オリジナリティを突きつめてゆくと、自分たちの感性が深く根差している日本独特の美意識に行き着いて、そこに原点を見出した。だとしたら、もう一回、日本の伝統工芸の世界の匠の方々と触れ合ってみようと。そういう思いから、うちのデザイナーたちが日本の手仕事の現場を見て歩くようになりました。
その一環で金属加工の燕市へも見学ツアーに出掛けた。そして、帰って来たデザイナーから『玉川堂さんの鎚起銅器の世界がすごい、クルマの板金職人も連れて、ぜひもう一回行きたい』という報告を受けました。“魂を動かす”というテーマに本気で邁進するデザイナーたちが、これほど深い共感を覚えて戻ってきた。これは尋常な世界ではないと思うところから、お互いの交流が始まって、玉川堂さんにも私たちの本拠地・広島に来ていただいたりしました。ですから、最初はマツダから玉川堂さんにラブコールを送ったわけです」

玉川「燕市は江戸時代に弥彦山の銅山が開かれて、その精錬を町が請け負うようになったところに鎚起銅器の製法も伝わりました。銅板を鎚(つち)で叩くことで器を成型するのが鎚起銅器なんですが、その伝統製法を今も受け継ぐのは、事実上、日本でも私ども玉川堂だけです。もちろん、世界に銅器を手掛けるところはありますが、フライパンとかの雑器類で、うちのように工芸的な要素をもった器を鎚起の手法でつくっている例はありません。
もっとも、最初はどこにマツダさんとの着地点があるのかなと思いましたが、話をしてみると“魂”ですよね。マツダさんの魂動デザインは“クルマに命を与える”という。その『命』という字は、『人』が『一』を『叩(く)』と書きます。つまり、人の手が銅板一枚をひたすら叩いて器に命を吹き込んでゆく、それこそが鎚起銅器の世界なのです。モノづくりは魂が大事なんだと、その共通点からだんだんお互いに近づいていった」

中牟田「何か一緒にできればいいですねと。でも、クルマのパーツをつくるということではない。ビジネスを度外視して何かやりませんか、というところで強い信頼と絆ができていって、互いに刺激を受けながら、新しいチャレンジが始まりました」

マツダは2010年から「魂動デザイン」を世界に向けて発信している。2013年にはイタリア・ミラノで開かれる世界最大のデザインイベント「ミラノデザインウィーク」に、日本の美学を源とするマツダ魂動デザインの椅子を出展。2度目の参加となる今年2015年には、クルマと同じ美意識でデザインした自転車と家具、そして、魂動の哲学に啓発されたアート作品2点を展示して称賛を受けた。その作品のひとつが、『玉川堂』が鎚起の手わざで制作したオブジェ「魂銅器」(こどうき)だった。

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「魂動デザイン」哲学の根幹にある「凜々しく、艶やかなエレガンスと生命感」を具現化し、マツダが2015年の「ミラノデザインウィーク」に出品した作品のひとつ『Bike by KODO concept』。

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マツダの「魂動デザイン」に共感し、鎚起という伝統工芸の手わざで制作された『玉川堂』による「ミラノデザインウィーク」(2015年)出品作品『魂銅器』。

 

中牟田「ビジネスの世界に入ってゆくと、こういう付き合いは難しかったんじゃないかと思いますが……

玉川「本当にそう思います。マツダさんとお付き合いをさせてもらったことが、いろんな意味で自分たちのモノづくりの魂をあらためて見直すきっかけになりました。鎚起銅器というのは銅の一枚板を叩きながら縮めてゆくことで成型しますが、昔は銅の塊から叩き延ばしていったわけです。マツダさんと出会い、魂動デザインの話を聞いて、じゃあ我々も江戸の昔の原点に還って鎚起銅器を考えてみよう、銅の塊からチャレンジしてみようじゃないかと。そうして出来上がったのがミラノデザインウィークの“マツダ魂動デザイン”のひとつとして出展させていただいたオブジェ『魂銅器』です」

中牟田「銅の塊から打つ、なぜそこまでするのですかと聞きましたよね。そうしたら、厚みのある嵩(かさ)とか重さを出すには、塊から叩かないと出来ないんだとおっしゃった。決して、こちらからああしてこうしてとお願いしたわけではない。我々の“魂動”の考え方を伝えただけですよね。ところが、その鎚起銅器のオブジェのお披露目作品を見たときは、うちの役員たちも鳥肌が立ったと言っていました。本当に素晴らしいアートです」

玉川「銅の塊を3人で叩いて、まず一枚の板にしていったわけですが、塊を一所懸命に叩くと、必然的にできあがるのが、この魂銅器のカタチなんですよ」

中牟田「意図的というよりも、本当に思いを伝えるところから形ができあがってきた」

玉川「ええ、やっぱり職人の生命が宿って鎚起の“魂動”が生まれたと思います」

中牟田「ミラノでは、玉川堂さんの魂銅器と、もうひとつ広島在住の七代 金城一国斎(きんじょういっこくさい)さん(漆芸)の手による『白糸』と題した卵殻彫漆箱を展示したのですが、すごい反響でした。外国での日本のモノに対する評価は、どちらかというと民芸っぽいというか、いかにも日本的な部分に向けられるものが多かったように思うのです。
でも、今回つくっていただいた展示品はいずれも、もっとモダナイズした感じがする作品です。とくに玉川堂さんの魂銅器は、ミラノでは“これは本当に人の手だけでつくられたのですか”という驚きの賛辞が多かった。ですから、日本的な美というよりも、純粋にアートとして、みなさんには見ていただけたと思っています」

 

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