選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
今年没後30年を迎えた作曲家フェデリコ・モンポウは、スペインのカタルーニャ地方の首都バルセロナの出身で、静謐なピアノ小品を多く書いたことで知られる。
1972年サンクトペテルブルクに生まれ、ロシアの巨匠の流れをひくピアニスト、アルカディ・ヴォロドスが『ヴォロドス・プレイズ・モンポウ』を録音したのは意外な気がしたが、聴いてみてあまりの素晴らしさに驚いた。
モンポウの従来のイメージは淡い水彩画のような世界だが、それだけではない。ギラッとした強烈な輝きや不吉な闇がある。スケールの大きな、遠近感のある、独創的なピアノ曲。稀代の技巧派でありロマン派の香りを伝える濃厚なピアニズムだからこそなしえた優れた解釈だ。
「私にとって音楽は細い山道のようなものである。芸術とは原初への回帰である」というモンポウの言葉が紹介された解説も、読み応えがある。(試聴はこちらから)
【今日の一枚】
『ヴォロドス・プレイズ・モンポウ』
アルカディ・ヴォロドス(ピアノ)
2012年録音
発売/ソニーミュージック
商品番号/SICC-30433
販売価格/2500円
写真・文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2017年10月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。