
ライターI(以下I):前週に織田信長(演・小栗旬)の妹お市(演・宮崎あおい)が浅井長政(演・中島歩)に嫁ぎました。
編集者A(以下A):信長は兄弟姉妹思いだったと伝えられています。『豊臣兄弟!』第11回では、京都にいる信長に浅井長政が挨拶に訪れ、信長はお市への土産を託します。義弟の長政のことを信長は本当の弟のように信頼していたともいわれています。
I:劇中でもそんな様子でした。それがなぜ……。
A:お市のもとを義父の浅井久政(演・榎木孝明)が訪ねて、ねちねちという場面が展開されました。姑(しゅうとめ)ではなく舅(しゅうと)がねちねち言ってくるのは斬新といえば斬新。
I:この場面の見どころは、浅井久政を演じている榎木孝明さんは2006年の『功名が辻』では浅井長政を演じているということでしょうか(お市の方は大地真央さん)。
A:なるほど。『功名が辻』では、浅井久政を山本圭さんが演じて、信長を兄と慕う長政と対立する様子が描かれました。つまり、榎木孝明さんは、浅井家の裏も表も知り尽くした存在。榎木孝明さんが浅井久政を演じることで、同じ場面でも「より深い」味わいを得られるというわけですね。榎木さんは本作で大河ドラマ12作目の登場になるのですが、1991年『太平記』の日野俊基役と1995年の『八代将軍吉宗』の柳沢吉保役がひときわ印象に残っています。大河ドラマが現代路線に転換していた1985年に放送された新大型時代劇『真田太平記』で演じた樋口角兵衛も懐かしいですね。
I:榎木さんのような手練れの演者さんが登場することで、場面がピリッと締まりますよね。さて、信長からお市への土産が「銅鏡」でした。
A:おそらく久政の指示だと思われますが、信長から贈られた銅鏡が火にくべられていました。それを素手でとろうとする長政。
I:「なぜそのようなまねを!」とお市の方が絶叫しました。その時私も「なんで!?」と叫んでいたのですが、お市の方の思いとシンクロしていた感じでした。
A:まあ、なにはともあれ、お土産を託すとは信長は本当に身内思いという設定ですね。
I:そういえば、小谷でお市が文を書いている時に、文机のまえに美しい紅葉が映し出されていました。
A:小谷城といえば、美しい紅葉で知られています。これを世に広めたのが、大河ドラマの時代考証でおなじみの小和田哲男先生です。2005年の雑誌『サライ』の紅葉特集号で、小谷城の紅葉を紹介してくださったのです。当時取材でご一緒しましたが、紅葉の盛りだったのに人は誰もいませんでした。宮崎あおいさんが文を書くシーンをみて、小谷城の美し過ぎる紅葉を思い出しました。
信長兄弟勢ぞろいが見たい!
A:さて、織田信長の兄弟といえば、弟で信長に殺害されることになる信勝(かつては信行とされることが多かった)は幾度も大河ドラマに登場しますが、それ以外の兄弟もちょこちょこ登場しています。1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では、宇佐山城主の弟・信治(演・神田雄次)が「この世に織田信治ありしこと、天に告げる」と単騎で浅井・朝倉軍に駈け出し討ち死にしました。同作には石があたって不慮の死を遂げた秀孝(演・谷田真吾)、弟とも異母兄ともいわれる信時(演・田中克季)も登場しています。晩年織田有楽斎(うらくさい)を名乗り、屋敷のあった場所が「有楽町」になっている長益は『真田丸』(2016年)で井上順さんが演じるなど6作品に登場しています。『麒麟がくる』(2020年)では松平竹千代(後の徳川家康)と人質交換される諸兄の信広(演・佐野泰臣)が、同じく『麒麟がくる』には弟で長島一向一揆との戦い元亀元年(1570年)11月に討ち死にした信興(演・増本尚)が一瞬ですが登場しました。
I:長島一向一揆で、浅井・朝倉連合軍が宇佐山城に迫ってきた際、信治のほかに秀成という弟も落命するんですよね。
A:そういうところまで『豊臣兄弟!』で描かれますかね? かつて『鎌倉殿の13人』(2022年)で、源頼朝の存命兄弟(頼朝、範頼、全成、義円、義経)が一堂に会したことがありましたが、信長存命兄弟勢ぞろいというマニアックな場面も見たいですね。信長の兄弟はもっといます。2011年の『江 姫たちの戦国』には、浅井三姉妹の面倒をみたという説のある信包(のぶかね/演・小林隆)が登場しました。そのほか信長の兄弟といえば、信長次男の信雄の家臣となった信照らのほか、本能寺の変の際に討ち死にした長利がいます。
お市の方の姉妹のゆくえ
I:さて、信長の手にかかった弟の信勝(『豊臣兄弟!』では演・中沢元紀)ですが、息子の信澄が取り立てられます。ここでも実は身内思いの信長が垣間見られます。信澄は、今後『豊臣兄弟!』に登場予定です。演じるのは緒形敦さん。祖父が、1965年の大河ドラマ『太閤記』で秀吉役を演じて以降、数々の大河ドラマに登場した緒形拳さん。父が1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』で信長を演じた緒形直人さんです。
A:まさにサラブレッドなわけですが、緒形敦さんが演じる織田信澄は、織田家中の出世頭明智光秀の娘を正室に迎えているのです。義父が光秀ということで、やがて窮地に立たされるということですね。
A:蛇足ですが、細川一門の宗家である京兆家は、信長のころは、晴元の子息細川昭元が当主でした。この昭元に信長の妹でお市の方の姉(妹とも)であるお犬の方が嫁ぎます。信長は名門細川京兆家とも縁戚関係を結ぶことになったわけです。
I:お犬の方は、お市の方と同様に美貌の持ち主だったといわれているんですよね。こちらも大河ドラマではあまり登場しませんが、もともと知多半島の佐治信方に嫁いでいたといいます。その夫が長島一向一揆で討ち死にしたため、実家に戻り、その後細川昭元に嫁いだということですね。面白いのが、細川宗家ともいえるこの流れと「熊本藩の細川家」はまったく関係ないということですよね。
A:そうなんです。『麒麟がくる』にも『豊臣兄弟!』にも登場している細川藤孝は、もともと室町幕府奉公衆の三淵家の出身です(兄が三淵藤英)。そこからたくさんある細川一門の一流に養子に入ったということです。細川宗家の京兆家は、昭元の娘円光院の嫁ぎ先である三春藩秋田家の家老職として明治維新を迎えます。
I:へえー、そうなんですか。
A:三春藩秋田家は鎌倉時代から室町時代に奥州十三湊(現在の青森県五所川原市市浦地区)を拠点にした一大勢力で「日の本将軍」を称し、アムール川流域まで交易の輪を広げていた安藤(安東)一族の後裔になります。お犬の方はお市の方と姉妹ですから、お市の方の生んだ江(将軍秀忠の正室)とお犬の方の生んだ円光院(秋田実季の正室・秋田俊季の生母)は従姉妹ということになります。
I:そういう話を聞くとお犬の方も大河ドラマでみたくなりますね。
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











