東洲斎写楽の正体についての一考察
I:さて、『べらぼう』第46回では、日本史の謎のひとつ「東洲斎写楽」の正体について描かれた形になります。答えから先にいうと『べらぼう』では、複数の絵師が参加した「蔦重工房説」が採用されたということになります。
A:それだけいうと、味気ないのですが、なかなかに趣深いというか、練りに練られた流れですよね。蔦重のような実の父母とは縁が切れ、吉原で育てられた人物が、江戸随一の出版人に上り詰める。これは田沼意次政権が醸成した「重商主義」「自由闊達な空気」の賜物だったと思うのです。「元のにごりの田沼恋しき」とうたわれたように、田沼時代に成功した人たちは、田沼時代を懐かしみ、あの頃に戻りたいという願望を抱き続ける。その時代の象徴だった「平賀源内はまだ生きている」と思わせて、人々の希望に乗る形で「写楽」を演出した、という展開です。
I:いまでも、年配の方々のなかには「昭和恋しき」「平成恋しき」という人がいますよね。「あの頃はよかった」という人たちがいて、それでも世は移ろいゆく。歴史って深いですね。さて、「写楽の正体」についてです。『べらぼう』の現在地の物語は寛政6年(1794)になります。
A:いまから10年ほど前に休刊となった歴史雑誌『歴史読本』の昭和60年(1985)12月号で「謎の浮世絵師 写楽を探せ!」という特集が組まれています。同特集では、写楽の正体について、山東京伝、十返舎一九、喜多川歌麿、司馬江漢、近松昌栄、鳥居清政などの説が展開されています。もう40年も前の特集で、当時は斜め読みした記事もいま読み返すと、解像度がアップしているのは、『べらぼう』のおかげですね。
I:面白いのは、漫画『佐武と市捕物帳 死やらく生』で、写楽の謎に迫った石ノ森章太郎さんが、「写楽は歌麿だ!」の執筆を担当していることです。リード文には「蔦重がうった起死回生の一策は歌麿を中心とした工房による写楽創造だった」とあることです。細部はともかく『べらぼう』に通じる説ですね。あの石ノ森章太郎先生がそんな説を唱えていたなんて!
A:『歴史読本』の特集から10年後の平成7年(1995)には、『写楽を探せ:謎の天才絵師の正体』(翔泳社)が刊行されました。写楽登場200年を機しての企画だと思われます。写楽研究家、浮世絵研究家の方々のほかに松本清張さん、梅原猛さん、今東光さんなどの論考が読める力作です。これが30年前ですね。巻頭では高橋克彦さんの「写楽=斎藤十郎兵衛説」の変遷についての原稿が読めます。
I:こういう変遷を読んでから第46回を視聴すると、「なるほど、こうきたか」と思わされますよね。劇中の展開はリアルっぽい感じがします。
A:同じ1995年には、私財を投じて写楽研究に没頭したという俳優のフランキー堺さんが、蔦重を演じた映画『写楽』が公開されていますから、定期的に写楽ブームがあったんでしょうね。
I:という意味でいえば、今年は写楽登場230年を機しての企画という側面もあるわけですね。一橋治済が定信の筆跡を覚えていた場面なんかは圧巻ですよね。松平定信がいろいろ文章を書き遺していたことを受けての展開ですものね。
A:定信は若い頃に、『大名かたぎ』という黄表紙っぽい物語も書いていたそうです(笑)。そうした史実あってのあの場面。一見、「なにこの展開?」と思わせておいて、しっかり史実の裏付けがある。
I:ところで、とっても気になるのが、第46回のラストシーンで登場した男性です。あれ、生田斗真さんですよね? いったいどういうことですか?
A:生田斗真さん激似の男性は確かに気になりますね。なんだか爆弾が投下されたような気がします。「大河史上屈指の名場面」になるのかならないのか。重大な局面に立ち会っているような気がします。これは1週間が待ち遠しいです。どっちに転んでも「歴史の証言者」としてリアルタイムで視聴したいですね。
I:また、そんなこといったら怒られますよ。……といいながら私もどんな展開になるのか気になってしょうがないです。あの生田斗真さんは、何者なんですか?
A:その生田斗真さんからコメントが寄せられています。「本当に最初から最後まで言えないことづくしだから、なかなか驚きの展開になっていくと思うので、期待を裏切らないラストになるんじゃないでしょうか。楽しみにしてほしいと思います」
I:なんだか怪しい雰囲気が漂いますね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。11月10日に『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』も発売。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











