
昭和35年よりプロの鉄道写真家として活躍をする広田尚敬(ひろた・なおたか)さん(89歳)。「広田調」と呼ばれ、鉄道写真の手本となった撮影の歩みを振り返る。
「人々の営みや四季折々の鉄道風景を切り取り、感動を写真に表現してきました」(広田さん)

明治の開業以来、日本の鉄道の運行を担ってきたSL(蒸気機関車)が昭和50年に廃止され50年が経つ。廃止までの数年間は、SLブームが巻き起こった。力強く駆動する動輪などの機能美やドラマティックに噴き上がる煙、そしてまるで生きているかのような躍動感が多くの人を惹きつけた。
高度経済成長期を経てカメラが普及し、趣味として鉄道を撮影する人が増え、廃止間近のSLの姿を捉えようとする鉄道写真ブームも最高潮に達したが、広田尚敬さんの作品は他と一線を画していた。

昭和35年にプロの写真家としてデビューした広田さんは、昭和43年に鉄道写真展の嚆矢とされる「蒸気機関車たち」を開催。SLの圧倒的な存在感を独自の写真表現で追求した作品は高い評価を受け、『SL夢幻』や『永遠の蒸気機関車』など続々と著作を刊行。
広田さんは、まだ鉄道写真という分野が確立されていなかった時代から確固たる信念と独自の技術、感性で先人として切り拓いてきた。

「車両の姿や形式、編成を正確に記録することが重視された鉄道写真に、私は人々の営みや各地の四季折々の鉄道風景を切り取り、感動を写真に表現しようと挑戦してきました」(広田さん)


そんな広田さんの鉄道への深い愛情と優しい眼差しを反映した詩情豊かな作風は鉄道写真の手本とされ、いつしかファンから「広田調」といわれ、「鉄道写真の神様」と呼ばれる存在になった。
広田さんのジャンルを超えた表現手法は鉄道写真を文化として捉えたもので、大きな評価を得た。
今秋、90歳の卒寿を迎える広田さんの集大成となる写真集が刊行された。未発表作品を含む約400点は広田さんが選んだ。
鉄道写真をアートの域に高めた「神様」の仕事を眺めてみたい。
『鉄道写真 広田尚敬』
鉄道写真のレジェンドが自ら選んだ未発表作品ほか約400点の名作を収録


『鉄道写真 広田尚敬』広田尚敬著 B4変型判ケース入り、318ページ 5万5000円(税込み)
問い合わせ:小学館 電話:03・5281・3555 https://www.shogakukan.co.jp/books/09682493
広田尚敬さん(鉄道写真家・89歳)

昭和10年、東京生まれ。中央大学卒業後、会社員を経て昭和35年にフリーランスとなる。著書は200冊以上。1970年代〜1980年代のSLブームやブルートレインブームなどを牽引。各種鉄道写真コンテストの審査員のほか、近年は鉄道撮影のマナー向上や子どもへの写真教育にも取り組む。
取材・文/中村雅和 写真/広田尚敬

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