松平定信の性格を考察する

I:さて、松平定信ですが、蔦重との「直接対決」がありました。

A:歴史に詳しい人の中には、「蔦重と田沼意次が会っているわけがない」ましてや「松平定信がお白州の場に出てくるわけがない」という人がいるかもしれません。歴史ドラマには時として、「1000%ありえない」という設定があったりしますが、『べらぼう』における「蔦重と田沼」「蔦重と松平定信」のやり取りは、私は「あり」だと思っています。

I:田沼意次に関しては、意次と蔦重に共通の人脈がありますからね。むしろ「会っている設定」が自然です。でも、松平定信はどうですかね?

A:いや、実は私もそう思っていました。でも松平定信の著書『宇下人言(うげのひとこと)』を読んでいて、思ったことがあるのです。『宇下人言』は、昭和に入って定信の子孫にあたる松平定光が校訂して岩波文庫におさめられました。その中に「短気を自戒す」という14歳のころのエピソードを綴った一節があります。それによると、14歳のころの定信は、相当短気だったようです。

I:14歳ですか。

A:いつも家臣に諫められていたそうですが、まったく怒りがなかった日がなかったとも記されていますから、相当なものだったのでしょう。でも18歳になって、短気はおさまったと書き記しています。でも……。

I:じつは短気はおさまっていなかったのではないかという解釈ですね。たしかに、田沼意次の居城相良城を徹底的に破却したり、繁華街中洲を更地にしたり、そんな空気は感じます。

A:自分を茶化す黄表紙を刊行して、目をつけていた蔦重が「教訓読本」と称して好色本を刊行する。あくまで松平定信側にたった見方ですが、これで定信の怒りに火がついた。とはいえ死罪にするほどの話でもない。どうすれば、蔦重に打撃を与えられるのか。それで実際に蔦重とはどんやつなのか見たくなった。そう思うと、いてもたってもいられない。

I:そこまで思索したんですか。でも、松平定信ならありえそう。劇中では、蔦重は定信にとって、かつては自分が大好きだった黄表紙を作ってくれる神様みたいな存在だった、みたいな設定で、人間らしく複雑な心境を抱いていますが、私としては、もっと悪い奴に描いてもよかったと思ったりしています。

A:徹底的にヒールの定信ですか。たしかに見たいような気もしますね。

「身上半減」を逆手に取った耕書堂の看板。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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