「各分野の超一級品を所蔵する日本一“蔵が深い”博物館です」解説 山下裕二さん(美術史家)

1.常設展示がスゴい

「いつ行っても一級の美術品が見られます」

本館の常設展示は、主に1階が彫刻や陶磁、刀剣といった分野別、2階が縄文から江戸時代までの時代を追った「日本美術のながれ」という展示で構成される。「国宝や重文の名品が数多く展示されており、日本美術の基礎を学ぶなら東博の常設展示を見るのが一番の近道です」と山下さん。

東京国立博物館(以下、東博)とは一言で言えば、「日本で最も長い歴史を持つ、日本最大のミュージアム」ということになります。

そもそもは明治5年(1872)、旧湯島聖堂で開催された文部省主催の博覧会を契機としたのが現在の東博の原初です。後に明治政府による国策として、欧米の名だたる博物館に比肩しうる施設をつくるべく、上野公園の現在地に「文部省博物館」としての旧本館が明治15年(1882)に開館します。これが東博の前身となりました。

以来、東博には日本美術のみならず、アジア、エジプトなどを含めた様々な分野の文化財が収蔵されてきました。特に日本という括りにおいては、縄文から近代に至るまで、あらゆる分野の一級の美術、工芸、書籍、考古資料などが収蔵され続け、それらを総合的、また体系的に俯瞰して見ることができる唯一の博物館となったのです。京都や奈良の国立博物館でも、時代ごとに様々な美術品を見ることはできますが、例えば奈良博は仏教美術に特化していたり、京博は地元の文化財が多かったりして、その質と量の違いは歴然です。

2.法隆寺宝物館がスゴい

「東の法隆寺とも称される古代美術の宝庫です」

法隆寺に伝来した金銅仏を中心に約300件の宝物を収蔵、展示。「谷口吉生設計のモダニズム建築で、金銅仏の展示が圧巻です。何より、ガラスケースの正面には作品解説がなく、直に仏像と対峙できるのが素晴らしい」

3.壁面もスゴい

「法隆寺宝物館の外壁ではアンモナイトも見られます」

建物の正面から向かって右側の外壁はライムストーン製でそこにはいくつもの化石が見られる。
「最も顕著なのが、見事なアンモナイトの化石です。ぜひ探してみてください」

特に本館の1、2階で展開される常設展示について言えば、私のように40数年に亘って東博に通い続け、企画展のみならず、ほとんどの常設展示を見てきた者ですら「え、こんなものが東博にはあったのか」という発見が今でもまだあるのです。美術史の業界用語で、このような状況を「蔵が深い」と言うのですが、間違いなく日本で最も「蔵が深い」博物館が東京国立博物館なのです。

そのようなことを踏まえ、東博を楽しむ術を指南させていただくなら、まずは「全部見ようと思わないこと」ということを格言として挙げておきたいと思います。

4.国宝室がスゴい

「行けば必ず選りすぐりの国宝が見られるのも東博ならでは」

2004年の本館リニューアルの際に設けられたのが2階にある国宝室。期間を区切って絵画や書跡の国宝が1点だけ展示される。「行けば確実に選りすぐりの国宝が見られるのは意義深いこと。年始には国宝の中で一番人気と言える長谷川等伯の『松林図屏風』が必ず展示されるのも特筆です」

広大な上野公園を歩いて東博にたどり着き、広い敷地を歩いて本館の常設展示を見るだけで疲れます。大規模な企画展を見てから、そのついでに本館や東洋館、法隆寺宝物館の常設展示を見ようというのは無理がある。ぜひとも、各館、それぞれの常設展示を目的に何度も通うことをお薦めします。大袈裟ではなく、一生かけて通っても常に新たな発見がある場所が、東京国立博物館なのですから。(談)

5.正面階段がスゴい

「これほど荘厳な空間を宿す博物館は他にないでしょう」

本館を入ったすぐの、正面エントランスホール眼前に広がる空間が大理石による大階段。「これぞ『美と知の殿堂』と呼ぶに相応しい荘厳な佇まい。東博を象徴する光景です」

※本記事内では「東京国立博物館」を「東博」と略して記載する場合があります。

サライ2025年5月号大特集は『すべては上野から始まった サライの「東京」』

 

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