
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第13回です。「諸国大名とのやり取りはすべて信長に相談していただこう」と信長(演・小栗旬)が光秀(演・要潤)に伝えていました。
編集者A(以下A):これは、足利義昭(演・尾上右近)が単なる愚鈍な人間ではなかったことの裏返しだと感じています。信長の御輿(みこし)として、権威を保持するだけの存在としておとなしくしていれば、将軍として厚く遇されたと思われます。ところが、義昭はそれが嫌だった。自分で政を取り仕切りたかったのでしょう。足利15代将軍の中には、第6代将軍足利義教が、義昭同様に僧籍から還俗して将軍に就任した後に「独裁的な将軍」になりました。貴族の日記に「万人恐怖」とまで記述されたほどでした。
I:還俗将軍としては、存在感を発揮したかったのでしょうね。さて、この時に信長が発した「殿中御掟」は宛先が、朝山日乗(にちじょう)という僧と光秀宛てになっているのが注目なのですが、劇中では、「天下の儀、何様にも信長に任せ置かるるの上は、誰々によらず、上意を得るに及ばず、分別次第に成敗を成すべきの事」の条が読まれました。
A:はい。信長が義昭に送った「五箇条」ですが、下記の通りです。
●諸国の大名などへ御内書を送る際は、信長の添状も同封すること。
●これまで義昭様が発した下知は全て撤回し、再考すること。
●公儀に忠節を尽くした者たちに恩賞や褒美を与えたいと思った際に、与えるべき領地がなければ、信長の領地からでも上意次第に与えること。
●天下の政に関して、信長に任せ置かれたのだから、相手が誰であっても将軍の意向に関係なく、信長の考えで成敗すること。
●畿内の政治状況が平穏になった上は、禁裏での儀式等は義昭様がしっかり執り行なうこと。
信長と義昭の意識の違い
A:信長と義昭の対立ですが、往々にして小説やドラマなどは信長側からの視点でつくられますから、義昭に非があるように受け止められがちです。ここでは義昭側の視点から考えてみたいと思います。義昭にしてみれば、支えてくれる有力者は多ければ多いほどいいわけです。支援者をもっと増やしたいというのも、納得のいく話です。応仁の乱後の足利将軍は京都を追われることも多く、信長ひとりに頼るのではどうしても不安があったのだと思います。
I:私は、今週の流れを見ていて、実は悪いのは義昭ではなくて、旧来の意識から抜けきらない三淵藤英(演・味方良介)らの将軍側近ではなかったのかと感じてしまいました。側近らに詰められて、イライラしたのか、信長に贈られた「天下人の石=藤戸石」に刀を叩きつけていた場面をみて、義昭の苦悩に寄り添いたくなりました。
A:なるほど。将軍側近同士の不協和音が騒動の起点となるのは足利幕府のお家芸みたいなものですが、大河ドラマ劇中でそのように感じさせる演出は、にくいというか、攻めているというか、ツボを押さえているというか、すごく嬉しいですね。
I:一見、コミカルモードが主流の展開の中での、「硬派コンビ」誕生を思わせるのが、足利義昭と明智光秀ですね。
A:『豊臣兄弟!』の足利義昭と明智光秀は、光秀が主人公だった『麒麟がくる』での長谷川博己さんと滝藤賢一さんとのコンビは別格としても、本作の尾上右近さん、要潤さんのコンビは、大河史上最高レベルの「主従」になっているような気がします。
I:「豊臣兄弟」「織田兄妹」に続いて「義昭・光秀主従」ですか。これは、たまらないですね。
A:こうなってくると、すでに登場している長宗我部元親(演・磯部寛之)との絡みが登場するのかしないのか、ヤキモキしますね。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











