田沼意次、平賀源内、蔦重「三英傑そろい踏み」

I:さて、数週間ぶりに平賀源内(演・安田顕)の登場です。蔦重(演・横浜流星)らとのやり取りの中で、「上様献上」の吉原本という企画を思いつきます。いまならさしずめ、「首相に献上」ということになるのでしょうか。
A:「首相に献上」ってなると、ピンときますが、それだと弱いですよね。「上様献上」という方がしっくりきます。平賀源内が田沼意次と入魂の関係にあったのは事実です。ですから、源内とつながっていれば、老中の田沼意次につながることは可能なわけです。ということで、源内を筆頭に蔦重も加わって意次をたずねることになりました。ここでおもしろいと思ったのは、田沼意次が説明を始めた蔦重に「ありがた山?」「お前ありがた山ではないか」と蔦重のことを覚えていた場面です。一度会っただけで人のことを覚える。実際にこういう記憶力が凄い人いますよね。
I:確かに実際に一度ちらっと会っただけなのに、覚えてくれている人っていうのはいたりします。逆になんど会っても覚えてくれない人もいますが(笑)。
A:私はこのさりげない場面に、田沼意次の才能(人たらしの術)が込められているのではないかと感じました。
I:9代将軍家重の遺言はともかく意次自身が能吏(能力のすぐれた役人)であったということですね。私は、この場面を見て、改めて、田沼意次、平賀源内、蔦重は「三英傑だ!」と感じました。田沼が時代に自由な空気を与え、平賀源内はその空気の中であらゆる才能を発揮する。蔦重は持ち前の「人たらしの術」で、才能を発掘し、作品に取り組ませ、時代を牽引する。
A:三英傑といえば、信長、秀吉、家康なわけですが、それになぞらえたわけですね。確かに源内、蔦重の活躍は、田沼が醸成した自由な空気の賜物でしょう。才能が開花するにはそれなりの舞台が必要だということですよね。
I:「もとの濁りの田沼恋しき」――。覚えておいてほしいフレーズですね。

さようなら瀬川
I:『青楼美人合姿鏡』。当時、オープンになることはなかった高級女郎の「日常生活」を北尾重政(演・橋本淳)、勝川春章(演・前野朋哉)という一流絵師ふたりが描いたという画期的なものでした。その中に瀬川(演・小芝風花)が登場する。現代でいえば、一流カメラマン撮影によるグラビア写真集ということになるでしょうか。
A:歴史の流れでいうと、この『青楼美人合姿鏡』からおよそ50年後のフランスでカメラによる撮影が成功しています(1826年)。最初は露光時間も長く、残されている写真も版画のようにも見えてしまうものでした。そこから技術の発展は急速で、幕末には女郎の姿も写真におさめられることになります。
I:前述の『歴史おもしろBOOK』では、『青楼美人合姿鏡』を2頁にわたって「北尾重政、勝川春章の二大絵師が競演」「人々が憧れる人気花魁の日常生活を描いた」「瀬川は『読書の姿』で登場」「ゴージャス版と通常版を刊行」「吉原V字回復の原動力となった本」というふうに解説していますね。
A:吉原で育って、女郎の日常に精通していた蔦重ならではのアイディアでしょう。実際にこの本の刊行もあって、吉原の賑わいは大変なものだったといいます。
I:そして、鳥山検校(演・市原隼人)に身請けされた瀬川が吉原を去ることになりました。豪奢な宴席、禿(かむろ)や振袖新造の衣装など「儀式」の費用一切合切が鳥山検校の払いということになります。検校に身請けされた瀬川は、吉原から「脱出」できたわけですが、彼女に幸せは訪れるのでしょうか。
A:「瀬川にとって幸せとは?」という問いかけをしたくなりますが、当代随一の人気花魁の身請けはさまざまな本で話題になります。
I:「瀬川もの」と呼ばれる小説のようなものも作られたんですよね。吉原を出た瀬川、どんな暮らしぶりで登場することになるのでしょうか。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
