女房という仕事を、たぶん天職だと思っているのだと思うんですよね。この年齢までここで働いていて、しかも、他の女房さんたちがいいところの出の方が多く、姫様姫様感が抜けていない方が多い中で、その子たちをまとめていくってけっこう大変なことだと思うんですけど、やりがいを感じているんだろうなと思っています。
A:中宮彰子に仕える女房たちは、お姫様気質だということは、まひろが仕える前からちらほらと話題にはなっていました。身分の高い女性が多い中に飛び込んできたまひろについて、やはり身分の高い宮の宣旨はどう思っていたのでしょうか。
最初は、やはり彰子様のことを一番に考えているから、嫉妬という気持ちではなくて、「良かった! すごい人来たじゃん!」っていう。みんなダメだったけど、自分も含めてみんなダメだったけど、なんか変わり玉のすごい人が来たって思っていて、だんだん、お子さん(敦成親王)が生まれたりして、途中からは、藤式部が1日いないだけでものすごく不安がるというか、彰子様が「早く帰ってきて欲しい」と言うのを聞いた時には、ちょっと複雑な気持ちではありましたね。「たった1日なのに私たちじゃダメなんだ」みたいな。「ほかに代わりはいないんだな」っていうのと、半々くらい。まひろさんに対する尊敬と寂しさと。
I:なるほど、宮の宣旨は藤式部ことまひろのことを尊敬もしているんですね。藤式部は部下といえば部下ですが、そんな部下にもちゃんと敬意を持てる、そんな宮の宣旨がますます好きになりました。
A:第38回では宮の宣旨と藤式部がふたりきりで話す場面があって、宮の宣旨はこれまでに増して存在感がありましたね。そして、ちゃんと部下思いの上司でした。
たぶん宮の宣旨から見ると、まひろはちょっと不器用で、一生懸命で、なんだろう、猪突猛進というか、一個、となったらこうなっちゃう子なのかなと思っていて、でも、大切な帝、中宮様ではあるけれど、その前に自分と自分の家族が幸せじゃないと、働くのも自分自身の幸せがあって、だからこそ誰を幸せにできる、誰のために心も体も健康で尽くせるんじゃないかなって思っていました。だから、「そんな夢中にならないで、もうちょっと肩の力を抜いた方がいいんじゃない?」って思っていたと思います。
I:宮の宣旨のような組織を大事にしつつ部下思いな上司、憧れますね。
藤式部に怒る清少納言。藤の花が咲き誇る雅な「藤壺の日常」の裏で行なわれる呪詛と壊れる伊周。平安のリアルが恐ろしい【光る君へ 満喫リポート】に続きます。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり