「あれ? なんて漢字だったっけ」と悩むことが多くなっていませんか? 少しだけ思い出す努力をしてみるものの、結局は「まあ、いいか」と諦めることもあったりして、記憶の衰えを実感することもあるのではないでしょうか? しかし、思い出すことが記憶力の鍛錬につながると言われています。
「脳トレ漢字」第189回は、「杜撰」をご紹介します。ニュースや新聞などでよく目にする「杜撰」。中国の故事が由来となって生まれた言葉であるとされます。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「杜撰」とは何とよむ?
「杜撰」の読み方をご存知でしょうか? 「とせん」ではなく……
正解は……
「ずさん」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「詩や文章に、典拠の確かでないことを書くこと」、「物事がいいかげんで、誤りが多いこと」と説明されています。「杜撰な対応」や「杜撰な管理」など、物事や人に対する対応が雑であることを意味する言葉です。
「あの人は杜撰な人だ」などのように誤用されることがありますが、「杜撰」は、その人の態度や言動がいい加減であるという意味を持つ言葉ですので、人の性格を表す言葉としては使いません。
「杜撰」の漢字の由来は?
では、「杜撰」を構成する漢字を一文字ずつ見ていきましょう。「杜」は、宋代の詩人・杜黙(ともく)のことを指し、「撰」は詩歌や文章を作ることを指します。また、現在では「ずさん」と読みますが、かつては「ずざん」と読むこともあったそうです。
定型詩の形式に合わない詩を多く作っていた、宋の時代の詩人・杜黙(ともく)は、いい加減で大雑把だと批判されることも多かったとされます。この逸話が元となって、「杜黙詩撰(ともくしさん)」という四字熟語ができたと考えられているのです。
「杜翁」とは誰のこと?
「杜撰」の「杜」は中国の詩人・杜黙のことを指していることが分かりました。「杜」という漢字は他にも、ある有名な作家の名前に使われています。それが、「杜翁」です。何と読むかご存知でしょうか? 正解は、トルストイです。
トルストイは、帝政ロシアの小説家で、『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』などを執筆したドストエフスキーとともに、19世紀のロシア文学の発展に大きく貢献しました。代表作には、『幼年時代』や『戦争と平和』などがあります。
名家に生まれたトルストイは、農民の人権を無視する農奴制など、当時のロシアの政治や宗教、教育などを批判しました。国家や社会の矛盾をありのままに描いたトルストイの作風は、後世の作家に大きな影響を与えたと言えます。
また、トルストイの作品は社会運動が盛んになった明治・大正期の日本にも影響を与え、現在に至るまで広く読み継がれることとなったのです。
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いかがでしたか? 今回の「杜撰」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? トルストイの「杜翁」の他にも、「沙翁」と書いてシェイクスピアと読まれることが知られています。
漢字表記にされている偉人は数多く存在するため、ぜひ調べてみてください。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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