100回目の記念大会を迎える箱根駅伝。日本の駅伝ファンを惹き付けてやまない、箱根の魅力とは何か。箱根路を走った瀬古利彦さんに聞いた。

「チームのために無欲で走るランナーの姿が人々の心を揺さぶるのです」

瀬古利彦さん。日本陸連でマラソンなどの強化を図るプロジェクトリーダーを務める。1977年の初マラソンから1988年の現役引退までマラソンは15戦10勝。箱根駅伝は早稲田大学で第53回から4年連続出場。

東京箱根間往復大学駅伝競走、通称・箱根駅伝は、記念すべき第100回を迎える。

お屠蘇気分の1月2日と3日の両日、往路と復路の全長217.1kmを襷リレーする、箱根駅伝のテレビ中継を毎年楽しみにしている読者も多いことだろう。そんな箱根駅伝の魅力を、早稲田大学時代に4年連続で「花の2区」を快走した瀬古さんに語ってもらった。瀬古さんは中学時代は野球部で活躍しながら陸上でも好成績を残し、高校は陸上の名門、三重県立四日市工業高校に進学した。高校では800mと1500mでインターハイの二冠を2年連続で達成、全国から注目される選手になる。

「高校では全国高校駅伝に出場して、2年生のときには区間賞を取りました。陸上は個人競技でありますが、駅伝は襷をつなぐ団体競技です。ひとりの失速でチーム全員に迷惑がかかるのでみんな必死です。選手はチームのために走る。じつに日本的な競技だと思います」(瀬古さん、以下同)

第55回箱根駅伝(1979年)で3区の選手に襷を託す瀬古利彦選手。このときは区間新記録で1位。写真:山田真市/アフロ

早稲田大学では中村清監督(1913~85)と出会い、長距離、とりわけマラソンランナーとしての才能を開花させていくが、瀬古さんにとって箱根駅伝とはどのように映っていたのだろう。

「当時、箱根駅伝は関東のローカルな大会で、東海や西日本出身の選手には馴染みが薄かったと思います。今のようにテレビの実況中継もなかったし、地元の中日新聞にも載っていませんでしたしね」

第56回(1980年)でも区間新を記録。後ろを走るジープ上でマイクを握る人物が早稲田大学の中村清監督。ときには校歌を歌い瀬古選手を奮起させた。写真:山田真市/アフロ

1年から2区を任された。

「浪人時代になんと10kgも太ってしまい、1年のときは権太坂で息切れしてしまいました。結局、区間11位でしたね。でもそれからマラソンの練習を始めると体も絞られて、2年からはよい成績が残せたと思います」

大学時代からマラソンでオリンピック出場を嘱望された瀬古さんは、特別メニューのトレーニングを積む一方で、駅伝という団体競技でチームを牽引した。

「多くの選手は、箱根に出るために大学に入ってきているわけで箱根駅伝が晴れ舞台なんですよ。郷里の両親や親戚に活躍を見せたい。これは今も同じですね」

瀬古選手のために作られた特注シューズ。1988年のソウル五輪で使用した。片足130g。箱根駅伝ミュージアム蔵

ハイライトは往路の山登り

「駅伝は楽だった」と瀬古さんはいう。その理由はこうだ。

「だってマラソンに比べて距離は半分、1時間ちょっとですむ(笑)」

冗談めかして語る瀬古さんだが、箱根駅伝が日本の長距離界に果たした役割は大きいという。

「マラソンでは谷口浩美選手(日本体育大学)を始めとするオリンピック選手を何人も輩出しています。駅伝でオリンピック選手を育てるという、箱根駅伝創始者の金栗四三さんの理念は見事花開いたといえるでしょう」

瀬古さんはテレビ中継の解説も務めるが、どのような思いで選手を見つめているのだろうか。

「ランナーの気持ちが分かりすぎて、つい気を入れすぎた解説をしてしまうことがあります(笑)。ともかく、選手たちがチームのために無欲で走る、そこですね。それが、テレビの前で観戦するみなさんに伝わるのではないでしょうか」

最大の見どころを聞いた。

「往路の5区、山登りです。標高差が800mもありますので気温や天候がガラリと変わる区間で、ここがあるから箱根は読めない。そして山登りを制したものは“山の神”と呼ばれ英雄になれる。5区でどのようにレースが動くのか、今回も注視したいと思います」

※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。

『サライ』2024年1月号の特集は『『ふぐ」で万福』。

 

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