松平信康と五徳の間に生まれた娘たちのその後
I:さて、ここで家康は諸大名との間で婚姻政策を進めます。劇中では詳しく説明されませんでしたが、けっこうな人間ドラマだったんですよね。
A:家康六男(後の松平忠輝)と奥州の伊達政宗息女の五郎八姫(いろはひめ)。後に政宗と忠輝の関係が物議を醸しますが、本作ではどこまで描かれるのでしょうか。
I:私は秀吉の盟友蜂須賀小六の孫の蜂須賀至鎮(よししげ)に嫁いだ万姫に注目です。万姫の父は小笠原秀政、母は登久姫。
A:なんだか涙がこぼれてきそうな話になるのですが、登久姫は家康嫡男であった信康(演・細田佳央太)と信長息女・五徳(演・久保史緒里)との間に生まれた娘になります。つまり、家康は自身と信長の共通のひ孫を秀吉盟友の孫に嫁がせたわけです。
I:登久姫は第25回で妹の熊姫とともにちらっと登場していましたね。そして、妹の熊姫が嫁いだのが本多忠勝(演・山田裕貴)の嫡男忠政。物語はまだまだ続きます。熊姫と本多忠政の嫡男本多忠刻のもとには、徳川秀忠(演・森崎ウィン)と江(演・マイコ)の間に生まれた千姫が嫁ぎます。
A:千姫はその前に豊臣秀頼に嫁ぎますからフライングですよ(笑)。この登久姫と熊姫を育てたのが家康の側室の西郡局ことお葉(演・北香那)なわけです。
I:家康の婚姻政策、もう一組が秀吉子飼いの大名福島正則の嫡男正之です。嫁いだのは松平康元の娘満天姫。康元は家康異父弟(母が於大の方)ですね。
A:この満天姫も後に数奇な運命を辿ることになるわけです。なんだかこの時の家康の婚姻政策に動員された戦国の女性たちだけで1本のドラマが作れそうですね。
I:確かに人間ドラマ満載ですね。このとき、加藤清正にも黒田長政にも家康の養女との縁組がなされました。黒田長政はもともといた正室と離縁までして迎えたくらいです。そこまで仕込んでいたなら、「うっかり」という感じではないですよね。この部分、「狸」といえばタヌキなのですが、松本潤さんの演技というか、狸っぷりがひょうひょうとしながらも重みがあって、なんだか引き込まれましたね。
家康と三成の間に徐々に亀裂が走る
A:家康を「狸」呼ばわりする場面が増えてきましたが、そんなに狸っぽいシーンありましたっけ? なんか私たち、化かされてませんか(笑)? 茶々も〈あのお方は平気で嘘をつく〉と三成につぶやきます。毛利輝元といい茶々といい、三成の性格を知ってか知らずか、結果的に「正義の三成」を意固地にしてしまいます。家康の〈一時の間、豊臣家から政務を預かりたい〉という台詞が地雷だったようですね。
I:前田利家が〈道理だけでは政はできぬ〉と忠告したんですけどね。劇中家康が〈こたびのことはわしの浅慮であった〉と下手に出たにもかかわらず、三成は家康に対して〈天下簒奪の野心ありと見てようございますな〉と断じます。あちゃーという感じでした。
A:視聴者の方々は一連のくだりを見てどう感じたでしょうか。毛利輝元や茶々の「讒言」をうのみにした三成が自滅したと感じたでしょうか。それとも家康がしかけた罠に三成がまんまとはまったと感じたでしょうか。それとも頭が切れても融通が効かない人はダメだよねと感じたでしょうか。
I:家康がしかけた罠ですか? 劇中では描かれていないけれどもそういう「裏設定」があるのかもしれないですね。確かに大名間の縁組は太閤秀吉の許可を得る必要があるというのが定めでした。その定めが秀吉の死去以降も有効なのか否か、有効であればその判断を誰が執行するかということで、私は伊達家、蜂須賀家、福島家などとの縁組は、こういうことをすれば正論派の三成が必ず嚙みついてくることを見越した家康の罠だったのでは? ということですね。
A:ここで、三成が融和的な態度だったら、家康にとって肩透かしということになります。寧々のいう通り、詫びを入れて一献交わしていたら……、でもここまでこじれていたら何をやってもダメだったのかもしれないですね。
I:いよいよ天下分け目に突入ですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり