明軍が朝鮮を救援、戦局が変わる

しかし、その後の戦局は秀吉の思惑通りには進みませんでした。朝鮮の正規軍は弱体化していましたが、朝鮮の農民たちは義兵を組織し、決起。それは、朝鮮全域に広まりました。また、明からの援軍も到着し、日本の補給路は絶たれます。

この間、行長と明の遊撃将軍・沈惟敬(しんいけい)との間で進めていた和議交渉も、戦局が二転、三転するので、なかなか定まりませんでした。

沈惟敬は、行長に対し「まもなく40万の明兵が出動する」などと言って脅しを入れます。その結果、行長は明側の提案を聞き入れることに。和議のための前提条件には、「1:人質となっている朝鮮の皇子を返還すること」、「2:日本軍は漢城を出て、釜山浦まで引き上げること」、「3:日本軍の漢城撤退と同時に、明軍は遼東へ引き上げること」、「4:明は日本に講和使節を派遣すること」というものが挙げられました。なお、この交渉は講和に反対する朝鮮は除外して進められたのです。

しかし、明の軍務経略・宋応昌は、講和使節を派遣する段になって策略を企てます。自身の配下である謝用梓と徐一貫を明皇帝からの使節と偽り、日本へと送り込んだのです。そんなことを知らない石田三成は偽の明使節を日本へ案内し、家康や前田利家は手厚くもてなしました。

文禄2年(1593)6月28日、秀吉は偽の明使節に7か条の和平条件を呈示。勘合貿易の復活協議、朝鮮八道のうち4道の割譲の要求などを求めました。これらは、秀吉が唐入りを決めた時に、計画していたことでもあったのです。

一方、朝鮮では、沈惟敬と行長が秀吉の「降表」(表とは皇帝に奉る文書)を偽造。明皇帝のもとへ偽の講和使節を派遣します。その中には、「日本は朝鮮と和解し、明の宗属国となる」というものもありました。

一連のことは、慶長元年(1596)、大坂城で明の冊封使が来日した際に露見します。明皇帝の誥勅に「茲(ここ)に特に爾(なんじ)を封じて日本国王と為す」(原漢文)とあり、秀吉が呈示した要求には一切触れられていなかったのです。秀吉は激怒し、2回目の朝鮮侵略をもたらします。

現在の大坂城

再び、朝鮮へ…

慶長2年(1597)の再征(慶長の役)は、偽の講和交渉に起因するものでした。したがって、目的も明征服ではなく、朝鮮南四道の奪取に変わります。それ故、日本兵の残虐行為は凄惨を極めたそうです。一方で、明・朝鮮側の抵抗も激しいものとなりました。

翌慶長3年(1598)8月18日、秀吉が死去したことにより、家康を始めとする五大老は朝鮮在陣の諸大名に対し、撤退を指示。この時、家康は秀吉の死を秘して撤退作戦を完遂したと言います。

『九鬼大隅守舩柵之図』

「唐入り」、その後

前後7年にわたる秀吉の唐入りは、前近代社会でほぼ唯一の対外侵略戦争でした。この戦いは多数の犠牲者を生み、日本・明・朝鮮の三国に大きな影響を与えました。

豊臣政権の崩壊を招き、明は国力が衰え女真(清朝)に滅ぼされます。中でも、朝鮮は甚大な被害を被りました。耕地は約3分の1となり、日本軍による大量殺戮行為により、人口は大幅に減少したのです。

また、日本に強制連行された朝鮮人は5〜6万人に上ると言われています。ほとんどの捕虜は農民でしたが、中には陶工、医学、朱子学者もいました。このことにより、薩摩焼・有田焼・萩焼などの基礎や江戸時代朱子学の基礎が築かれた面もあります。

いずれにしても、秀吉の唐入りは、朝鮮に計り知れないほどの深い傷痕を残したのです。

まとめ

秀吉の唐入りは、結果的に豊臣氏の滅亡を早めたと言っても過言ではないでしょう。一方、家康は肥前名護屋に在陣していたとはいえ、戦力を温存することができたのです。

豊臣家にとって、皮肉な結果を招くことになりました。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/京都メディアライン
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)

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