於愛の方を好演した広瀬アリスさん。(C)NHK

ライターI(以下I):家康(演・松本潤)の正室・瀬名(演・有村架純)亡き後、実質的に家康の正室のような立場になったのが於愛の方(演・広瀬アリス)です。後に徳川幕府第二代将軍となる徳川秀忠(演・森崎ウィン)とその弟忠吉の生母になります。

編集者A(以下A):将軍の生母という立場ですが、その生涯は謎に包まれています。家康の側室といえば、秀吉が武家の名門出身の女性を側室に迎えていたのと比較して、実家がそれほど名門ではない、出産経験のある女性を選んでいたと指摘されています。

I:於愛の方がまさにそういう女性でしたね。

A:当欄では、於愛の方にキャスティングされた広瀬アリスさんの扮装写真が公開されたタイミングで、〈(於愛の方は)家康に美貌を見初められたという女性ですが、家康好みということで明るくてざっくばらんな女性だったのでしょう。イメージ的には(1983年の大河ドラマ『徳川家康』で演じた)竹下景子さんより広瀬さんの方が合っている気がしています〉と予測していました。(https://serai.jp/hobby/1122956

I:実際に振り返って見て、ドンピシャな予想になりましたね。今回、於愛の方が主人公ともいえる第36回が放映されるにあたり行なわれた広瀬アリスさんの取材会で、広瀬さん自身もこんな話をしてくれました。

私自身はあんまり意識していないのですが、なんか似てるってよく言われるんです(笑)。おっちょこちょいで、よくバタバタしているところですかね(笑)。初登場の際に人違いをして殿(家康/演・松本潤)のお尻を叩いたり、突拍子もないことをけっこうよくするんです(笑)。演じていて楽しかったですし、ちょっとわかるな、と(笑)。

I:家康のパートナーとして正室瀬名の存在感が大きかったタイミングでの登場でしたから、いろいろ大変だったかと思います。そんな時に、家康役の松本潤さんに助けられたという心温まるお話をしてくれました。

於愛については、ネットから始まり、スタッフさんから頂いた資料を読むなどしました。でも、演じるのはもちろん私なので。殿から、途中から撮影に加わるというのはすごく難しいことだから、本読みした方がいいですよね、とお声がけ頂いて、台本読みに最初に付き合ってくださったんです。資料はもちろんですが、台本読みを通して少しずつイメージを膨らませていきました。

殿は本当に座長として現場を引っ張って下さる方ですし、本当に細やかな気遣いをして下さる方。セリフでやりづらいところがあれば何度も確認してくださったり、360度、常に見ているので、ああ、かっこいいなって思いましたね。家臣団の皆さんが、殿! リーダー! なんて自然に声に出すような雰囲気が現場にあるんですけど、自分が現場に入ってみて、皆さんがそうなっている意味がわかりました。殿と一緒にいる時間が長いとわかるのですが、本当についていきたいと思える方なんです。

I:他のキャストの方もそうですが、広瀬さんも松本さんを「殿」と呼んでいるのが印象的ですね。撮影現場の雰囲気ってやっぱり主人公のキャラ次第という部分が大きいと思うのですが、一足早くクランクアップした石川数正役の松重豊さんが、クランクアップ後も「頑張れ松本潤! と思っている自分がいます」と話していたように、「チーム松本」の結束力は強固なようですね。於愛の方と家康の絡みでは、於愛の方が家康の尻をパシーンと叩くシーンが印象的だったのですが、広瀬さんは、こんなふうに回顧してくれました。

もうどんどん来てくれ、遠慮なんかしなくていいからって言われたんですけど、松本潤さんのお尻を叩くって、私的にはけっこうすごいことだったと思うんですよ(笑)。最初はどうしても遠慮をしちゃっていたんですけど、テストだったり、手元のカットを撮影していたり、引きのカットを撮影しているうちに、だんだん強くなっていきましたね(笑)。何テイク撮影したかは覚えていないのですが、けっこう叩いていました(笑)。慣れてきちゃって(笑)。もう一度、殿のお尻をピシッと叩くシーンがあるのですが、その時にはすっかり叩き慣れたもので、一発でOKでした、はい(笑)。

A:何テイク撮影したか覚えていないって……それは本当に面白いですね(笑)。NHK的にはムリかとは思いますが、すべてのテイクを編集したものを連続再生してほしいですね。

I:またそんなことを言う。それにしても、史実では明らかになっていない於愛の方の前半生や心の葛藤を、ドラマでは説得力のある形で描いてくれましたね。広瀬さんもこう語っています。

第36回で彼女の過去が明かされます。於愛のおおらかな姿や優しさ、明るさが全て伏線になればいいなと思って演じていた部分はありました。こんな善人にいるのかっていうぐらい、明るくて、パッと輝いている太陽のような女性を演じられたらと思っていました。いつも笑顔でいて、とにかく殿にお仕えすることに専念しました。彼女がいることによって、殿が徳川家康という鎧を脱いで、ひとりの人間として居心地良くいられる場所を作る、そんなキャラクターになればいいなと思って第35回までは意識して演じていました。その上で、第36回では今まで見せたことのない於愛の表情を全て出すことで、於愛の苦悩を浮き彫りにしたいと思いました。

A:第36回は、於愛の日記という形で、於愛にスポットを当ててその心情を描いていきますが、これまでにない演出でしたね。広瀬さんはこの演出を活かすために、メリハリのある演技をするよう心掛けていたようです。

第36回のお葉(演・北香那)とのシーンで、明るく会話していたけれど、実はその直後には「私には無理です」「誰かの妻になる気はない」と言っていたことが明るみに出るようになっているんです。そういう緩急が、見ている人たちの心には刺さるのかなと思います。側室でいることについても、例えば木彫りの兎を見ている殿を、遠くから見ているシーンがあります。妻ではあるけれど、本当にお慕いしている方ではない、という心の葛藤がある。でも、それを一切見せないというのが彼女の強さだと思っています。第35回までの彼女の強さというのは、すごく明るくて、その場に光を照らしてくれるところでした。でも、本当は自分の感情を押し殺しながら過去を引きずりながら殿にお仕えしていて、それでも愛を与えようと思っていたけど、実は自分が愛をもらって、すごく助けられていた、そのことに気づける強さがあった、というのが第36回の中でしっかりと描かれてるかなと思っています。

I:最後に広瀬さんは大河ドラマ初登場の感想を語ってくれました。

全部がすごいです。1日2日でセットが変わっちゃうんですが、同じセットなのに世界観ががらっと変わるから、毎回、新鮮な気持ちで現場に行けるんです。衣装をちゃんと着るから、やはり重みがあるんです。その重みが役への重みだったりして、自然と身が引き締まり、背筋もぴんとします。また大河ドラマに挑戦できるのであれば是非、という感じです。

A: 大河ドラマファンとしては、広瀬さんが次回作でどんな人物を演じるのか、想像するのが楽しいですね。個人的には光明皇后とか……。

I:それはもっとも古い時代を描く記念碑的な大河ドラマに出演してほしいということですね。意外とその日は近いかもしれませんね。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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