文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1077952)、スティーヴィー・ワンダーとウェス・モンゴメリーの意外な「幻の共演」を紹介しましたが、ウェスにはほかにも幻の共演があります。その相手はジョン・コルトレーン。共演しているのは事実なのですが、ちょっと「幻」感があるのです。

1961年9月22日、ウェスはジョン・コルトレーンのグループとライヴで共演しました。会場はカリフォルニア州モンタレーで行なわれたモンタレー・ジャズ・フェスティヴァル。コルトレーンのグループにウェスが参加する形でのステージでした。コルトレーンのグループは、コルトレーン(テナー&ソプラノ・サックス)、エリック・ドルフィー(フルート、アルト・サックス、バス・クラリネット)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、レジー・ワークマン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)という当時のベスト・メンバー。ウェスは1時間のステージに全曲参加。そこで演奏されたのは「マイ・フェイヴァリット・シングス」「ナイーマ」「ソー・ホワット」の3曲でした。「マイ・フェイヴァリット・シングス」と「ナイーマ」は、コルトレーンの愛奏曲で人気曲。「ソー・ホワット」は古巣マイルス・デイヴィスのグループで盛んに演奏されていた曲ですから、ウケもよかったと想像できます。『ダウンビート』誌にはそのレヴューが掲載され、ステージの様子は、伝説的な音楽写真家ジム・マーシャル(1936-2010)によって撮影されていて、ふたりが並んでいるステージ写真を現在もマーシャル作品のオフィシャル・サイト(Jim Marshall Photography LLC)で見ることができます。

で、この共演のどこが幻なんだ? という声が聞こえました。はい、そうですよね。でも謎があるのです。

当時のふたりの置かれていた状況はというと、コルトレーンは前年1960年春にマイルス・デイヴィス・クインテットのヨーロッパ・ツアーに参加し、それを最後に脱退独立。同年秋には『マイ・ファイヴァリット・シングス』(アトランティック)を録音し、翌61年春にリリース。タイトル曲はシングル盤がリリースされるほどの人気でした。まさに上り調子、ですね。一方のウェスは前年60年に『インクレディブル・ジャズ・ギター』を発表。それによって61年に『ダウンビート』誌の批評家投票と読者投票でともに第1位を獲得しました。つまりコルトレーンとウェスは、ふたりとも大人気アーティストだったわけです。これはジャズ・ファンなら誰もが期待するであろう「夢の共演」ですよね。

しかし、それにもかかわらずその「音」はこれまで公になっていないのです。1961年のモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ音源は、9月23日のディジー・ガレスピーのステージがCD化されています。また、コルトレーンは61年11月にヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴを4日間に渡って、ゲスト・メンバーを入れてレコーディングしていますので、ライヴ録音には積極的だったはず。ウェスもライヴでこそ本領発揮の人なので、ライヴ録音を嫌う理由はないでしょう(翌62年にライヴの傑作『フル・ハウス』があります)。当時ウェスはリヴァーサイドと、コルトレーンはインパルスと専属契約がありましたが、ゲスト参加共演の例はたくさんあります。このように、最高のライヴになる条件が揃っていたのに、しかも飛び入りではなく、あらかじめ告知されていたにもかかわらず、誰も録音していなかったのです(していればとっくに出ているでしょう)。そこが謎。音だけが幻なのです。まあ、冷静になれば、なんでも音源が残っているはずだと考えるほうがおかしいのですが、この逃した魚は大きいですね。いつか出現することを期待します。


ジョン・コルトレーン『コンプリート・1961・ヴィレッジ・ヴァンガード・レコーディングス』(インパルス)
演奏:コルトレーン(テナー&ソプラノ・サックス)、エリック・ドルフィー(フルート、アルト・サックス、バス・クラリネット)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、レジー・ワークマン(ベース)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、ロイ・ヘインズ(ドラムス)ほか
録音:1961年11月1-3日、5日
ウェスとの共演から、わずか1か月半後のライヴ・レコーディング。4日間もレコーディングしているのは、編成を変えたりゲストを入れたりしているから。ここにウェスがいてほしかった。

ウェス・モンゴメリー『フル・ハウス』(リヴァーサイド)
演奏:ウェス・モンゴメリー(ギター)、ジョニー・グリフィン(テナー・サックス)、ウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、ジミー・コブ(ドラムス)
録音:1962年6月25日
コルトレーンとの共演の翌年のライヴ・レコーディング。バックはマイルス・デイヴィス・クインテットのリズム・セクションで、グリフィンを含め、全員がコルトレーンと共演経験ありということになりますね。

これが1960年代の後半なら、コルトレーン(1967年死去)はフリー・インプロヴィゼーション、ウェス(1968年死去)はイージー・リスニング・ジャズの、それぞれ代表格といえる存在となっていましたので、さすがに共演はありえないのですが、逆に、共演のあと5、6年でふたりがこれほど違う道に進んでいるということは驚きです。振り返れば、楕円軌道に乗った彗星がたまたま1961年に接近遭遇したというくらいの、一期一会のタイミングだったんですね。また、ウェスがコルトレーンのあとにスティーヴィーに接近したということを考えると、あらためてウェスの音楽性の幅の広さと適応能力のすごさを感じます。ウェス晩年の「イージー・リスニング・ジャズ」は、コアなジャズ・ファンには不評だったと伝えられますが、ウェスの豊かな音楽性と経験あってのもので、けっしてイージーな音楽ではないのです。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

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