「B型の人はマイペース」「ナゴヤの人はエビフライが好き」……血液型や出身地で「ああ、あの人はこういう人だから……」と、日本人ほど他人の性格を決めつけて安心したがる国民も珍しいかもしれない。そんななか、歴史上一番有名な「性格の決めつけ」は、
「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」
豊臣秀吉、徳川家康と並ぶ戦国時代の三英傑の一人、織田信長の激烈な性格を表す句だ。
信長は「気が短い」「残忍な」性格だと思われ、歴代の大河ドラマでもたいてい怖い人というキャラクターで描かれる。
たしかにその行動は、時に比叡山を焼き討ち、時に位牌に抹香を投げつけ、時に敵の髑髏に金箔を塗って盃にし……と、枚挙にいとまがない。だがはたして、これだけが、なぜか戦国武将の中でもとりわけ人気のある信長の本当の姿だろうか。
この疑問をきっかけに、徹底的に『信長公記』を読み解き、信長の本当の姿を描き出したのが、岡部雄・著「信長って、どんな人?―『信長公記』に見える本当の姿」(小学館スクウェア刊)だ。
性格や行動ごとにまとめた50の項目
著者は、『信長公記』を読み込んで、そのなかのエピソードから性格や行動を裏付ける記述を見つけ出し、信長は「おしゃれが好きだった」「インチキが嫌いだった」「気配りのできる人だった」「富士山見物をした」など、分かりやすい言葉で50の項目にまとめている。
たとえば、鷹狩りの前に宮中へ向かう際、お供をした御弓衆百人ほどは信長からもらった虎の皮の靫(うつぼ・矢を入れる道具)を背負って歩き、信長は肩に鷹を乗せて歩いた。一行が美しく着飾り街中を練り歩く姿は、まるでファッションショーさながらの光景だっただろう。
また、安土城天守閣にたくさんの提灯をつるし、道には松明を持たせた馬廻り衆を配置、入江には松明をともした船を浮かべ、城下一帯をライトアップしたことなどから「イベントが好きだった」という、現代の私たちもわくわくするような項目もある。
なかには、信長に対して抵抗した一揆勢に対して、伊勢長島の一向一揆では中江、屋長島の両城に立てこもった男女2万人に対して四方から火をつけて焼き殺すよう命じたことを「非情の人だった」としながらも、反対に堀江と小黒の一揆勢については言い分に筋が通っていたので許したことから「寛容だった」という、まったく相反する性格が見られる項目もある。
いつも怒っている人という単純な性格ではないことを知れば知るほど、信長の人間味の深さがわかる。
“覇王”や“第六天魔王”というイメージが強い信長だが、人間の多面性を表す項目によって、信長もひとりの人間だったことをこの本では知ることができる。
読みやすい歴史入門書
これまでの難しい歴史書や研究書とは異なり、1項目1見開きの構成で手軽に読めることも本書の特長だ。
また、装丁の喜怒哀楽を表すポップな信長のイラストも、堅い印象の歴史書とは一線を画している。
これらは、歴史が苦手な人や小学生などの若者が手に取りやすく、歴史に興味を持つきっかけになればという、著者の思いが込められている。
そもそも、『信長公記』は家臣であった太田牛一がまとめた織田信長の生涯記。現代語訳本や関連本などが多く出版され、原案になった漫画やドラマもたくさんある。
しかし、この『信長公記』を丁寧に読めば、まだまだ新たな発見がある。この本を通して信長の見逃していた意外な一面を知ってもらえれば、今後、新たな信長像が生まれるかもしれない。
尾張中村の秀吉、三河気質の家康……と二人は出身地でとやかく言われるが、考えてみれば信長は「どこ出身だから……」とはあまり言われない。いま生きていればエビフライも好きだったに違いないが、海洋による交易を夢見た信長は、所属地「地球」と言ってもよいほどグローバルな人間だ。血液型や県民性では測れないスケールの大きな男「信長」への愛に溢れる一冊だ。
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『信長って、どんな人?―『信長公記』に見える本当の姿』(岡部 雄 著)
小学館スクウェア
BOOKSHOP小学館リンク先:https://www.bookshop-ps.com/bsp/bsp_detail?isbn=9784797987652