忍者のシーンはやっぱり面白い
I:さて、その服部一党の「物語」ですが、瀬名奪還作戦のために服部一党28人が動員されます。そのうちのひとりが物売りに扮して、瀬名付きのおたね(演・豊嶋花)に密かに文を託します。
A:背景の駿府の市中の様子など、美術スタッフの方がしっかり作り込んでいたので、リアリティを感じましたね。漁師小屋なども絶妙な雰囲気。こういう何気ないシーンの背景のリアリティが物語に厚みを与えますよね。
I:瀬名は意を決して父の関口氏純(演・渡部篤郎)、母の巴(演・真矢ミキ)に「計画」について告げました。〈三河なんぞ〉といっていた巴も〈三河の味噌は好きじゃ〉と了解したのですが……。
A:駿府の人間ですから、やはり三河を下に見ているといった風ですよね。三河出身として何か言いたいことがあるのではないですか?
I:三河出身の人間として指摘したいことがあります。劇中の巴の三河観は悔しいですけど、まだいいとして、ネット記事などでも「弱小国三河」と書かれたりするのは納得いきません。三河はもともと足利将軍家一門である吉良家が守護を務めた有力国。当時は吉良家の内紛などもあり、たまたま勢力が衰えていたに過ぎません。そのことは強調しておきたいと思います(キッパリ)。
A:おっと強烈な郷土愛。確かに甲州の武田家や駿遠二国の今川家も内紛がありましたが、吉良家の内紛はだらだらと続きましたからね。尾張の斯波家と三河の吉良家がもう少ししっかりしていたら、戦国の歴史がどうなっていただろうって考えてしまいますよね。
I:さて、服部一党の瀬名奪還作戦はうまくいくのかと思いましたが、前週の元康とお市の祝言と同様にぎりぎりのところでとん挫します。なんと巴がお田鶴(演・関水渚)に別れの挨拶をしていたという大失態があったという設定でした。
A:なかなかに面白い流れでしたね。忍者の登場はやっぱりいいですね。ベテランの千葉哲也さん演じる大鼠がひときわ印象深かったですし、何より山田孝之さんの服部半蔵、ものすごいはまり役って印象でした。視聴者の方はどう受け止めましたかね? しかし、こういうシーンを見ると、伊賀上野城にある「伊賀流忍者博物館」に再訪したくなりますね。
I:伊賀上野城といえば藤堂高虎による30mの高石垣が有名なお城。からくり忍者屋敷はおもしろいです。ところで、本多正信、服部半蔵と見どころ十分な第5回でしたが、元康の雰囲気もだんだん大人になってきたというか、重みを帯びてきた印象です。今後の覚醒、確変の瞬間が見逃せないですね。
A:さて、本多正信と服部一党のお披露目の回ということでエンターテインメントに寄った回になりました。そうした中で、本多正信の〈今川に通じているお方がおられぬとも限らない〉〈その信用厚きご家臣に、先の殿も、先の先の殿も裏切られたのでは?〉という真に迫る台詞がありました。こういう台詞が挿入されると、物語がエンターテインメントに寄ったとしても締まりますね。
I:そうですね。エンタメ重視のシーンは、背景のセットや台詞にリアリティがあればあまり違和感なく見ていられますよね。
A:直球ど真ん中がいいってことでしょうか。さて、次週の瀬名奪還にも注目ですが、本多正信と服部半蔵のシーン、ほんとうによかったですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり