ライターI(以下I): 前週のラストで一ノ谷の合戦が始まったかと思ったら、源氏の勝利で終わったようですね。
編集者A(以下A):義経(演・菅田将暉)と景時(演・中村獅童)が朝廷で後白河院(演・西田敏行)に謁見していました。丹後局(演・鈴木京香)が〈鵯越の逆落とし! 崖を馬に乗って駆け下りたそうな〉と、戦法の話題でもちきりでした。
I:一ノ谷では有名な平敦盛など、平家の公達が何人も討ち死にしています。それぞれに人生があり、建礼門院右京大夫と平資盛との悲恋の物語も語り継がれています。
A:私は、本作で交わされた景時と義経のやり取りに膝を打ちました。景時が〈法皇様は誤解されておられます。九郎殿が降りたのは鵯越ではござらぬ。一ノ谷と鵯越はまったく別の……〉というのを義経が引き取って〈かまわぬ。鵯越の方が響きが良い。馬に乗って駆け下りた方が絵になるしな。平三、そうやって歴史はつくられていくんだ〉とのたまったシーンです。前週に、鵯越と一ノ谷双方を絡めた脚本は、「作者(三谷幸喜氏)の大河愛」だといいましたが、2週にわたって展開するとは……。
I:三谷幸喜さんは、鵯越と一ノ谷の双方を実際に訪れたうえで脚本にしていると感じました。
A:現場となった史跡に足を運んだ形跡もさることながら、本作にかかわる歴史について、最新の学説についてもすべて把握したうえで、大河ドラマという壮大なるエンターテインメントに落とし込んでいると感じています。追々そういうシーンも続出すると思われますので適宜ネタにしていきたいです。
惚れっぽい設定の義経
I:後白河院が手配した白拍子の静(演・石橋静可)に義経が一目ぼれする場面がありました。第13話では、里(演・三浦透子)にも同じく一目ぼれしていましたから、惚れっぽいという設定なのでしょう。
A:現在、その方面への知見はありませんが、「惚れっぽいと〇〇」などという伏線があるのですかね。
木曽義高の死と大姫の悲恋
I:木曽義仲(演・青木崇高)を討ったことで、人質として鎌倉にいた義仲嫡男義高(演・市川染五郎)の処遇に焦点があたりました。
A:頼朝(演・大泉洋)が義高の存在に危機感を抱くのはしょうがないです。なにせ自分自身が父の敵である平家討伐のために挙兵していますし、生存する頼朝兄弟すべてが同じ志を抱いて鎌倉に集結しています。義高を生かしておけば必ずや将来の災いの種になると考えるのはムリもありません。頼朝と義仲は従兄弟ですが、源氏は親兄弟も粛清する血塗られた一族ですから。
I:それでも劇中では大姫(演・落井実結子)の義高に対する思いを受けて、命だけは助けようとします。義高が〈私を生かしておいても、みなさんのためにはなりません〉と健気なところにも心動かされました。ところがいろいろな行き違いがあり、義時(演・小栗旬)がやきもきするシーンも挿入され、手に汗握る展開になりました。なんとかうまくいくかと思いきや、ここでなんと一条忠頼(演・前原滉)が登場して、義高が逃げたことが発覚します。
I:頼朝はいったん義高を討つように命じてしまいます。当然のように御家人やその郎党らが追捕に動いていたわけです。
A:鎌倉殿に取り立ててもらおうと張り切って追捕に参加した感じでしたね。結局、義高は藤内光澄(演・長尾卓磨)に討たれてしまいます。1979年の『草燃える』でも涙を誘うシーンでしたが、あまりにも大姫がかわいそうでした。
I:「頼朝ファミリーの悲劇」の幕が開いた感じですかね。
A:ほんとうに鎌倉とは恐ろしいところ……。しかも、義高粛清にあわせて一条忠頼も粛清されました。「ここで一条忠頼を絡ませるのか!」と びっくりです。一条忠頼は、『吾妻鏡』に謀反の兆しがあったため御所内で粛清された旨の記載がありますが、詳細は記されていません。細かいことをいったらキリがないですが、義高殺害と一条忠頼粛清はほぼ同時期。本作の解釈も「なるほど~」という印象です。
I:〈こたびはそなたが一番手柄じゃ〉とおだてておいて、〈で、義高と何を話した〉と詰問します。なんと恐ろしい頼朝。そもそも北条義時を主人公とする本作にとって、武田信義(演・八嶋智人)、一条忠頼ら甲斐源氏を何度も登場させる必要はあまりないと思うのです。有名な富士川の戦いに登場するのはともかく、挙兵時に時政(演・坂東彌十郎)が武田を口説きに出向いたり、節目節目に短いながらも出番を与えられました。
A:私たちはなんとなく、最初から頼朝が「源氏の棟梁」で彼中心で物事が動いていたと錯覚しますが、おそらく、劇中で武田信義が、源氏の棟梁は自分だと思っていたり、〈頼朝の家人ではない〉という台詞を発していたことでわかる通り、実際は、頼朝と甲斐源氏はある時期まで鎬を削る関係だったのでしょう。それを強調するため甲斐源氏の出番が多くなったのではないでしょうか。
I:武田信義ら甲斐源氏を照射することで、まさに「歴史はこうしてつくられる」が浮かび上がっているということでしょうか。そういう意味では、とても丁寧な描写で改めて感心します。さて、義高が討たれ、一条忠頼も討たれました。騒動はそれだけで終わらず、義高の首をとった藤内光澄まで討たれます。罪なくして斬られたわけで、あまりに哀れです。「鎌倉の闇」極まれり。まるでマフィア映画を見ているような感じです。
A:確かにマフィア映画とか実録やくざ映画のような展開でした。〈姉上は決して許さぬと申された。鎌倉殿はそれを重く受け止められた。あなたが許さぬということはそういうことなのです〉。もはや義時も血のにおいに慣れてしまった感があります。
I:〈我らはもうかつての我らではないのです〉――。なんだかしびれる台詞でしたね。
作者と「高麗屋」もうひとつの物語
A:ところで作者の三谷幸喜さんは、1970年代後半の多感な少年時代に『風と雲と虹と』『花神』『黄金の日日』や『草燃える』などの大河ドラマを熱心に視聴していたことを明言しています。中でも二代目松本白鸚さんが主人公の呂宗助左衛門を演じた『黄金の日日』への思いは特別とのことです。
I:2016年の『真田丸』では、二代目松本白鸚さんがなんと38年ぶりに呂宋助左衛門を演じて話題になりましたが、作者の3回目の大河ドラマになる本作では、白鸚さんのお孫さんにあたる市川染五郎(八代目)が木曽義高を演じました。
A:44年前の大河ドラマに端を発する「高麗屋」と三谷さんとのつながりも年数からいってまさに大河ストーリー。そんなことを思って少し感動しています。
I:ところで、粛清が続くシリアスな展開の中で、全成(演・新納慎也)が頼朝に扮して、義高の見張を欺くシーンがありました。義高の死、一条忠頼の粛清、藤内光澄の不条理な処刑と暗い場面が続いたので、全成のシーンに救われた感じがします。
A:そうですか。救われましたか。そういえば実録やくざ映画の金字塔である『仁義なき戦い』でもクスッと笑えるシーンがけっこうありましたよ。
I:Aさんやくざ映画と比較するのが好きですよね。第17話は、GW中の5月1日の放映ですが、5月3日には『プロフェッショナル仕事の流儀』で義時役の小栗旬さんが登場するそうです。
A:回を追うにしたがって、表情・動き・決断と、すべての面に「義時の成長」を実感させてくれる好演が続いていますが、その舞台裏、興味深いです。私たち大河ドラマファンと『仕事の流儀』の制作スタッフの思い・視点がシンクロするのかどうか、ちょっと注目です。そして、以前からリクエストをしていますが、次回は、大河ドラマを支える美術スタッフやVFX(ビジュアル・エフェクツ)スタッフを取り上げてほしいですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり