「なぜ、自分は生まれてきたのだろう」。嬉しいことも、悲しいことも、たくさん経験したにも関わらず、いい大人になっても、こんな問いを立ててみたくなるときがあります。例えば、自分よりも若くして亡くなった友人のことを思うとき、数年前とは全く違う感覚で、人生の残り時間がいよいよ少なくなってきたことを実感するとき。自分が存在していることの不思議、いのちそのものへの素朴な疑問が湧いてきす。

10代、20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代、90代、その時々で「こんな人間になりたい」「こんなことをしたい」といったことが出てきます。どの年代においても、叶うこと、叶わないことも身を持って経験しながら、人それぞれ、その時々の「責任」を果たしているような気がいたします。何もかも嫌になって、投げ出したくなったこともあったでしょう。一方で、弱音を吐かず、大切にしたいことをなんとしてでも、守ってきた方もおられるかもしれません。

サライ読者の皆さんは、今、どのように自分を生きておられますか。

今回とりあげる“渋沢栄一 心のことば”は、「人がこの世に生まれた責任」を問うことばです。「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一が、生涯をかけて貫き、大事にしてきた精神が宿った心のことばを紹介いたします。

渋沢栄一の心を読み解く

およそ人たるものは、この世を
黄金世界となすべき責任あるものと
自覚して、国家につくすべきものである

『渋沢栄一訓言集 処事と接物』にある言葉です。この言葉の意図するところは……

栄一は、そもそも「人としてこの世に生まれ来たりし上は、そこになんらかの目的がなくてはならない」と考えています。「人はこの世を『黄金の世界』にする責任がある」と自覚すること、「国家につくす」ことを本気で説いているのです。

では、少し視点を変えて、これまで自分が自覚したことのある「責任」について思い返してみましょう。子どもの頃なら、犬や猫などのペットの世話、買ってもらったものを大切にすること、今は18歳ですが、20歳で成人式を迎えると選挙権が与えられ、お酒やタバコも許され「大人」になる責任。結婚・子育てによる家族への責任。職業人としての責任。自治会などの地域の一員としての責任などなど、考えればキリがありません。

では、なぜ、私たちは、それらの責任を果たしてきたのでしょうか? 「自分と家族を守ため」「幸福でいるため」「せっかく生まれてきたのだから、自分の人生を満喫するため」などが思い浮かびます。最近は「自己責任」という言葉で、自分の身に起きることについて「責任」が追求される厳しい印象を受けます。しかし、渋沢栄一の「責任」には、「自分の行為が、この世を輝かせていると、責任を持って言えるか? 国のためにつくすと考えて行動すると、この世が黄金世界となって、あなたも含めてみんなが暮らしやすくなる」ことが、希望を持って、問い直されているような気がいたします。

自分の行動が「この世を黄金世界」にすることにつながっているなんて、とても素敵なことだと思いませんか。どう考えても、自分の行動が黄金世界につながらない時は、行動そのものを考え直すサインかもしれません。「何のために、自分はこんなにも苦しい思いをして、責任を感じているのだろう?」と迷った時こそ、確認してみてください。

たとえ、ささやかな行為でも、この世を黄金世界にしていると思えることであれば、その積み重ねで周囲も輝きが増していきます。指針の一つにすると、本当にやるべきことが見つかりそうです。何歳になっても、「この世を黄金世界となすべきこと」なら、明るい気持ちで、人生をまっとうできそうな気がしてきませんか。

そして、みなさんご承知の通り、2024年、20年ぶりに刷新されることになった新紙幣の一万円札に、「渋沢栄一」が描かれます。渋沢栄一は、自分だけが儲けることをよしとせず、一貫して日本の社会全体が発展していくことを目指した実業家でした。渋沢栄一の新紙幣を「この世を黄金世界とする」ことに使っていきたいですね。ふと我欲が溢れてきた時は、お札を見ながら、この言葉を思い出すことにしたいです。

それでは、皆様にご高覧いただきました「渋沢栄一 心のことば」は、今回をもちまして、最終回となります。これを機会に渋沢栄一とその名言にご興味を持っていただければ、幸いです。ありがとうございました。

※ことばの解釈は、あくまでも編集部おける独自の解釈です。

渋沢栄一ゆかりの地:東京都健康長寿医療センター「養育院・渋沢記念コーナー」

第9回「渋沢栄一、ゆかりの地」では、渋沢栄一が明治5年(1872)に設立した「養育院」を前身とする「東京都健康長寿医療センター」の「養育院・渋沢記念コーナー」をご紹介します。渋沢栄一は、39歳から91歳で亡くなるまでの50年以上も、生活に困窮する人々を支える「養育院」の院長を務めています。栄一が他界した後も、平成12年(2000)に東京都庁の一部門になり廃止されるまで、養育院は約130年続きました。その足跡を辿ることができるコーナーは、高い天井の円形スペースで、大きな窓に囲まれ陽光が差しこむ開放感のある空間にあります。

通常なら、ぜひとも訪ねてほしい場所ですが、このコーナーは病院の待合・休憩の場所に設けられているため、新型コロナウイルス感染症対策中は見学目的での入室ができません。

その代わりに今回は、「養育院・渋沢記念コーナー」がとてもよくわかる充実のホームページをご紹介します。訪問しなくても、動画で体験できる「バーチャルツアー」や「明治5年の養育院創立から現在に至る歴史」の解説、「展示ガイド」などが無料でダウンロードできます。

なかでも面白いのが、ペーパークラフト「養育院院長渋沢栄一銅像」です。病院内にある大きな渋沢栄一の銅像がペーパークラフトで登場。作り方もわかりやすく紹介されており、わが家に栄一をお迎えできます。この銅像にまつわる話を紹介した冊子では、栄一の生涯と養育院の歴史を伝えられてます。そのほか、歴史エピソードを紹介するリーフレット「櫻園(おうえん)通信」なども見逃せません。いつか、訪問できる日を楽しみにしながら、栄一が生涯をかけて大切にし続けた養育院の軌跡に触れてください。

東京都健康長寿医療センター「養育院・渋沢記念コーナー」
ホームページ:https://www.tmghig.jp/hospital/facilities/youikuin-shibusawa/ 
住所:東京都板橋区栄町35番2号
利用時間 平日9:00~17:00
アクセス:東武東上線「大山」駅下車、南口・北口より徒歩4分、都営地下鉄三田線「板橋区役所前」駅下車、A3出口から徒歩11分
入館料:無料
※【注意】新型コロナウイルス感染症対策中は、1:見学目的での来室はできません(通院・入院されている方、および、つきそいの方のみ可)。2:図書の貸出サービスも休止。詳細は事前にH Pなどで確認ください。

肖像画・アニメーション/鈴木菜々絵(京都メディアライン)
文/奈上水香(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com
Facebook:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

引用・参考図書
『渋沢栄一 100の訓言「日本資本主義の父」が教える黄金の知恵』渋澤健/日経ビジネス人文庫
『渋沢栄一訓言集』渋沢青淵記念財団竜門社編/図書刊行会

 

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