写真・文/藪内成基

紅葉に彩られ、ますます旅情を感じさせてくれる秋の城。数ある城のなかで、今秋訪れたい城を『講談社ポケット百科シリーズ 日本の城200』(講談社)の著者が厳選。NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公・渋沢栄一ゆかりの地から近く、秋らしい景色を愛でながら、じっくりと散策を楽しめる3城です。

「栄一誕生の地」深谷から、戦国大名が争奪した箕輪城へ

周囲を土で盛り上げて囲いを造り、兵が待機した攻撃拠点「郭馬出」
伝統的工法で復元された郭馬出西虎口門

天保11年(1840)、実業家・渋沢栄一は血洗島(現・埼玉県深谷市)で農家の子として誕生し、幼少の頃から家業である藍の製造販売を手伝います。栄一の原点ともいえる深谷では、「渋沢栄一 青天を衝け 深谷大河ドラマ館」が2022年1月10日まで開設中。大河ドラマで使用された小道具や衣装の展示、ストーリーやキャスト紹介のパネルの展示など、大河ドラマの世界観が体験できます。

大河ドラマ館の最寄り駅、JR深谷駅から群馬県高崎市へと足をのばせば、より深く歴史散策が楽しめます。JR深谷駅からJR高崎駅まで、JR高崎線で約30分。JR高崎駅から西に約1kmの位置には、栄一が乗っ取ろうと計画した高崎城(群馬県高崎市)があります。

そして、同じ高崎市にある箕輪城もぜひ訪れたい名城です。箕輪城は、関東管領・山内上杉家の家臣・長野業政の居城として名を馳せ、業政の死後は戦国大名・武田氏や北条氏らが城主となり、北関東の要衝として重視されました。城内では幅30m、深さ20mを超える大堀切や、井伊直政の時代に整備された郭馬出西虎口門(復元)などが見られます。直政は「徳川四天王」に数えられた徳川家康の重臣で、直政が中心機能を高崎城に移すと箕輪城は廃城となりました。

箕輪城は榛名山東南麓の丘陵上に築かれているため、城内からは関東平野がよく見わたせます。栄一が生まれた血洗島方面を望み、栄一に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

■渋沢栄一 青天を衝け 深谷大河ドラマ館
所在地:埼玉県深谷市仲町20-2
アクセス:JR高崎線「深谷」駅から徒歩約16分
開設期間:〜2022年1月10日(月・祝)

■箕輪城
所在地:群馬県高崎市箕郷町西明屋
アクセス:JR「高崎」駅から群馬バスで約40分、「城山入口」停留所から徒歩約5分(登城口)

栄一の思想に影響を及ぼした水戸藩と、本拠地・水戸城 

伝統工法によって復元された水戸城大手門
本丸と二の丸をへだてる堀にJR水郡線がのびる

若き栄一が仕えた人物が、のちに15代将軍となる一橋慶喜でした。天保8年(1837)、慶喜は9代水戸藩主・徳川斉昭の7男として江戸で生まれ、斉昭の教育方針から幼少期より水戸へ移り、藩校・弘道館で学びます。水戸城の三の丸に建てられた弘道館を拠点として、「尊皇攘夷」を掲げる水戸学が発展し、栄一にも大きな影響を及ぼしました。

弘道館と向かい合うように、2020年2月に復元された水戸城大手門が威容を誇ります。「水戸学の道」をたどり大手門をくぐると、2代水戸藩主・徳川光圀(水戸黄門)が『大日本史』の編纂事業を行った旧彰考館跡が広がります。現在は記念碑とともに「二の丸展示館」が設置され、水戸城に関する資料を公開しているほか、栄一に関連する企画展が開催されています。

水戸学の道を奥(南東)へと進んでいくと、水戸第一高等学校前の手前に掘られた堀に当たります。この堀は現在、JR水郡線に利用されているほど巨大な堀で、堀や土塁を駆使し、石垣を用いていないのが水戸城の大きな特徴です。水戸第一高等学校が立つ場所には、かつて水戸城の本丸がありました。

■水戸城跡二の丸展示館
所在地:茨城県水戸市三の丸2-9-22
アクセス:JR常磐線「水戸」駅から徒歩約10分
会期:~2021年12月26日(日)

栄一が好機をつかんだ井原から、「天空の城」備中松山城へ

備中松山城の天守(奥)は高さ11mで、現存する天守のなかで最も低い
岩盤の上に石垣を築いた大手門は圧巻の景観
石火矢町ふるさと村には、武家屋敷や城下町の町割りが残る

一橋家に仕えた栄一は慶応元年(1865)、農兵を集めるために領地内の備中国西江原村(現・岡山県井原市)を訪れました。農兵の募集で実績を残した栄一は、慶喜に認められて飛躍するきっかけとなります。

井原鉄道井原駅近くに位置する「井原市文化財センター 古代まほろば館」では、栄一が井原で農兵募集の職務に当たった史実を伝える資料をはじめ、直筆の書簡が展示されています。また、栄一と漢学者・阪谷朗廬(さかたにろうろ)との交流を解説したパネルが展示されています。一橋家と地元有力者が運営した郷校・興譲館の初代館長が朗廬でした。

井原から、天守が現存する備中松山城へも足をのばしてみてはいかがでしょうか。井原駅から井原鉄道とJR伯備線を乗り継いで、備中松山城の起点となるJR備中高梁駅まで約1~2時間です。

備中松山城は、4つの峰から成る臥牛山の小松山山頂(標高約430m)の中心に築かれた近世城郭を指します。天守が現存する城のなかで唯一の山城で、天守のほか二重櫓や土塀の一部が現存(ともに国指定重要文化財)。岩と一体化した石垣は迫力満点ですし、秋には赤いシュウメイギクが天守を支える岩盤に咲き誇ります。

備中松山城は「天空の城」としても知られ、秋から冬にかけて濃い雲海が見られます。雲海をまとい、紅葉に彩られた備中松山城を見られるのは、秋ならではの醍醐味です。

「備中の小京都」とよばれる、備中高梁の城下町もじっくり散策してみてください。備中松山城のふもとには「石火矢町(いしびやちょう)ふるさと村」が整備され、格式ある門構えの武家屋敷が約250mに渡って立ち並んでいます。石火矢町ふるさと村付近にある「頼久寺」には、備中松山城を改修した小堀遠州(政一)が作庭した庭園が残っています。

「山田方谷記念館」には、幕末の備中松山藩で藩政改革を成し遂げた、山田方谷ゆかりの資料が展示されています。栄一と同様、幕末に頭角を現した方谷でしたが、明治維新後は世に出ることを拒み、教育に専念しました。

■井原市文化財センター 古代まほろば館
所在地:岡山県井原市井原町333-1
アクセス:井原鉄道「井原」駅から徒歩約12分
会期:~2022年1月30日(日)

■備中松山城
所在地:岡山県高梁市内山下1
アクセス:JR伯備線「備中高梁」駅から徒歩約30分(登城口)

栄一ゆかりの地とともに近くの名城を訪れると、栄一の見ていた景色や人との交流など、新たな一面が浮かび上がってくるかも知れません。栄一の足跡を感じながら、秋深まる名城をじっくりと散策してみてはいかがでしょうか。

※歴史的事実は、各自治体が発信している情報(公式ホームページ等)を参照しています。


講談社ポケット百科シリーズ 日本の城200

藪内成基著、小和田哲男監修
2021年7月30日発売
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写真・文/藪内成基
国内・海外合わせて年間100以上の城を訪ね、執筆活動を展開。著書に『講談社ポケット百科シリーズ 日本の城200』(講談社、2021)。日本城郭協会公認サイト「城びと」などで執筆。城めぐりツアー(クラブツーリズム)の監修・ガイドを務める。

 

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