前回、ブルーノート・レコードのシングル盤について、「アルバムのラインナップとは傾向が異なる」と紹介しました。しかし、この連載ではそもそも、そのアルバムのラインナップを紹介していませんでした。今回はブルーノートのアルバムのラインナップについて見ていきましょう。

ブルーノート・レコードは1939年に設立されました。これまで何度か紹介していますが、その当時のレコードはSP盤で、1940年代末にLP盤とシングル盤が普及し始めました。当初のLPは多くが10インチ(25センチ)でしたが、その後12インチ(30センチ)が主流になり、ほとんどのレコード・メーカーは12インチLPを基本フォーマットとして「アルバム」を制作するようになり、それまで出ていた多くの10インチLPは12インチで再編集・再発売されました。ここではその12インチLPを「アルバム」として紹介します。

ブルーノートの12インチLPアルバムは1955年からリリースが始まりました。タイミングは45回転シングル盤と同じです。シングル盤もLP盤も、ブルーノートはレコード業界的には遅いスタートといえます。記念すべき最初のレコードは、番号が1501番の『マイルス・デイヴィス vol.1』でした。これは、かつて10インチLPでリリースされていた音源の「再発」ヴァージョンでした。人気者を最初に持ってくるのはビジネスの基本ですね。以降、レコード番号順に1600番までリリースされ、その後は4001番に飛んで連番で続きます。番号が飛んだ理由は、1600番台をSPとシングル盤で使っていたので、混同を避けるためといわれています。

そして4000番台でのリリースは4423番まで続きました(一部欠番あり)。その発売は1972年ころ。第90回で紹介した、シングルの連番体制が終了した時期と同じです。というか、会社の体制が変わったことで同時に終わったのです。この間、シングルは約330枚が、LPは約470枚がリリースされました。さて、今回の本題です。この中で誰のアルバムがいちばん多かったのか。結果は……。

第1位:ジミー・スミス 27枚
第2位:アート・ブレイキー/アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ 23枚
第3位:ルー・ドナルドソン 21枚
第4位(同順):ホレス・シルヴァー、グラント・グリーン 18枚
第6位(同順):スタンリー・タレンタイン、ドナルド・バード 17枚
第8位:リー・モーガン 16枚
第9位:ジャッキー・マクリーン 15枚
第10位(同順):ハンク・モブレー、ザ・スリー・サウンズ 14枚
(単独名義のみで分類)


ジミー・スミス『ミッドナイト・スペシャル』(ブルーノート LP/シングル)
演奏:ジミー・スミス(オルガン)、スタンリー・タレンタイン(テナー・サックス)、ケニー・バレル(ギター)、ドナルド・ベイリー(ドラムス)
録音:1960年4月25日
このアルバムは62年3月に、ビルボード誌の総合アルバム・チャートで28位、タイトル曲のシングル盤は総合シングル・チャートの69位というヒットになった。これらはブルーノートにとって、両チャートとも初のランクイン作品となった。


前回のシングル・ランキングと比べてみてください。そこで「意外」と紹介した人たちが、ここでもちゃんと上位にいました。シングルでは下位だったモーガン、マクリーンはアルバムに比重が置かれていたようにも見えますが、広く見ればシングル・ランキングは意外ではなく、ブルーノートではシングルをたくさん出した人はアルバムもたくさん出している、といえそうです。えー、前回のコメントは既成のイメージに縛られすぎていました。誠に申し訳ないところです。彼らこそ本当の「ブルーノート・アーティスト」だったのです。

ひとつ大事なことが抜けていました。ジミー・スミスは1962年にブルーノートを離れてヴァーヴに移籍しています。もしそれがなければ、(ヴァーヴでもヒットが続いたので)もっとたくさんシングルもアルバムも作っていたことでしょう(いきさつの詳細は第69回参照)。スミス移籍後のブルーノートには、新主流派もそこそこありますし(フレディ・ハバード10枚、ウェイン・ショーター8枚、ハービー・ハンコック7枚)、オーネット・コールマン(5枚)もセシル・テイラー(2枚)もいますが、スミスを超える数の作品を作ったアーティストは現われませんでした。モダン・ジャズ時代のブルーノート・レーベルを代表するアーティストは、名実ともにまぎれもなくジミー・スミスだった、というのが今回の結論。もっと人気があってもよさそうな気もしますが、これも既成のイメージに縛られすぎている感想なのかも。

(参考資料:『文芸別冊 ブルーノート」(河出書房新社刊)、 jazz Discography Project [www.jazzdisco.org/]

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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