文/鈴木拓也
せき、鼻詰まり、のど痛があるが、どうも風邪ではない。しかも、疲労感がつきまとい、憂鬱な気分が晴れない。
「これは、おかしい」と思い、あちこちの医院で診てもらったが、どこでも異常はないと言われる。
こうした不定愁訴に長い間悩んでいるなら、両耳下の首すじのあたりを中指で押してほしい。これで痛みや、筋肉の強いハリを感じるだろうか。また、ふだん口呼吸であるとか、鼻水が鼻でなくのどから流れ落ちてへばりつくような感覚がないだろうか。
これらが当てはまるようなら、「慢性上咽頭炎」にかかっている可能性がある。
■9割以上の医師が知らない病気
この聞きなれない病気は、鼻の奥、言い換えると気道の最上部に位置する上咽頭が、慢性的に炎症を起こし、さまざまな症状をもたらすというもの。症状には、風邪に似たものから、肩や首のこり、不眠症や慢性疲労症候群、さらには自律神経が影響を受けて認知機能障害やうつといった精神症状まで含まれる。
風邪をきっかけにかかることもあり、誰でも発症リスクがある病気だという。なのに、「九割以上の医師は“慢性上咽頭炎”の概念を知りません。なぜならば、現在の医学書に“慢性上咽頭炎”の記載がないからです」と指摘するのは、堀田修クリニックの堀田修院長だ。
この病気の専門家である堀田院長のもとには、毎日百人を超す患者が全国から訪れる。慢性上咽頭炎と診断されると、適切な治療を受け、患者によっては1回で劇的に改善するという。
堀田院長は、予防のためのセルフケアも含め、慢性上咽頭炎のA to Zを著書『自律神経を整えたいなら上咽頭を鍛えなさい』(世界文化社)に記している。今回は本書をもとに、この病気の治療法と予防法を紹介しよう。
■頭痛やこりなら数回で改善を実感
堀田院長が、慢性上咽頭炎の患者に行う治療は上咽頭擦過療法(EAT)と呼ばれる。これは、塩化亜鉛溶液(消炎、殺菌、抗ウイルス効果がある)をしみこませた綿棒をまず鼻に、それから別の綿棒を口に入れ、上咽頭の後壁を、まんべんなく強めにこすりつける。強い炎症がある患者だと、しみるような痛みを感じ、出血もある。
1回あたり1分程度で終わるシンプルな治療法だが、「週1~2回のペースで、まず10~15回を目安に継続してください」と述べているように、しばらく通院を続ける必要はある。もっとも、頭痛やこりなどは、最初の数回で改善効果を実感できるという。症状によって、早めに良くなるのもあれば、遅いものもある。
また、「著効を示す」という意味で特筆すべきは、機能性頭痛全般に効果が発揮できるという点だろう。機能性頭痛とは、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛を指すが、これらすべてに症状軽減が認められるそうだ。
たとえば、片頭痛の患者さんでは、EATを行った際、上咽頭に痛みを感じるポイントがあります。そして、このポイントをピンポイント治療に適した細いアルミ製の鼻綿棒で丹念に何度もつつくと、頭痛が消失するのです。これは、神経系の負荷となっているトリガーポイントを綿棒で機械的に刺激したことにより、それまで神経を刺激していた異常なエネルギー負荷が解放されたからと考えられるのです。(本書87pより)
堀田院長は、すべての機能性頭痛の原因が上咽頭炎だとは断定していないが、「EATを頭痛に対するひとつの解決策として取り入れることは有意義」と述べている。
■セルフケアで上咽頭は鍛えられる
本書の中で堀田院長は、「自分でできる! 上咽頭の鍛え方」という章をもうけ、通院期間中のセルフケアあるいは予防策として、比較的簡単にできる上咽頭の健康法をいくつか記している。
その1つが鼻うがいだ。これは、上咽頭を含めた鼻腔全体を直接洗い流すというもので、花粉などのアレルゲンを除去し、鼻詰まりを解消し、風邪の予防にもなるという。
用意するのは生理食塩水(水500mlに小さじ2/3程度の食塩をよく溶かしたもの)と(鼻に差し込める)ノズルのついたプラスチックボトル。
やり方は、「できるだけ前かがみになり、片方の鼻から生理食塩水を入れ、もう片方の鼻から出す」。これを左右の鼻について行い、2回繰り返す。終わったら、片鼻ずつ軽く鼻をかむ(本書には上咽頭をピンポイントで洗浄する上咽頭洗浄の方法も記載されている)。
また、日常的な注意事項として「首の後ろは絶対に冷やさない」というのがある。これは、首を冷やすとうっ血して、上咽頭の炎症を招くため。逆にここを温めると、慢性上咽頭炎のうっ血が改善され、首周りの筋肉の緊張もほぐれて首や肩のこりもやわらぐという。これからの暑い季節でも、首を冷やす湿布などは避けるのが吉。
さらに、口呼吸の改善。口で呼吸をすると「汚れた空気の一部が直接上咽頭に流れ込み」、そこに炎症を引き起こす。口呼吸をする人のほとんどに重度の慢性上咽頭炎が見られるとのことで、鼻呼吸が習慣化できるようにするメソッドも取り上げられている。
* * *
本書の終章にある改善症例には、うつからくる諸症状、長年の頭痛、声がれが全快するなど劇的な報告がある。方々の医師に診てもらっても改善が見られない不定愁訴があるなら、もしかするとそれは慢性上咽頭炎かもしれない。なにかしら思い当たるようであれば、EATが受けられる医療機関の門を叩いてみてはいかがだろう(https://jfir.jp/eat-facilities/に全国の対応可能な医療機関一覧がある)。
【今日の健康に良い1冊】
『自律神経を整えたいなら上咽頭を鍛えなさい』
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/19437.html
(堀田修著、本体1200円+税、世界文化社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。