文/鈴木拓也
■日本人の死亡原因の上位を占める「血管の病気」
厚生労働省の統計によれば、日本人の死亡原因の1位はがんで、2位は心疾患、そして3位が脳血管疾患となっている。
2位と3位は血管の病気であり、いかに多くの日本人が血管の問題を抱えているかがよくわかる。そのため、世の中では「血液をサラサラにする食生活」「毛細血管をケアする方法」など、血液や血管の状態を改善するという様々な方法が出回っている。
そうした方法とは異なる視点から、「血管力」を高める方法を提唱するのは、「実年齢は57歳、血管年齢は28歳」という、池谷医院の池谷敏郎院長だ。
池谷院長の言う「血管力」とは、「血管全体がしなやかであること」と「血管の内側がなめらかで、血液をスムーズに循環させられること」の2点。この条件を満たしてこそ、血管が健康であるという。
■手足の冷えなどは「血管力」低下の恐れあり
池谷院長の著書『血管を強くする1分正座』では、血管力の高低が判定できる簡単なテストがある。下記のいくつかが当てはまるだろうか?
□朝起きるのがつらい
□しっかり睡眠をとっても1日中体がだるい
□首や肩の凝りがひどい
□手足が冷えている
□歩くのが遅くなった
□足がむくむ
当てはまる項目が多いほど、血管力は低くなっている恐れがある。つまり、すみずみの細胞まで血流(栄養)が行き渡らず、疲労物質なども回収してもらえていない状況。また、「歩くのが遅くなった」は、足腰の筋力の衰えというより、もしかすると「狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患が隠れている」可能性もあるという。
だが、「血管力は、いくつになっても高めることは可能」だと池谷院長は語る。それが本書で解説されている「1分正座」だ。
■1分間の正座で血管力が高まる
「1分正座」とは、文字通り「1分間、正座をする」こと。1日に何回かこれをするだけで、血管力が改善されてゆくという。
ただ、加齢によって体が硬くなっている人は、以下の「ほぐし正座」から始めよう。
1. 椅子や座布団などの段差を利用して、足が浮くように正座をする。足先を解放することで、体が硬い人でも行いやすくなる。上半身の重みを利用して、脚の血管に圧を加える。
2. 1分経過したら正座をやめる。
「ほぐし正座」の体勢(本書71pより)
また、サライ世代に多い膝痛がある人は、以下の「立って血管マッサージ」を行う。正座と同じ効果を得られ、変形性膝関節症を予防し、変形した膝の改善にも役立つという。
1. 机や手すりで体を支えながら、右脚を持ち上げてかかとを浮かせる。脚をまっすぐ伸ばし、つま先をできるだけ顔のほうへ向ける。30秒~1分間キープしたら脚を下ろす。
2. 左側も同様に、朝昼晩の3回行う。膝をガードする筋肉が鍛えられるので、膝痛も改善される。
「立って血管マッサージ」の体勢(本書76pより)
■血管内壁から出る一酸化窒素がカギ
ところで、なぜ正座というシンプルな方法で血管力が高まるのだろうか?
そのキーワードは「一酸化窒素(NO)」だという。
池谷院長によれば、NOは血管の内側の壁から分泌されるもので、「血管を押し広げて、血流をよくする」「傷ついた血管を修復する」はたらきがあるという。つまり、NOは血管力をアップさせる立役者というわけだ。
ただし、NOはのべつまくなしに分泌されるわけでなく、血流が勢いよく流れているタイミングで分泌される。なので、「手を強く握ってパッと開く」だけでもNOは分泌される。握ることで一時的に抑制された血流が、開くことで一気に解放されるからだ。
正座も同じ原理で、「第二の心臓」と呼ばれるふくらはぎの部分を上半身が圧迫し、そこの血流を抑制。1分して立ち上がると、せき止められていた血流が一気に流れ、これに伴いNOも分泌されて全身を巡る。これが、池谷院長が正座をすすめる理由だ。
本書には1分正座の「4週間プログラム」が載っており、食べ方の工夫など血管力を向上させる別の方法についてもページが割かれている。手軽に血管をケアしたい方は、取り組まれてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『血管を強くする1分正座』
https://books.shopro.co.jp/?contents=9784796877770
(池谷敏郎著、本体1200円+税、小学館集英社プロダクション)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。