文/印南敦史

最近、話が聞き取りにくい。それはAPDかも?|『聞こえているのに聞き取れない APD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』
「聴覚情報処理障害」(APD)という病気をご存知だろうか?

『聞こえているのに聞き取れない APD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』(平野浩二 著、あさ出版)の著者によれば、この病気の大きな特徴は「音としては聞こえているのに、ことばとして聞き取れない」こと。

聴力検査をしても異常は認められず、専門家であるはずの耳鼻科医のなかでも、この病気のことを知っている人はごく少数。そのため、患者は耳鼻科を受診しても、「聞こえないのは気のせい」と判断されてしまうことすらあるのだという。

「聴覚情報処理障害」は英語で「Auditory Processing Disorder」と言い、この頭文字をとってAPDと呼ばれます。
米国などではこの病気のことは、かなり認知されているそうです。しかし、日本においては、APDについての理解がまだまだ十分とは言えません。それゆえ、聞こえない理由がわからずに人知れず悩み、苦しんでいる人が多いのです。(本書「はじめに」より引用)

ちなみに著者は、聴覚障害者の医療についての専門家。高校時代から手話を学んできたこともあり、補聴器をしている難聴者や、手話を用いるろう者の方々とともに活動してきたのだそうだ。

そして以後も補聴器や難聴を専門領域として学び、聴覚障害者がどのようにしてコミュニケーションをとっていくかについて、さまざまな知識を得てきた。

つまり本書では、そのようなバックグラウンドに基づいて、APDをわかりやすく解説しているのである。

ところで、そもそもAPDの特徴とはどのようなものなのだろう? 著者によれば、その特徴は次の5つだ。

(1)騒音下で聞き取れなくなる

静かなところでは比較的人の声が聞き取りやすいが、ざわざわしていたり、機械音がうるさい環境などでは、とたんに人の話し声が聞きづらくなる。そのためAPDの人にとって、騒がしい場所は仕事をしづらい環境となってしまう。

また居酒屋など賑やかな店に行くと、周囲がうるさいため、まわりの人の話がほとんど聞き取れなくなる場合も。

(2)複数人の会話が聞き取れない

一対一で会話をするときにはよく聞き取れるのに、同時に2人以上が話し始めると、どちらの話も理解できなくなってしまう。

(3)スピードが速いと理解できなくなる

いきなり話し出された場合、出だしの部分が理解できなくなる人が多いのもAPDの特徴。話が長くなった場合、途中から相手の話についていけなくなることもあるそうだ。

そのため一気に話をするのではなく、合間合間で話に休みを入れるようにすると、聞く側の理解が進む。

APDは脳の情報処理に時間がかかるため、ゆっくり話してもらったり、途中で話を休んでもらったりすると聞きやすくなるわけだ。

(4)電話や無線などが聞き取れない

APDの人は、話の聞き取りづらさを、唇の動きを注視することによって補って理解している。そのため電話での話し声では視覚からの情報をえられず、頼りになるのは音声のみとなり、聞き取りづらくなってしまう。

頭のなかで話の流れを想像しながら聴いているので、想定外の話や知らないことばなどが出てくると、とたんに理解できなくなるのだ。

特に人名、地名、会社名などの固有名詞や数字が出てくると、正確に聞き取れないため聞き間違いのトラブルが起こりやすくなる。

(5)横や後ろから話されるとわからない

「側方や後方から話しかけられると聞き取れない」というAPDの人は少なくない。歩きながら会話ができない人もいるほどで、そういう人は歩行時には会話をしないのだという。

そのため、テーブルを囲んで座ることの多い会議の場合には、特に横の人の発言が聞き取りづらくなる。

* * *

以上が、APDの基本的な特徴だ。騒音で話が聞き取りにくいと感じたとすると、「年のせいかな」などと感じることがあるかもしれない。しかし、必ずしもそうとは限らず、APDの可能性も考えられるわけだ。

しかも聴力検査には異常が出ないのだとすれば、なかなか厄介である。そこで、まずは自分自身で知識を得るべきではないだろうか。

「APDチェックリスト」から対処法までを幅広く網羅した本書を参考にしながら、APDの基本を学んでおきたいところである。

『聞こえているのに聞き取れない APD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』

平野浩二 著

あさ出版

定価 本体1,600円+税

発行年2019年8月
『聞こえているのに聞き取れない APD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。

 

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