文/鈴木拓也
俗に「老化は足から始まる」といわれる。確かに、低い段差でつまずきそうになったり、ちょっとの距離を歩いただけでも息切れするなど、老いの兆候は足(脚)の衰えによって自覚しやすい。シニアの間でウォーキングやスクワットが流行しているのも、自然なことと思われる。
それに対し、「老化の出発点は、足腰ではなく背中なのです」と指摘するのは、(株)ロコムーブ代表のパーソナルトレーナー、中嶋輝彦さんだ。
中嶋さんは、著書の『「老けない身体」を一瞬で手に入れる本』(青春出版社)の冒頭で、足腰を鍛えるのは決して悪いことではないと前置きしつつ、根本的な老化対策としては「背中を動かす」のが正解だとする。
背中でも特に着目したいのが、人体で最も大きな筋肉である広背筋だそうで、ここを適切に鍛えることで、曲がった関節群や硬くなった筋肉群を一気に伸ばせるという。
見た目もアンチエイジングできる、この手法の名は「ロコムーブ」。ロコムーブは、ダンベルを持っての筋トレとも、筋膜リリースといった今ブームのストレッチとも異なるエクササイズだが、誰でもマスターできるシンプルなもの。以下、本書から一部を抜粋するので、空き時間に試してほしい。
■まずは「ロコムーブ・スタンス」
最初に「ロコムーブ・スタンス」を身につけておく必要がある。これが、理想的な立ち方であり、各エクササイズの効果を高めることにもつながる。
1. 両脚を腰の幅に広げて立つ。このとき、足の向きはまっすぐにする。
2. かかとよりもやや前方に荷重し、やや前に重心をかけて立つ。
3. みぞおちを引き上げる(背筋が過緊張しない範囲で)。
4. 後頭部のうなじを引き上げるように、あごを軽く引く(首筋が伸びる感覚)。
5. 少しお腹あたりに力をいれる(腹圧が入るような感覚)。
■広背筋を働かせる「キャタピラ」
イモムシを意味する「キャタピラ」は、加齢によって丸まりやすい胸椎を伸展させるエクササイズ。肩甲骨を背骨側の本来の位置に戻す効果があり、他のエクササイズの準備体操ともなる。
1. あおむけになり、両膝を曲げる。両肩と手のひらは床にぴったりとつける。首筋を少し伸ばすようなイメージで、あごを軽くひく。お腹に少し力を入れる。
2. みぞおちを中心に地面から浮かす。みぞおちを天井に向かって引き上げるイメージで。このとき、決して肩を浮かせたり、あごが上がらないように。お腹は引っ込める。このまま10~15秒キープする。
■お尻の筋肉の柔軟性を高める「フロッグ」
加齢とともに、お尻の筋肉は委縮し硬くなりがち。これが、背骨が丸くなって生じる骨盤の後傾を助長し、身体の重心が下がって膝・腰が曲がっていき、けがや関節の変形といったリスクにつながる。
「フロッグ」には、委縮して硬くなったお尻の筋肉の柔軟性を取り戻し、股関節の機能を活性化させる効果がある。
1. イスを2脚用意し、一方に座り、もう一方に片脚を置く。
2. イスの上に置いた脚の膝を90度曲げる。足首も90度曲げる。
3. 床に置いた反対側の脚は股関節の真横に位置し、膝を伸ばす。その際、足の向きはまっすぐ前に向ける。
4. ゆっくりと上半身を前に倒す(骨盤から前に倒していくイメージで)。
上半身を前に倒す動作を10回反復し、2セット行う(反対側の脚も同様に)。
* * *
一通りやってみて、なかなか正確なフォームをとれなかったかもしれない。これについては、中嶋さんは「理想とするフォームに近づこうとする過程で、硬直していた筋肉が柔らかく、そして使われていなかった筋肉に力が生まれるように全身に適応変化が起こります」と述べている。つまり、うまくできないから効果がないわけではなく、そのプロセスは決して無駄ではない。続ければ歩行もスムーズになるなど、効果を体感できるようになる。特に足腰に衰えを感じている方は、本書のロコムーブを実践してみるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『「老けない身体」を一瞬で手に入れる本』
http://www.seishun.co.jp/book/20896/
(中嶋輝彦著、本体1,280円+税、青春出版社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。