文/印南敦史

型にはまった年齢の重ね方をしていませんか。
60代とはこうあるべき、年長者とはこうあるべき、リタイヤ後はこうあるべき……。
もし、そんな思い込みにとらわれているのなら、潔く手放してしまいましょう。
わたしたちは多くの「べき」から解き放たれ、もっと軽やかに歩んでいってもいいでしょう。
そう、手ぶらで、笑顔で、機嫌よく。
(本書「はじめに」より)

『60歳からの人生デザイン – 手ぶらで、笑顔で、機嫌よく過ごすための美学』(秋田道夫 著、ワニブックス)の著者は、本書の冒頭でこういったメッセージを投げかけている。

年齢を重ね、経験値は増えているのだから、より快適に、心地よく人生を歩めるはず。そうでないのなら、自分のさまざまな「デザイン」を見なおしてみるほうがよいかもしれない、とも。

ちなみにここで「デザイン」ということばを用いているのは、自身が71歳のプロダクトデザイナーだから。ケンウッド、ソニーで製品デザインを担当したのち、1988年からフリーランスとして活動している人物なのである。

また2021年3月からはX(旧Twitter)で「自分の思ったことや感じたこと」を発信し始め、現在のフォロワーは10万人を超えている。「デザイン」を軸とした柔軟な発想や価値観が、多くの人の支持を得ているということなのだろう。

本書は、Xを通じてのそうしたメッセージの延長線上に位置づけられる一冊。「心」「人間関係」「幸せ」をはじめとする5つのテーマに沿って、より“上機嫌”な人生を送るための考え方を明かしているのである。

いい例が、多くの方々にとって気にかかるところであるはずの「定年後」についての記述。残りの人生について考えると、ついネガティブな気持ちにもなってしまいがちだが、著者は次のように述べているのだ。

「定年後」も人生は続きます。
(この「定年後」という言葉は「退職後」「引退後」など、あなたの環境に置き換えて読んでください)
定年後の「生活」を考えている人は多いものです。しかし、そこに人間関係のデザインまで含めている人は意外と少ないようにお見受けします。(本書65〜66ページより)

つまり必要以上に悲観的になる必要はなく、定年後であっても、「いまからできること」をしていくことこそが大切だということだ。さらに著者はここで、英文学者、文学博士、評論家、エッセイストである外山滋比古氏の「定年」に関することばを引用してもいる。

――知識が思考の邪魔をする。これはやはり真実である。
定年後の人生を面白くするためにも、知識に縛られない思考が大切になるのだと思う。(出典『お金の整理学』外山滋比古著/小学館新書)(本書67ページより)

読み手にとって、多義的な解釈ができる重層的なフレーズだと感じていらっしゃるそうだが、たしかにそのとおりではないだろうか。

なお、加齢とともに気にかかってくるもうひとつの問題が「時間」である。「時間がある」と悠長にしてもいられないし、「時間がない」と焦るわけにもいかない。ほどよい塩梅で時間を使うことが大切であるわけだが、それはなかなか難しいことでもある。

だからこそ余裕を生む仕組みをつくる必要があるわけだが、自分なりの考え方を構築するにあたり、著者の考え方は参考になりそうだ。

たとえばわたしの場合「1年は11か月」と考えています。
そして11月末に1年を振り返るようにしています。
12月は、いわば「予備月」なんです。自分なりの暦です。
(本書242〜243ページより)

もちろんそうはいっても、思いもよらない急用が飛び込んできたり、予定が前倒しになってしまったり、出張を入れたくなるなど、予定どおりにはいかないことも多いだろう。しかし、それでいいと著者はいう。なによりも、予定がある、「未来にやることがある」こと自体がすばらしいことだからだ。

では、誰にも避けることができない「死」については?

わたしは「死をどう迎えるか」というより「いかによく生きるか」という考え方をするようにしています。
たとえば「自分が突然いなくなっても、周りに迷惑をかけないこと」も、「よく生きる」という範疇に含まれます。ですから、遠い地方にある墓を自分の代で「墓じまい」して、あとに残る人たちに負担をかけないようにしたいと考えています。(本書248ページより)

自ら墓じまいをするなら、気になるのは「自分はどこに入るのか」という問題だ。しかし決して大げさに考える必要はなく、たとえば著者の場合は金属製のオブジェに小骨を入れてもらえればいいと考えているのだという。もちろんそのオブジェは、自身のデザインによるもの。デザイナーとしての本領を、その段階でも発揮しようという前向きな発想である。

しかし、これはデザイナーだけに与えられた特権ではない。著者の場合はこうだというだけで、「終わり方」もさまざま。各人がそれぞれ、“自分が上機嫌でいられるようにデザインする”ことがなにより大切なのだ。

『60歳からの人生デザイン – 手ぶらで、笑顔で、機嫌よく過ごすための美学』
秋田道夫 著
ワニブックス
1650円

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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