文 /⻆谷建耀知

私が代表を務める株式会社わかさ生活では、医師や大学教授といった専門家と連携し、脳や目の健康維持に関する研究を行ってきました。

ここでは、4人の専門家に監修していただいた『長生きでも脳が老けない人の習慣』(アスコム)から、身近な人が認知症になったときの対応について、一部を紹介します。

最終回となる今回は、できるだけ早く認知症の症状に気がつき、悪化を回避するためのポイントを解説します。

脳をいつまでも健康に維持する

認知症を発症すると、ゆるやかな下り坂になります。

もっと正確にいえば、下りの階段です。平坦なところと、一気にがくんと落ちるところを繰り返すのが特徴です。

認知症の家族を持つ人が進行が早いと感じてしまうのは、しばらく進行が止まっているように見えていたのに、突然症状が悪化することがあるからだと考えられます。

がくんと衰えるきっかけとなるのは、風邪をひいたりとか、インフルエンザにかかったりとか、認知症以外の体へのダメージです。

身近な人が認知症と診断されたときにできることは、できる限り下の段に行かせないようにすることです。つまり、改善ではなく、現状維持。 認知症と診断された2年前とあまり雰囲気も変わらないし、世話をする側の手間も変わらない。本人もニコニコしている。それで十分なのです。

しかし、本当に大切なことは、自分も含め、身近な人が認知症を発症しないようにすることです。遅くとも軽度認知障害(MCI)の段階で発見し、そのまま人生を逃げ切ることです。

本連載で紹介したことは、あくまでも最終手段。認知症を発症してしまったときの対処法です。

認知症は、現段階では治らない病気です。しかし、予防することはできます。脳をいつまでも健康な状態で維持できれば、発症することはありません。

生活習慣病を引き起こすような食生活を改め、必要ならサプリメントを摂り、適度な運動を習慣にし、ストレスがかからない生活と脳に刺激を与える生活を心がける。

そして、定期的に認知機能検査を受ける。

認知症を予防することができれば、今度は自分が配偶者や子どもたちに迷惑をかけることなく、幸せな人生を送れるのです。

認知症に気づく3つのコミュニケーション

認知症を予防するために今できることは、何より早期発見です。

身近な人の認知症にいかに早く気づけるか。とはいっても、もしかして認知症? と疑っても、年のせいかもしれないし……、もともと忘れっぽい性格だから……などと、なかなか判断や決断がつきにくいものです。

そのヒントになるのが、コミュニケーションから認知症かどうかがわかる3つのポイントです。

(1)短時間に同じフレーズが何度も出てくる
認知症の人とのコミュニケーションでよくみられる特徴として、会話の中に何度も同じフレーズが出てくるというのがあります。
認知症は、初期の頃は昔のことよりも新しいことを忘れることが顕著になり、数分前の出来事も忘れてしまうので、同じことを何度も聞いたり話したりすることが多くなります。
別の日に同じフレーズが出てくるのは認知症でない人にもよくあることですが、5分や10分の間に、同じ話題や同じフレーズを何度も繰り返すようであれば要注意。認知症もしくはMCI の可能性があります。

(2)話題を変えても元の話題に戻す
短い時間で何度も同じフレーズが出てくるときは、さりげなく違う話題に変わるように会話を誘導してみましょう。それでも本人が同じ話題に戻したり、同じフレーズを繰り返したりするようであれば、認知症の可能性がより高い といえます。

(3)旬の話題についてこられない
旬の話題を会話の中に取り入れて、どのような反応をするか確認してみるのもいいでしょう。
たとえば、「新型コロナウイルスってどんな病気?」と聞いてみます。
「怖い病気」「感染症」くらいのことは、ある程度症状が進んでいても言えるかもしれません。
では次に、「コロナがいつ日本に入ってきましたか」と聞いてみましょう。
まったく答えられなかったり、「3年前」とか「5年前」などと適当に言ったりする人は、時間や季節がわからなくなる見当識障害の疑いがあります。「2020年の2月か3月くらいからだったかな」くらいのことを言えるようであれば、認知機能に問題ないといえます。
そもそもコロナのことがわからなかったり、話しながらマスクを取ってしまったりするようなら、症状がかなり進んでいると考えられます。早々に専門の医療機関に相談するようにしましょう。

穏便に検査を受けてもらう方法

「あれ?」と思ったら、できるだけ早く行動するようにしましょう。

ここで問題になるのが、どうやって認知症の検査を受けさせるか。

高齢になってくると、口では「私は一生ボケない」と言っていても、「もしかしたら認知症になるかも?」という不安が心の中にあるものです。認知症と似たような症状である「もの忘れ」は誰にでも起こるものですから、少なからずあります。

人間は弱みを指摘されると否定するところがあって、「お父さん、認知症かもしれないね」と言われると、即座に「私は大丈夫」と答えます。そんな人に「認知症の検査に行ってみよう」と言っても頑なに断るはずです。

疑いがある家族を認知機能検査に連れ出すのに有効なのが、「検診に行こう」というひと言です。

要するに、認知機能を診てもらうのではなく、健康診断に行こうということです。

健康診断なら定期的に行っているので、しぶしぶでもついてきます。そして、その検診項目のひとつとして認知機能の検査もするということです。

できれば、気軽に行けるかかりつけの病院で検査ができるのが理想ですが、難しい場合は認知機能検査ができる医療機関を選ぶようにしましょう。

認知症専門医がいる医療機関は、日本老年精神医学会と日本認知症学会のホームページからも検索することができます。また、多くの自治体では認知症の研修を受けた専門の医療機関の情報を公開しているので、問い合わせてみるのもいいでしょう。

拙著『長生きでも脳が老けない人の習慣』では、認知症になる仕組みから、普段の生活習慣、食生活など、認知症予防のヒントをより詳しく解説しています。

ご興味のある方はぜひ手に取ってみてください。


⻆谷建耀知(かくたにけんいち)
株式会社わかさ生活 代表取締役社長
18歳の時、脳腫瘍の大手術を受け、命と引き換えに視野の半分を失う。自身の経験から、自分のように目で困っている人の役に立ちたいとの想いで、1998年に株式会社わかさ生活を創業。著書に『花鈴のマウンド』や『女子高生と魔法のノート』があり、現在は健康雑誌『若々』も発刊中。

[関連サイト]若々しく健康的な生活を提供するわかさ生活Webサイト
https://www.wakasa.jp/

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