毎日、どれだけスマホの画面を見ていますか?
スマホを使いすぎると目に悪い。誰もがそう思っているはずです。視力が落ちる、目が疲れる、乾く、かすむといったことは容易に想像がつき、実際に経験している人も多いでしょう。
しかし実は、スマホの本当の怖さは別にあります。たとえ視力検査の数字が悪くなくても、眼球運動が鈍くなる、視野が狭まる、内斜視の原因になる、依存性を高めるなどの悪影響を生じることがあるのです。
そんな新現代病といえる「スマホアイ」の恐ろしさを眼科医の松岡俊行さんが新著『スマホアイ 眼科専門医が教える目と脳と体を守る方法』(アスコム)にて解説しています。今回は、スマホアイを改善するために心掛けたい目によい習慣についてご紹介します。1日2時間以上、スマホを見る人は必読です!
文/松岡俊行
ぬるめのお風呂にゆっくり浸ると自律神経が整う
何かと乱れがちな自律神経のバランスを整えることは、目をはじめとした全身の体調にとって大きなプラスになります。その絶好の機会となるのが、疲れた体を癒すお風呂の時間です。
熱めのお風呂とぬるめのお風呂、どっちがいい? と思う方もいらっしゃることでしょう。実は、お湯の温度によって自律神経の働きが変わります。42℃以上の熱いお湯は、交感神経を興奮させて心身ともに活発になっていきます。逆に、40℃以下のぬるめのお湯は副交感神経が働くことで、緊張がほぐれてリラックスした気分になります。お風呂に入ることは、ほとんどのご家庭で毎日の習慣となっているでしょうから、そこにプラスで自律神経のことを少し意識してみてください。そうするだけで、「毎日の習慣」を「目にいい習慣」へとグレードアップできます。
目にいい習慣としてお風呂に求める役割は、睡眠に向けて副交感神経を優位にして、体をお休みモードに導くことです。そのために必要なのは、38℃ぐらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かること。たったこれだけでいいのです。20分ほど湯船に浸かることでじんわりと体が温まるとともに、適度な水圧もかかって血行がよくなります。リラックス効果が高まり、副交感神経もしっかりと優位になります。
目を温めることで眼精疲労やドライアイを予防
眼精疲労を和らげるアイテムとして、就寝時などにつけるホットアイマスクがあります。じんわりと温めることで血管が広がって血流がよくなり、働きすぎで凝っていた筋肉もほぐされます。血液は全身に栄養素を届け、いらなくなったものを集めていますから、体のメンテナンスにもなります。
目を温めることで、眼精疲労のもとになるドライアイも予防できます。家事の話になりますが、ご飯の後の洗い物で、たまに厄介な油汚れに出くわすことがありませんか。そんなとき、冷たい水より温かいお湯を使ったほうが効率よく汚れを落とせますよね。これと似たような効果が、ホットアイマスクにも期待できるのです。
ホットアイマスクで目の油分のつまりを解消
涙は「ムチン層」「水層」「油層」の3層からなります。
・ムチン層…目にいちばん近い層で涙が流れ落ちないように安定を保つ役割。
・水層………中間の層にあたり、角膜や結膜に栄養分を送る役割。
・油層………いちばん外側の層で水分の蒸発を防ぐ役割。
この3つの層は内側からムチン層、水槽、油層の順になっています。ムチン層は、涙腺から分泌される涙の層(液層)。大半はこの液層が占めています。ただ、大事なのは液層を薄く覆っている外側の油の層(油層)です。油層が減ると内側の液層が守られずに蒸発しやすくなり、ドライアイも起こりやすくなってしまいます。このトラブルの原因となるのが、油によるマイボーム腺の詰まりです。これは40℃ほどのマスクなどで温めることによって油が溶けるため、詰まりが改善され、目を守る油分が分泌されやすくなります。油層を正常に保ちトラブルを防げるのです。
ホットアイマスクはさまざまなタイプが市販されていますが、蒸しタオルでも代用できます。水に濡らしたタオルをラップで包み、電子レンジで30秒から1分ほど温めます。加熱したては熱くなっていますから、火傷に気をつけて40℃ぐらいまで冷ましてから、10分ほど目の上に置いてください。熱いおしぼりを顔にのせると風呂上がりのように気分がすっきりします。この蒸しタオルは実は、江戸時代の古典落語『浮世床』にも登場する伝統的な習慣です。身体にあてると血行がよくなり、目の疲れや肩・首のこり、筋肉痛などの症状を緩和させることができます。
蒸しタオルは、肌触りが気持ちいいだけでなく、幸せホルモンの分泌を促す効果もあります。幸せホルモンとは、ストレスを和らげ多幸感をもたらす「オキシトシン」のことで、愛情ホルモンとも呼ばれます。アロマを加えるとさらに効果が増します。なお、目が充血しているときは温めると逆効果です。症状を悪化させてしまいますから、ホットアイマスク、蒸しタオルともに使用は避けましょう。
日々の食事で目にいい栄養素を体にプラス
朝、昼、晩、1日三度の食事は、体にとって必要な栄養を摂る大切な機会です。食物に含まれる栄養素などがそれぞれ体を動かすエネルギーや筋肉や血液などの材料になったり、体の調子を整えたりといった役割も果たすことで、私たちは毎日の暮らしを健康に送ることができます。また、栄養素のなかには、目の健康に欠かせないものや貢献してくれるものも少なくありませんから、スマホアイを防ぐためには、ふだんの食事も気をつける必要があります。
目の健康のために取り入れたい栄養素と代表的な食材
【ビタミンA】
ホウレンソウ、ニンジン、カボチャ、シュンギク、モロヘイヤ、大葉(青ジソ)、豚レバー、鶏レバー、ウナギ、バター、卵黄
【ビタミンE】
ウナギ、子持ちガレイ、イワシ、サバ、タラコ、イクラ、ナッツ類、豆類、キウイフルーツ、アボカド、ナス、タマネギ、ドライトマト、モロヘイヤ
【ビタミンC】
キャベツ、ブロッコリー、パプリカ、ナバナ、ピーマン、サツマイモ、ジャガイモ、ユズ、キウイフルーツ、イチゴ、レモン、ネーブル
【オメガ3脂肪酸】
サケ、サーモン、マグロ、イワシ、サバ、イクラ、菜種油、亜麻仁油、大豆油、クルミ
【アスタキサンチン】
サケ、マス、エビ、カニ、イクラ、タイ、桜エビ
【亜鉛】
牡蠣、煮干し、ホタテ、タラコ、豚レバー、鶏レバー、牛肉、卵黄、ナッツ類
【アントシアニン】
ブルーベリー、クランベリー、ラズベリー、サクランボ、ブドウ、リンゴ、ナス、黒豆、紫イモ、赤ジソ
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スマホアイ 眼科専門医が教える目と脳と体を守る方法
著/松岡俊行
アスコム 1,540円
松岡俊行(まつおか・としゆき)
医学博士。眼科専門医。
大阪市出身。幼少より左右の視力に差があること(不同視)で目に興味を持つ。灘中学校・高等学校を経て、1992年京都大学医学部医学科卒。眼科研修の後、1996年京都大学大学院医学研究科、2001年ロンドン大学UCL客員研究員。京都大学大学院在学中に「Science」に、ロンドン留学中に「Nature」に論文掲載。2008年、京都大学大学院医学研究科准教授。2019年大阪府吹田市に江坂まつおか眼科を開業。2021年医療法人アメミヲヤ設立。2022年「近視の撲滅を目指す Dr.まつおか」YouTubeチャンネルを開設。スマートフォンの普及による子どもの視力低下や、眼球運動、両眼視機能への悪影響などを懸念し「スマホアイ」と称して警鐘を鳴らす。子どもの目を守る眼科医として、寝ている間に専用のコンタクトレンズを装着することで視力回復を図る「オルソケラトロジー」を推進するほか、自宅でできる手軽な視力回復メソッドとして「マジカルフレーズ」を考案。視力の維持・回復だけでなく、視機能を守ることで子どもの健やかな成長を促す活動に注力している。