文/倉田大輔(池袋さくらクリニック)
「お肌の光老化」は、太陽光の中でも特に紫外線による老化現象で、一般的にはシミのイメージがありますが、実際にはシワ・たるみ・くすみ・皮膚腫瘍など、かなり幅広いです。
旅行や屋外スポーツなど日差しを浴びる機会が多い方だけでなく、全ての方に知っておいて頂きたい「お肌の光老化」について対処法も含めて、詳しくご紹介します。
そもそも「お肌の老化」はなぜ起きる?
お肌の老化には、遺伝的要因で規定され年齢を重ねることで誰にでも起きる「内因性老化」、紫外線を浴びるなど生活習慣が関わる「外因性老化」の2つあります。
どうしても逃れられないのが「内因性」、何とか工夫をすれば逃れ得るのが「外因性」とも言えますね。
お肌の老化について
外因性のお肌老化 | 内因性のお肌老化 | |
原因 | 紫外線や生活習慣など | 加齢、遺伝的背景 |
出現時期 | 思春期以降 | 50歳以降 |
部位(場所) | 顔、手背、首など(露出部、特に紫外線が当たりやすい場所に出現) | 全身の皮膚(非露出部にも出現) |
目で見える様子 | 細かいシワ、粗いシワ、たるみ、乾燥、シミ(色素沈着)など | 細かいシワ、たるみ、乾燥 |
実際には紫外線暴露などの外因性と内因性が複雑に絡み合って、「お肌の老化や加齢現象」を起こします。
内因性のお肌老化は、生まれたての赤ちゃんと年齢を重ねた方を比べた時に「お肌の乾燥や弾力に違いがある」ことが分かりやすい例です。
老化という言葉は中高年をイメージしがちですが、実際には人間として生まれた瞬間(乳児)から老化自体は始まっています。
実年齢を若返らせられない以上、内因性のお肌老化を止めることは難しいですよね。
私たち人間が現実社会を生きていながら「お肌老化を防ぐ」には、「外因性」の特に紫外線による光老化を無視せず、紫外線との正しい付き合い方を身に付けておく必要があります。
紫外線はお肌にどんな影響がある?
太陽光線は、植物の光合成、温熱効果、ビタミンD合成など人類が地上で生活する上で必要不可欠な存在です。その一方、太陽光線(紫外線・可視光線・赤外線の3種類)を過剰に浴びると人間の肌に悪影響を及ぼします。
太陽光線が肌に当たると体内に「活性酸素」が生じ、周囲の細胞を傷つけます。
(あえて専門的な表現を少なくすると)太陽光線の中でも、特に紫外線は「メラニン、遺伝子(DNA)、タンパク質・アミノ酸<コラーゲンなど>、脂質」などにダメージを与え、これらの物質を含む、お肌の細胞(色素細胞・表皮細胞・真皮細胞)が変化することで、光老化の症状が出現します。
「メラニンとシミ・くすみの関係」は皆さんもご存知かもしれませんが、コラーゲンやヒアルロン酸といったお肌の弾力に関わる物質にも影響を与えるので、「シワやたるみ」まで引き起こします。
「お肌の光老化」の治療?
人間の身体は小さな異常を再生治癒する能力を備えていますが、「肉眼で見えるまで発達した(再生治癒能力を超えて現れた)お肌の光老化」が、放置したまま自然に消えることは残念ながらありません。治す為には、人為的な力(医学治療の介入)が必要になります。
まず、シミの代表的な治療として「各種レーザー、IPL(Intense Pulse Light)、ケミカルピーリング、美白剤」があります。
シミの代表的な治療方法
作用・仕組み | |
各種レーザー | レーザー(光エネルギー)が肌に当たり熱エネルギーとなり、メラニンの細胞(シミ)を破壊。カサブタを生じるため、日常生活への影響に考慮する必要がある。 |
IPL | 光エネルギーから変化した熱エネルギーがメラニン細胞を破壊。冷却装置を備えるため、カサブタを作らず、日常生活に深刻な影響を与えない。 |
ケミカルピーリング | 薬剤の力で、細胞の生まれ変わりを促進し、徐々にシミを薄くしていく。 |
美白剤 | メラニン細胞を破壊排出する作用。家庭で行うため、正しい使用方法や治療を続けるモチベーションが不可欠。 |
それぞれの治療には「化粧など日常生活への影響、治療回数・治療期間、費用、手間」など一長一短があり、どれが一番良いかと簡単に順位をつけられるものではありませんし、複数の治療を組合わせることもあります。
私は治療する側として「単一のシミが対象or複数のシミやくすみが対象<全体的な美白効果>」といった症状だけではなく、患者さんの要望・希望、職業(人前に出るなど)や近日に冠婚葬祭や旅行などの予定が無いか? など、様々な側面から診察し治療を行うことが理想的と考えています。
シミの治療を行っていく中で、肌の質感が向上し、細かいシワが減っていくこともありますが、深いシワには「シワに特化した治療」が必要になります。「ボツリヌス菌注射、ヒアルロン酸注射」という治療法を耳にされたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
シワの代表的な治療方法
治療対象のシワ | 治療の仕組み | |
ボツリヌス菌注射(ボトックス(R)など) | 表情筋が作るシワ<眉間、目尻、額など> | ボツリヌス菌から作られたお薬を表情筋に注入し、シワを形成する表情筋を緩めることで改善させる方法 |
ヒアルロン酸注射 | ほうれい線、マリオネットライン、ゴルゴ線、眉間、額など | 皮下脂肪などのボリューム低下で発生したシワに対して、弾力性と粘着性を持った「ヒアルロン酸」を注入し、シワを改善する方法 |
治療するシワの部位によって方法を変えるだけでなく、複数を組み合わせることもあります。効果の持続期間はおよそ半年~1年程度です。採血などに比べるとかなり細い針を使いますが、お薬を肌に刺して注入する方法ですから、内出血などが起こる可能性があります。
さらにお顔のパーツ(例:額の広さなど)もお1人お1人異なり千差万別ですから、患者さんの状況に応じた注射を行わなければなりません。患者さんと会話をする中でシワの様子や表情をきちんと診て治療を行う必要があります。
シミやシワの治療は時に生死に関わる可能性もある一般的な病気治療と異なり、「とても簡単な治療」と思われがちですが、実際には患者さんと医師・医療機関の双方がしっかりコミュニケーションをとった上で治療を行うことが理想的だと私は考えています。
日焼け止めを正しく使うには?
最近は女性だけでなく、男性も「日焼け止め」を使う方が増えていて、「光老化対策」として素晴らしいとは思っています。その一方、「正しい塗り方をしているか? 効果的な塗り方をしているか?」と言うと、改善点も多いと感じています。
「塗る頻度」について
「暑く天気が良い日や季節だけ塗る(寒く天気が悪い日は塗らない)」という方がいらっしゃいますよね。札幌と那覇で比べれば紫外線量は那覇のほうが多い(地理的位置による違い)、6~8月頃のいわゆる夏シーズンは紫外線量が多い(時期による違い)という傾向はあります。ところが「雪山登山やスキー・スノーボード」など寒い時期にも日焼けはします(標高が100m上がると紫外線量は約10%増加する)。暑さは太陽光に含まれる赤外線の作用で、紫外線は暑くありません。
梅雨時の晴れ間に強い日差しが降り注ぐこともあるので、特に注意が必要です。
「塗る量」について
一般に販売されている「日焼け止め」はSPF50程度が多いです。SPF(sun protection factor)は紫外線B波(UVB)を防ぐ指標で、剤形も「乳液、ジェル、スプレー」など様々です。
屋外スポーツなどの時にはSPF50程度を使用して頂きたいのですが、塗る為に付けた手に残り、実際の有効な塗布量は半分以下であったという医学実験報告もあります。一般的に使用量が少なくなりがちで、「塗ってはいても、日焼け止めが有効活用されていない」傾向があります。
お顔に塗る場合、手に残存する量を差し引くと「500円玉程度の量を、乳液では2回、ジェルで1回、スプレーだと全顔に10秒以上噴射する」量を使うことで、日焼け止めが持つ本来の効果が発揮されます。皆さんがイメージされるよりかなり多い量ですよね。
店頭には様々な、価格・様々な剤形の日焼け止めが陳列されています。『自分の肌に合うものをたっぷり、贅沢に使うこと」が非常に重要です。
近年、「飲む日焼け止め」が登場していて汗でも落ちず人気ですがそれは「SPF1.5~2程度」、日傘は道路や水面からの「照り返し反射:10~20%」を防ぐことが出来ません。
「塗る日焼け止め、飲む日焼け止め、日傘」は併用してこそ光老化対策効果を発揮します。
「光老化」の症状は医学的治療で改善させることは出来ますが、濃くなったシミや深くなったシワは治療期間も長びく可能性がありますし、何より治療期間中などは日焼け止め使用が必須です。
旅行や外出などの頻度が増えるこれからの季節は、日焼け止めを正しく使い、「光老化」を少しでも減らしていきましょう。
文/倉田大輔 池袋さくらクリニック院長。日本抗加齢医学会専門医、日本旅行医学会認定医、日本温泉気候物理学会温泉療法医、経営学修士(明治大学大学院経営学研究科)2001年 日本大学医学部卒業後、形成外科・救急医療などを研鑚。2007年池袋さくらクリニック開院。講演活動やメディア出演を行ない、自ら現場に赴き取材執筆している。
池袋さくらクリニック http://www.sakura-beauty.jp/