日本人の7割が自宅で最期を迎えたいと希望していることをご存知でしょうか? しかし、実際に「在宅死」を希望する場合、どのような手順をとればよいかわからないことが多いようです。
そこで、終末期医療の専門家たちが、さまざまな角度から解説した『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』から、在宅死の現状をみていきましょう。
あなたはどこで死にたいですか? 病院死のメリット・デメリット
病院で最期まで過ごすことの最大のメリットは、医師や看護師をはじめとする医療者が24時間365日そばにいて、何かあってもすぐに対応できることです。
また、家族に迷惑をかけずにすむというメリットもあります。実は終末期の患者さんで「家族に迷惑をかけたくない」と願う方は非常に多いのです。在宅ではどうしても家族に負担がかかってしまうため、病院で看護師に仕事として世話をしてもらったほうが楽だと考える人はいるようです。
また、家族側から見たメリットとしては、“死”という非日常的な出来事を病院という空間で迎えることで、精神的な負担が軽減されるということです。
一方でデメリットとしては、その人の個性や役割が奪われて「患者さん」となってしまうことが挙げられます。自宅では父親だったり母親だったり地域や社会とつながっていたのに、入院したとたんにただの「患者さん」になってしまうのです。役割が奪われることは、生きがいをなくすことと同じで、その人の生きる力を奪ってしまうのです。
【病院死を選んでよかった例】
入院で夫を看取った方で、夫の死後、病院に足を踏み入れることができなくなってしまった方も。このように場所と記憶が結びついて、その場所に行くとつらいことを思い出してしまう人は少なくありません。
「この場合、病院という日常から切り離された場所で看取ることによって、その後日常生活に戻りやすいというメリットが挙げられます」(川崎市立井田病院・かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科医長 西智弘医師)
【病院死を選んで悪かった例】
病院にいると窓際でじっと外を眺めている人に、しばしば出会います。彼らに何を見ているのか尋ねると「自分の家が見えるかと思って見ている」と寂しそうな横顔で言いました。彼らは自宅にいたときは夫であり、父親であり、一家の大黒柱でした。しかし入院したとたんに個性を失った「患者」でしかなくなってしまうのです。
「病院に入院すれば安心と思うかもしれませんが、むしろ病院にいることで気力や体力、希望が奪われて、人生の最期をその人らしく過ごせなくなることもあるのです」 (西智弘医師)
どのくらいの人が在宅死を選んでいる? 理想と現実のギャップ
「最期は病院で迎えるもの」が当たり前だった時代は今や変わりつつあります。自宅で最期を迎えたいと思っている国民は約7割。「住み慣れた場所で最期を迎えたい( 72%)、「最期まで自分らしく好きに過ごしたい」(63 %)、「家族等との時間を多くしたい」( 51%)などが主な理由です(複数回答)。
では実際に、どのくらいの人が在宅死を選んでいるのでしょうか? 2019年に自宅で亡くなった人は約14 %。およそ7人に1人。 70年前の日本では、かつて8割以上が自宅で最期を迎えていました。1980年頃には在宅死と病院死の割合が逆転。7割以上が自宅での最期を希望しているにもかかわらず、病院で亡くなる時代が30年以上続きました。
しかし、日本はすでに超高齢社会。好むと好まざるとにかかわらず、病院以外の場所で最期を迎えるケースが増えていきます。その兆候は出始めていて、2005年をピークに病院死の減少傾向が続いています。
一般人が在宅死を望むのは経済的に難しいは誤解。各種制度、保険制度を利用すれば実現できる
ごく一般的な人でも、医療保険制度や介護保険制度を始めとする公的制度を活用すれば在宅死は可能です。
例えば75 歳以上の後期高齢者が支払う医療費の自己負担は、原則として1割(現役並み所得者は3割負担)。これは終末期の医療においても変わりありません。
また自己負担額が高額の際に所得に応じて一定の金額が払い戻される「高額療養費制度」も活用できます。 介護保険も自己負担額が1〜3割に定められており、 自己負担額が高額の際に所得に応じて一定の金額が払い戻される「高額介護サービス費」も活用できます。
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「在宅死」を望む場合、金銭面の負担、在宅医療に対応してくれる医師の選び方、家族の負担など、気がかりなことが多いのではないでしょうか。終末期医療の専門家の解説をまとめた本書を読めば、そんな不安が払拭され、「在宅死」を選択することができるかもしれません。