文/鈴木拓也

朝起きたら、鼻づまりで咳が出て、微熱もある。
風邪かと思い、近所の内科医院を訪ねると、案の定「典型的な風邪ですね」と、医師に言われる。
ここで何か薬をもらえると思ったのに、何も処方されなかった場合、なぜか損した気分になったことがあるのは、筆者ひとりではないだろう。

症状があるのに薬を出さないのは、医師の手落ちといったものではない。医療の現場では、「薬を出さずに治す医師は名医」という格言があるくらいで、しっかりした医師は、薬を出すのに慎重だ。

その理由として「薬を使用しても患者さんにメリットが小さい、もしくはデメリットが大きいと判断」したからと説明するのは、東京むさしのクリニックの橋本将吉(まさよし)院長。著書の『医師が教える薬のトリセツ』(自由国民社)では、医師の立場から見た薬に対する考え方が縦横無尽に説かれていいて興味深い。その一端を紹介してみよう。

市販の風邪薬の落とし穴

風邪が流行する冬は、ちょっとの症状でもドラッグストアで風邪薬を多めに買う人は少なくない。風邪薬は一番気軽に使われる内服薬だろうが、橋本院長によれば、これとてデメリットはあるという。

そのひとつが胃への影響だ。総合感冒薬には解熱剤が含まれているが、これには「胃がムカムカする」副作用があり、ときには胃炎・胃潰瘍につながることもあるという。
また、鼻水を止める作用のある抗ヒスタミン成分には、眠気をもよおす副作用がある。さらには、体質によってはアレルギー症状が出ることも。

薬のアレルギーには、皮膚に症状が現れる「薬疹」があります。薬疹には、スティーブンスジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)やTEN(中毒性表皮壊死症)と呼ばれるものがあります。これは、全身に大小さまざまな皮膚の湿疹が出現し、失明につながってしまったり、最悪の場合には多臓器不全や敗血症などを合併して、致命的になる病気です。(本書より)

ほかにも、実は溶連菌や結核菌の感染であったのが、風邪薬で中途半端に症状が抑えられ、初期治療が遅れるリスクなども橋本院長は指摘する。何もしなくてもすぐに治ってしまう軽微なものなら、風邪薬には手を出さないほうが得策かもしれない。

ふつうの湿布薬でも副作用が

風邪薬と並んで盲点になりやすいのが湿布薬。これには、炎症を抑える抗炎症作用や鎮痛作用があり、当然ながらこうした薬効がメリットになる。特にシニア世代は、腰や膝が痛いときなどに、風邪薬以上に軽い気持ちで使いたくなるが、デメリットはあるという。

まずは、どの薬にも存在する副作用やアレルギーですね。湿布薬は皮膚に貼りますので、貼った場所にそれらが出現する可能性がありますし、皮膚の下のすごく細い血管から吸収されて、薬の成分が全身に回りますので、やはり湿布薬を貼った場所以外にも副作用が出現する可能性があります。(本書より)

代表的な湿布薬「モーラステープ」だと、副作用として喘息発作や光線過敏症などが挙げられている。安易な気持ちで指定の頻度を超えて貼るのは、考え物だとわかる。ただし、関節リウマチのように、痛みを抑えるメリットがずっと大きいのに、それを我慢してしまうのもまた問題。橋本院長が強調するのは、「ちょっとした症状に対して、使い過ぎは禁物です」だという点。同じようなことは、頭痛薬、下痢止め、便秘薬についても述べており、なんでも薬頼みにすることの弊害は肝に銘じておくべきだ。

糖尿病薬を勝手に止めるのは危険

逆に、自己判断で薬を止めてしまう問題についても言及がある。例えば糖尿病薬。糖尿病自体に辛い症状はないため、一時的な血糖値改善といった理由で、服用を中断してしまうのは、ままあることだという。橋本院長は、これは「大変危険です」と注意を促す。自覚がないまま、高血糖や低血糖が続くと命に関わるからだ。

また、メリットよりもデメリットにばかりフォーカスが当たって、大きく誤解されているものとして抗うつ薬がある。ネット世界では、「抗うつ薬を飲んだら負けである」というような情報が流布されているが、「これは大きな間違いです」と橋本院長。実際は多くのメリットがあること、そしてSNSなどを通じた誤情報が、「うつ病の患者さんの治療開始と社会復帰を妨げてしまっている印象があります」と解説している。

* * *

メリットもあればデメリットもある薬だが、どのようなスタンスで付き合っていけばよいのだろうか?

橋本院長は「薬は最後の手段として使う」ことを推奨する。つまり、普段から健康的な生活習慣を続けるのが第一にあって、病気にかかっても健康習慣の延長線上にある治療をまずは実施。それで足りなければ薬の出番が来るわけだ。

このように本書には、薬に対する今までの印象を変える、新たな知見が盛り込まれている。自身の健康に何か不安を感じているなら、一読をすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】

『医師が教える薬のトリセツ』

橋本将吉著
自由国民社

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。

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