文/柿川鮎子

翁が光り輝く竹を切ったらビックリ! 中から赤ちゃんが!……というお話で有名な『竹取物語』。かぐや姫の物語を知らない日本人はいないでしょう。

かぐや姫は天皇や貴族たちから求愛を受けますが、すべて拒み、最後は月に帰ってしまいます。財宝や権力に媚びない高貴で美しい心の持ち主として、古くから多くの日本人の心をとらえてきました。

かぐや姫を運んだのは「鳥」かもしれない!?

実はこの物語の発端となった「事件の真犯人」として考えられるのが、鳥なのです。いったいどういうことでしょう?

鵜の目鷹の目と言われる通り、獲物を狙う目つきは鋭く強烈。目の細胞は人が20万個なのに対してタカは150万個あり、人の視力にすると8倍の16以上あるといわれています。

かぐや姫の物語をより不思議なものにしている要因のひとつに、竹から生まれたということがあります。おとぎ話では翁が竹を割ると中からかぐや姫が出てきたということになっていますが、もともと割れていた竹の中にかぐや姫が入っていたと考える方が自然でしょう。

この竹の中に赤ちゃんを入れた犯人に関連して、最近、ある興味深い研究報告がありました。それは鳥類の握力についての調査です。

米国フロリダ大学とパナマ大学の共同研究によると、世界で最大の鷲類といわれているオウギワシは体長約140cm、重量にして約4kgの獲物を捕まえて飛翔することが可能だという内容でした。オウギワシを国旗に描いているパナマでは、ナマケモノを襲うオオギワシが目撃されています。

一方、日本に生息するワシ・タカ類のうち、大型のオジロワシ、イヌワシは全長100cm程度、日本全国の山地でよく見られるクマタカで体長70〜80cmぐらい。タヌキなどを補食しています。

世界最大のオオギワシには及びませんが、日本にいるワシ・タカ類でも竹の中に入る程度の小さな赤ん坊ならば軽々つかめて、自由に空を飛ぶことが可能なのです。

一方、竹取物語の舞台候補とされる土地は日本全国にありますが、「かぐや姫サミット」に参加している奈良県、静岡県、京都府、香川県、岡山県、広島県、鹿児島県については、すべての県にオジロワシ、イヌワシ、クマタカあるいはフクロウといった大型の猛禽類が生息しています。

空中から獲物の頭部などの急所を素早く見分けて襲います。反撃されると自分の命が危険なので、安全な猟にできるかどうか、一瞬で見分ける判断力をもっています。

日本では古くから、赤ん坊が神隠しに遭ったという伝説が残されている

実は日本では古くから、小さな赤ん坊が神隠しに遭ったという伝説は各地に残されています。猛禽類が住む山での神隠し事例は多く、非力な子どもの何人かは鳥類に襲われ、空中を移動して山奥に姿を消したのではないかと考えられています。

竹取物語が現実にはない物語であったとしても、鳥が食糧としてさらった赤ちゃんを竹藪に落とし、あるいは貯食行為として竹の切り株に隠し、それを竹取の翁が見つけた可能性は十分に考えられるのです。

京都には竹取翁博物館があり、関連資料を展示しています。3年に1回、全国から研究者が集まり「かぐや姫サミット」を開催しています。(籠に成竹取物語 国立国会図書館蔵)

かぐや姫の物語を生んだのは大型の鳥類だったのではないかと想像すると、鳥を見る目も変わってくるでしょう。大空を飛ぶ猛禽類は、日本の至る所で観察できます。最近では皇居近くの北の丸公園で悠々と空を飛ぶオオタカの姿が観察されました。

たまには空を見上げ、かぐや姫の物語に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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