自ら作る朝食には、医師の助言で発酵食品とトマト、それに家業である茶加工品が並ぶ。これらが4代目の健康を支える。
【尾堤宏(おづつみ・ひろし)さんの定番・朝めし自慢】
埼玉県春日部市の最北端、内牧という里に8000平方メートルほどの茶畑がある。明治初年、茶園『おづつみ園』の歴史はここから始まった。
「初代・卯三郎が内牧に茶樹を植え、2代目・政右衛門が近隣に茶栽培を広め、私の父である3代目・英雄が小売店を春日部駅前に開設したのです」
と、4代目の尾堤宏さんが語る。初代以来、目指したのは有機肥料による日本茶の栽培だった。こうして得られたお茶は“色よし、味よし、香りよし”と評判を呼び、近隣地域の人々に愛されてきた。
現在、自家茶園の収穫は年1回。一番茶(新茶)のみである。その他は静岡、鹿児島、京都(宇治)三重(伊勢)、埼玉(入間、狭山)などの全国優良茶産地から仕入れているという。
「お茶は単品より合組(ごうぐみ)したほうが旨いんです。合組とは、コーヒー豆でも行なうブレンドのこと。この合組にわが社の価値があるといっても過言ではありません」
という宏さんは、『おづつみ園』4代目として昭和34年、春日部市に生まれた。明治学院大学卒業後、静岡の農家で1年間の茶栽培・製造の勉強、さらに静岡の国立茶業試験場で1年間の茶流通や分析の研修。その後3年半、兵庫県神戸の茶販売店で商売の修業を重ねた。
同園の百貨店進出を機に帰郷し、平成7年には春日部西口ふじ通り店を開店。48歳の時、父から社長の座を引き継いだ。
ギリシャヨーグルトを40g
若き経営者は、50歳の時に人間ドックを受診した。軽度の糖尿病と痛風との診断を受け、その時に医師から勧められたのが、発酵食品とトマトの摂取であった。
「アドバイスに従って、発酵食品は納豆とヨーグルト。加えて、トマトが朝食の定番となりました」
ヨーグルトは、濃厚なギリシャヨーグルトが決まり。毎朝、40gほどを摂る。その他に、山形秘伝豆(青大豆)の煮豆も添える。数の子を入れて、東北地方の郷土料理風に仕立てるのが自慢だ。
3年ほど前から、その朝食に抹茶餡やほうじ茶餡など、家業の日本茶が加わった。昼は外食、夜は酒肴をつまむ程度。畢竟、4代目の健康は発酵食品、トマト、日本茶の朝の三種の神器が支えている。
茶による地域発展をはかり、日本の茶文化を継承し広めたい
日本茶ひと筋に40年。『おづつみ園』の原点である内牧茶園では、今も有機肥料を使った日本茶栽培が行なわれている。
「環境と健康への配慮から、飲料メーカーから出るコーヒー粕に豚糞、籾殻を充分に発酵させた有機肥料を使っています。もちろん、草取りもすべて手作業です」
茶の品質をさらに向上、安定させるために、最近では静岡、伊勢、鹿児島の茶農家にも足を運び、栽培の指導も開始した。また、静岡・島田地区の農家と共同で、新品種の栽培にも取り組んでいる。
さらに、お茶を通じて地域との交流を図るため、新茶の時期に内牧茶園を開放し、「お茶摘み体験教室」や「こどもお茶摘み教室」を主催。毎年、県内外からも好評を得ているという。
「日本で生産されるお茶は、その90%以上が緑茶です。緑茶にはカテキンやビタミンが多く含まれ、抗酸化作用、抗動脈硬化、血中コレステロールや血圧上昇抑制、免疫力の向上なども期待できます」
茶による地域発展と健康促進、ひいては日本の茶文化を継承し、広めるのが使命である。
※この記事は『サライ』本誌2021年6月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )