京都人の山椒好きは、他の地域に比べてとても高い。東京では鰻の蒲焼くらいにしか使わないが、京都では丼、赤だし、焼き鳥など、いろんなものに使う人が多いので、お店でも粉山椒を置いているところが多い。
さて、今回ご紹介するのは、ご主人の山椒好きが高じて店の名物料理にまで育てた、『とり粋』(とりいき)の山椒なべである。
もともとはここのご主人・古本薫さんが、京都北山の里・周山にある郷土料理の店主から、鍋に使う山椒だしを伝授してもらったのが始まり。京都市内でもっと手軽にその味を食べてもらいたいと工夫を重ねて、現在の”山椒なべ”に辿り着いた。
古本さんは京都生まれの京都育ちで、若い頃は400年の歴史を誇る老舗料亭で修行したとのこと。その経験がこの鍋には活きている。
ベースの出汁は、丹波地鶏の「比ねどり」で取ったスープ。そこに、紀州有田川産の実山椒を鶏だしで延ばしてペーストにしたのを溶かしこんで、唯一無二の味を作り出している。こんな鍋は、いかに山椒好き・かしわ好きの人が多い京都でも、他では味わえない。
お鍋に入るものは、シンプルに鶏と野菜だけ。丹波地鶏(比ね)、但馬産の若鳥、そして季節の九条ねぎ、京ぜり、三つ葉、大根、茸類などが入る。
食べ始めると、山椒が効いて滋味深い出汁に食が進む。山椒には食味を上げ、健胃効果もあるので、出汁もたっぷり飲んでいきたい。
さらに山椒好きの方には「追い山椒」がお勧め。秘伝の山椒ペーストを小皿で出してくれるので、遠慮なく頼もう。〆に中華麺を好む人が多いのも、京都ならでは。
一度食べたら病みつきになる、この山椒なべ。一人前でも出してくれるので、カウンターでご主人と食談義をするのも愉しみの一つだ。お鍋はたっぷりの量があるので、シェアしてもよいだろう。
そもそもは焼き鳥屋さんである『とり粋』さんのもう一つの名物・赤鬼串も頼みたい。
秋本番を迎え、そろそろお鍋もよい季節になってきた。今が食べ頃ですぞ!
【とり粋】
京都市中京区三条通新町西入ル釜座町36
電話:075-255-5191
営業時間 : 18:00~23:00 (平日ランチ 11:30~14:00)
定休日:火曜日
文/中村 暁
日本文化プロデューサー。1955年、京都生まれ。伝統芸能をはじめ日本文化を様々な切り口からプロデュースする。日本の食文化についても興味が深く、素材を求めて生産者まで足を運び、自ら台所に立つことも多い。暮らしのスタイルは季節を感じて日本人らしくがモットー。