では、どういう店ならいいのかというと、たとえば繁華街から外れたところにある小さな蕎麦屋。人通りの少ない場所で営業を続けていられるということは、おそらく蕎麦がおいしくて、リピーターが多いのだろう。
そして、昼の時間しか開いていないような蕎麦屋も、ちょっとのぞいてみたい。それが自宅を改造して営業しているような店なら、これは入ってみる価値が十分にある。営利目的というより、多分に趣味的な店で、力の入った蕎麦を食べさせてもらえる可能性がある。
それと、店内をのぞいてみて、女性客が多いようだったら、ひとまず暖簾をくぐってみる。女性客で混んでいる店は、美味しいところが多いようなのだ。
さらに確実に見極めたいのなら、店頭に置いてある(あればの話だが)、メニューをじっくり見ることに尽きる。この連載の第一回でも書いたように、僕は蕎麦屋の品書きを眺めるのが好きな「蕎麦屋の品書きファン」だ。蕎麦つゆが「蕎麦屋の履歴書」なら、品書きは蕎麦屋のレントゲン写真か、CTスキャンの画像データといえるほど、店の内情が透けて見えるものなのだ。
まず、品書きの最初の部分、「もり蕎麦」あるいは「せいろ」に、何種類かのバリエーションがある店は、俄然、興味がわく。普通の「せいろ」のほかに、「十割蕎麦」があったり「粗挽き蕎麦」があったり。こういう店は、蕎麦そのものの味が、作り方で変わることを熟知しているとみていい。だから手間ひまかけて、何種類もの、シンプルな蕎麦のバリエーションを作るのだ。