四川料理店の麻婆豆腐。辛さと旨みが口中でせめぎ合うのが醍醐味である。

中国や韓国、タイなどのアジアの国々には、日本の食文化にはない共通項がある。唐辛子を大量に用いた、辛い料理を好むことだ。

特に中国・四川省(しせんしょう)で作られる四川料理は、その辛さたるや、四川料理を現地で学んだ日本の料理人たちも口を揃(そろ)えて「あれほど辛くては食べられない」と辟易(へきえき)するほど。内陸に位置し、湿度の高い気候で過ごしている四川の人々は、辛い料理を食べてたくさん汗をかく。そのように聞くとものすごく暑苦しそうだが、汗をかいて身体を冷やすのだ。

そんな四川料理のひとつに、日本人が最も好む中華料理がある。それは「麻婆豆腐(まーぼーどうふ)」である。誕生したのはもう100年以上も前、あばた(麻)のあるお婆さんが考案して評判となったため、その名で呼ばれるようになったのは、有名な話だ。

料理人の陳建民が伝えた麻婆豆腐

さて、この麻婆豆腐、20年以上も前に亡くなった料理人の陳建民が伝えなければ、今頃日本にはない料理だったかもしれない。

1952年、遠い四川省から来日した彼は、結婚して日本に帰化。あくまでも日本の調味料を用いて、故郷の料理を作ることに心を砕いた。陳氏の著書『さすらいの麻婆豆腐』(平凡社)によれば、麻婆豆腐はテレビの料理番組で非常に人気があり、何度もくり返し作り方を披露したという。日本人に馴染みの深い豆腐、価格の安いひき肉や細切れ肉で作れて、しかもご飯が進む味つけだ。日本人向けには、辛みも抑えた。そうすることで、現地とはまたひと味異なる、家庭料理としての麻婆豆腐が完成したのだ。

日本では、四川料理は非常に人気が高い。東京にはこの数年で新店が続々と誕生し、山椒(さんしょう)の香る本格的な麻婆豆腐を楽しめる店が増えている。

写真・文/大沼聡子

 

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