京都の『イノダコーヒ』本店のフレンチトースト。パンの耳は四方が切り落とされて焼かれ、上白糖が雪のように降り積もる。

京都の『イノダコーヒ』本店のフレンチトースト。パンの耳は四方が切り落とされて焼かれ、上白糖が雪のように降り積もる。

海外の朝食を提供するレストランが次々と日本に上陸し、フレンチトーストが人気だ。様々なフレンチトーストの作り方を紹介した料理本まで登場し、フレンチトースト専門店は老若男女で賑わっている。

硬くなってしまったパンを美味しく食べようという知恵から生まれた料理

そもそもフレンチトーストは、硬くなってしまったパンを美味しく食べようという知恵から生まれた料理だ。卵と牛乳を溶き合わせた液に長い時間をかけて浸し、それをフライパンで焼くと、パンがふっくらと蘇(よみがえ)る。ヨーロッパには、主食であるパンを大切にし、決して無駄にしないという文化がある。粉砕して焼き菓子に仕立て直したり、ちぎってスープに入れて煮込んだりもする。日本では「米には神様が宿る」と考えられているが、こうした感覚と共通するものがあるのではないだろうか。

そのような古来からのフレンチトーストのイメージが、本場のフランスでも変わってきているという話を耳にした。フランスではフレンチトーストを「パン・ペルデュ」という。直訳すると「失われたパン」となるが、「硬くなって食べられなくなったパン」という意味を含んでいると見るのがよさそうだ。

ここ数年、パリのビストロの定番デザートになりつつあるのが、このパン・ペルデュなのだ。ただし、ブリオッシュという卵とバターをたっぷり使った濃厚な味わいのパンで作られ、様々なソースでアレンジするのが主流。古めかしいパンの再利用料理が、若い料理人の感性によって新しい献立に生まれ変わり、市民権を得ているようだ。

新しいフレンチトーストも良いが、無性に食べたくなるのは、昔ながらの喫茶店の懐かしさが漂う味。キメの細かい食パンで焼かれたふわっとした食感、慣れ親しんだ佇(たたず)まいに安心する。挽き立ての豆で淹れたコーヒーと共に味わうのが至福のひとときだ。

写真・文/大沼聡子

 

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