毎年、10月も半ばになると、兵庫は丹波篠山(たんばささやま)地区で農家を営む友人から、枝豆が届く。この時季ならではの旬の味覚、「丹波黒(たんばぐろ)」というブランド黒大豆の枝豆だ。
正月のお節料理に欠かせない、黒豆。丹波地方は古くから名産地として名を馳せ、江戸時代には幕府にも献上されていた。
とにもかくにも、大粒である。みっしりと産毛が生えているので入念に擦(こす)り合わせて揉(も)み洗いし、両端を鋏(はさみ)で切り落とし、塩茹(ゆ)でにする。さやから飛び出した豆はのほかに黒い薄皮をまとっており、口に含むと濃厚な香りと旨み。通常の大豆の枝豆とは、ひと味違った美味しさである。
その友人の招きで、収穫体験も兼ねて畑を訪れたことがある。友人の「ぜひ、『波部黒(はべぐろ)』を食べて欲しい」という言葉に誘われたのだ。
じつは「丹波黒」という品種には「川北黒(かわきたぐろ)」と「波部黒」、「兵系(ひょうけい)3号」という3系統がある。なかでも「波部黒」は、波部黒地区だけで採れる黒大豆で、ほとんどが地元のみで流通する「丹波黒」の最高峰だという。地元の人々は皆、口を揃えて「やっぱり波部黒は違う」と言葉にする。なぜそんなにも旨いのだろうか。
篠山盆地は標高200~300mに位置する。夏は蒸し暑く、冬は厳しい寒さに見舞われるため、その寒暖の差が農作物の味を高める。黒大豆にとって大切なのは、秋に降りる霜だ。波部黒地区はとりわけ、しっかりと霜が降りることで知られる。そのわずかな気象条件の差が、味の違いとなる。
確かに、波部黒は旨みが濃い。米でいえば、魚沼産コシヒカリのようなものか。しかし、通常の丹波黒も十分すぎるほどの旨さ。丹波篠山で、贅沢な食べ比べを楽しんだのであった。
写真・文/大沼聡子
※本記事は「まいにちサライ『食いしん坊の味手帖』」2013年11月4日掲載分を転載したものです。