世界遺産で知られる北海道の知床半島の羅臼(らうす)といえば、昆布の名産地だが、それだけではない。訪れると、その海の豊かさを実感できる。鮭やイカ、ホッケなどの漁獲高は道内屈指。地元では、その目の大きさから「メンメ」と呼ばれる高級魚、キンキも脂がのって絶品である。
それもそのはずだ。何十本もの清流が、豊富なミネラルを山から海へと放出している。さらに、オホーツク海からやってくる流氷が、海産物の栄養分となるプランクトンを運んでくる。だから魚種が多く、味もいい。夏ではなく冬にとれるウニは、羅臼昆布をたっぷり食べているのだという。ウニの旨みはなんと、昆布の旨みだったのである。
羅臼では、「幻のエビ」にも出会うことができる。その名は「ブドウエビ」。まさに、殻の色が赤ワインのようなブドウ色なのである。標準和名は「ヒゴロモエビ」というが、地元では「ブドウエビ」の呼び名で親しまれている。
漁の期間は、7月1日からたったの約2か月弱。1日十数キロしか水揚げがないため、稀少価値が高い。時価ではあるが、かつて訪れた際には、一尾あたり2000円ほどと聞いて、高級であることにも驚いた覚えがある。
しかしながら、刺身でいただけば納得。ボタンエビよりも遙(はる)かに、旨みが濃いのである。稀少なだけでなく、味も格上なのだ。「幻」と呼びたくなる訳である。
写真・文/大沼聡子
※本記事は「まいにちサライ『食いしん坊の味手帖』」2013年10月28日掲載分を加筆・転載したものです。