管理職ともなると多くの仕事や責任が求められます。では、管理職の労働時間はどうでしょうか。マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」で、管理職の労働時間について知見を得ましょう。

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自社の管理職の労働時間がまっとうなものなのか、疑問に感じている経営者もいるのではないでしょうか。昔からの就業規則に基づき体制を整えてきたものの、改めて世の中のルールに準拠できているのか、自信を持って正面から答えるのは難しい場合もあるでしょう。

本記事では、管理職の労働時間に関する規定をまとめて解説します。

具体的な管理方法や気をつけたい注意点もお伝えしているので、自社の管理職に対する待遇を見直すヒントが見つけられるようになるはずです。ぜひ参考にしてください。

管理職の労働時間に上限がないといわれる理由は管理監督者の取り扱い

管理職とそれ以外の従業員とで労働時間の考え方が変わってしまうのは、管理監督者の存在が大きく影響しているといえます。

管理監督者とは、経営者と同程度の権限を有していたり、待遇されていたりする管理職です。よって、課長や部長などの役職名ではなく職務の内容に鑑みて判断されます。

管理監督者は、一般職とは労働時間の考え方が異なり、労働基準法における1か月あたりの残業時間や休日に関する上限や規定とはまったくの別枠です。

管理監督職は厚生労働省の定義がありますが、管理職は企業によって考え方がさまざまなため、同一のものとして扱われてしまうケースが多いと整理できます。

参考:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf

適切な対応が求められる「名ばかり管理職」

管理職のなかには、肩書きだけが先行してしまい適切な報酬が支払われない「名ばかり管理職」と呼ばれる方がいます。

具体的には、経営陣レベルの権限はないまま職務や責任だけが重くなり、労働時間や残業代は管理監督職として扱われている従業員です。ちなみに、「みなし管理職」も同様の意味で使われています。適切な対応がなされなければ、労働基準法違反の可能性があり軽視してはならない状態といえます。

名ばかり管理職の代表例として挙げられるのは「日本マクドナルド事件」です。ある店舗の店長が未払いの残業代支払いを求めて会社を提訴し、過去2年分の割増賃金の支払いを勝ち取った事件として当時のニュースで大きく扱われました。

ポイントは、店長は店舗運営に関する職責は果たしていましたが、会社の経営陣と同等の権限や職務は付与されず、賃金も伴っていなかった点です。管理監督者としての待遇に不十分な点があるとの判決が下されています。

もし、自社での労働環境が日本マクドナルド事件と似たような状態の場合、速やかに適切な対応を取る必要があります。そうではないとしても、一度、社内体制や待遇に問題はないかを確認してみてはいかがでしょうか。

参考:日本マクドナルド事件|全国労働基準関係団体連合会https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08626.html

名ばかり管理職の労働時間には上限がある

名ばかり管理職・みなし管理職は実際の管理監督者とは別物であり、以下のとおり労働時間には上限が設けられています。

自社の管理職と比較する材料としてご確認ください。

・労働基準法による所定労働時間の規定
・労働安全衛生法による月80時間残業の規定
・36協定に対する指針による時間外労働の上限規制

労働基準法による所定労働時間の規定

労働基準法が2019年に改正され、所定労働時間について以下の内容を原則として規定しています。

【労働時間 】
1日8時間及び1週40時間

【残業時間】
(原則)
・1か月あたり45時間
・1年あたり360時間

(臨時的な特別な事情がある場合)
・年720時間以内
・時間外労働+休日労働が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」がすべて1か月あたり80時間以内
・時間外労働が1か月で45時間を超えられるのは、1年で6か月までが限度

【休日】
毎週少なくとも1日

なお、残業時間で示した「臨時的な特別な事情がある場合」とは、予定にはなかった業務量の大幅な増加により、時間外労働や休日出勤をせざるを得ない状況を指します。

もし、所定労働時間に違反すると、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあるため、状況把握を怠らぬようモニタリングが必要です。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

労働安全衛生法による月80時間残業の規定

過労死をはじめ、労働者の心身の健康を守るために、労働安全衛生法で残業時間の対処方法が規定されています。

具体的には、月80時間を超える残業をした場合、産業医による面接指導が必要です。

ちなみに、これは管理監督者も適用されるため、残業時間の規定がない管理監督者であっても、「何時間残業しているか」を把握しておく義務が発生します。

長時間労働によって疲労が蓄積してしまうと、健康に障害をきたす可能性が高まるため、医師との面談を通じて心身の状況や改善に向けた指導がなされます。

みなし管理職を筆頭に、すべての労働者の勤務状況把握が企業として求められています。

参考:改正労働安全衛生法のポイント|東京労働局労働基準部健康課
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000372681.pdf

36協定に対する指針による時間外労働の上限規制

従来は、36協定を結んでいればみなし管理職に対して、年間720時間までの残業指示が可能でした。

しかし、労働基準法の改正によって36協定にも上限を設ける必要があります。労働基準法の所定労働時間の内容と重複しますが、重要な内容のため、改めて以下ご確認ください。

・時間外労働は年間720時間以内(労働基準法36条5項かっこ書き)
・時間外労働及び休日労働の合計が、複数月(2~6か月のすべて)平均で80時間以内(同法36条6項3号)
・時間外労働及び休日労働の合計が、1か月当たり100時間未満(同法36条6項2号)
・原則である1か月当たり45時間を超えられるのは1年につき6か月以内(同法36条5項かっこ書き)

なお、厚生労働省が作成した36協定に関する指針のなかでは、時間外労働は最小限に留めるべきとの留意点も挙げられています。昨今問題となっている過労死との関連性が強まることを懸念してのアナウンスです。くれぐれも、管理職だからとの理由で過度な時間外労働が常態化しないよう、指針に基づいた管理を徹底しましょう。

参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf

管理職の時間外労働を把握・管理する方法【厚生労働省ガイドライン】

管理監督者であろうと、管理職であろうと時間外労働の把握や管理は必要です。

具体的にどうやって把握し管理すべきなのか、以下2点の内容に整理してお伝えします。

・客観的な方法で勤務時間を記録して残す
・経営陣自らが勤務時間を記録して残す【安全配慮義務】

客観的な方法で勤務時間を記録して残す

企業全体として効率的に取り組める方法として、タイムカードやICカード、勤怠管理システムなどを活用する方法があります。

タイムカードは比較的安価に導入できるため、勤務時間記録のきっかけとして始めやすいでしょう。また、ICカードや勤怠管理システムであれば、データで集計できるメリットがあります。ただし、いずれの方法も人事担当者への負担増が懸念されます。

負担が集中しないように、自社にとって最適な方法を実務レベルに落とし込む配慮は忘れないようにしましょう。

経営陣自らが勤務時間を記録して残す【安全配慮義務】

客観的な方法とは別に、経営陣が現場を回って勤務状況を把握する方法もあります。

規模の大きな企業にはあまり適さないかもしれませんが、過重労働防止の観点(安全配慮義務)で有効です。

安全配慮義務とは「職場環境配慮義務」と「健康配慮義務」の2つの観点で、従業員が安全に働ける環境を整える意味を持っています。

職場環境配慮義務では、設備のメンテナンスや操作の指導など、安全に働くための労働環境を整えます。もう一つの健康配慮義務では、従業員の心身の健康がチェック範囲です。

経営陣自らが勤務時間を記録するうえで、安全配慮義務に応じた現場の把握ができれば、今まで見えていなかった課題やすぐに取り組むべき改善点など、副次的な効果が期待できます。

管理職の労働時間管理における注意点

管理職の労働時間は以下3つの注意点に気をつけながら、管理する必要があります。

法律上の罰則にあたる内容も含まれているため、ひとつずつ目を通すようにしてください。

・管理監督者であっても深夜勤務は残業代支給の対象
・有給休暇は部長や課長など対象者を問わない
・勤怠管理の記録保存を違反すると罰則が設けられている

管理監督者であっても深夜勤務は残業代支給の対象

深夜手当については、労働基準法第37条第4項に定められており、原則として午後10時から午前5時までの労働に対しては25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。

管理監督者は自身の業務時間をフレキシブルに設定できるという面がありますが、もし経営陣のなかで深夜帯に勤務している方がいた場合は、残業代の支給対象との認識をもち、適正な対応をとりましょう。

有給休暇は部長や課長など対象者を問わない

有給休暇はすべての労働者が持っている権利です。管理監督者であろうと例外には当たりません。

勤務年数に応じた年次有給休暇の付与や、年に10日以上の有給休暇があれば、年5日以上の有給休暇取得義務の対象者となります。

勤怠管理の記録保存を違反すると罰則が設けられている

管理職の労働時間管理に用いる労働者名簿や賃金台帳、出勤簿のいずれも、義務違反に対する罰則が設けられています。

具体的には、労働基準法120条により30万円以下の罰金が課せられる可能性があります。

紙媒体で記録を残している場合は、デジタルデータで残す方法を検討し、すでにデータで保管・管理している場合は、セキュリティが十分に担保できているかを確認するとよいでしょう。

まとめ

管理職であっても労働時間の管理は必要です。

実際には管理監督職にあたる、経営に資する職務を果たしている従業員以外は、1日の労働時間や月の残業時間に上限が定められています。管理職の肩書きを理由に残業代や有給を支給しない場合、法律違反として罰則の対象とみなされるかもしれません。

従業員が安全に、そして安心して職務をまっとうするためにも、管理職の時間外労働の把握方法の確認から進めてみてはいかがでしょうか。

【この記事を書いた人】
識学総研 編集部/『「マネジメント」を身近に。』をコンセプトに、マネジメント業務の助けになる記事を制作中。3,000社以上に導入された識学メソッドも公開中です。
・コンサルタント紹介はこちらから https://corp.shikigaku.jp/introduction/consultant

引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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