定年後の人生。そろそろ考えなければならない、と思う人も多いのではないだろうか。リーダーシップとマネジメントに悩む、マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、定年後の人生、さらに働き続けられる方法を学ぼう。
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定年後も働く時代に、環境の変化に負けないビジネススキルを身につけるための心構えとは
「人生100年時代」といわれる現代、自分は一生使えるビジネススキルを身につけることができるのかと、不安を感じる人は多いのではないでしょうか。
厚生労働省の調査によると、老後の生計を支える手段として、公的年金よりも就労収入を頼りにすると考える若い世代は半数近くにも及びます。[1]
この事実は、それほどまでに「定年後も働く」と考えている人が多いことを意味しています。
では、定年後も働く時代にあって、実際の環境の変化に負けないビジネススキルを身につけるために、ビジネスパーソンはどのように仕事に取り組めば良いのでしょうか。
一緒に考えていきたいと思います。
老後も働き続ける社会
みなさんが想像する「老後」はどのようなイメージでしょうか。
急速に進む少子高齢化や、若い世代の3人に1人が非正規雇用[2]という影響もあり、現役世代の約8割の人が「公的年金が老後生活に十分であるか」に不安を感じているといいます[3]。
実際に、平成29年度の厚生年金受給者の平均年金月額は約14万円[4]、国民年金受給者の平均年金月額は約5万5千円となっており[5]、公的年金だけでは老後の最低日常生活費(生命保険文化センター調べ)の22万円[6]には届きません。
また、現在退職給付金制度のある会社が80.5%ありますが[7]、この10年間でその数は約3%減少しており[8]、大学・大学院卒の管理・事務・技術職の退職給付金を見ると500万円以上も減少しているのが現状です[9][10]。
このような状況では、若者を中心とした現役世代が「老後も働き続けなければ暮らしが成り立たない」と考えるのは無理もないと言えるでしょう。
老後も続けられる仕事とは?
では、「老後も働き続ける」と考えたときに、高齢で仕事を得るにはどうしたらいいのでしょうか?
まずは現実的な対策から考えていきましょう。
会社の継続雇用制度を利用する
まず思いつくのは、現在働いている会社の「継続雇用制度」を利用する方法です。
これは、定年退職を迎える社員が「引き続き働きたい」と希望した場合に会社が継続して雇用する制度です[11]。
一見するともっとも確実な方法に思えますが、現在働いている会社が将来どうなるかはわかりません。人間関係や給与など、勤務環境が良いものであるかも未知数です。
まして、十分なスキルが無いのであればその可能性もますます望み薄になるでしょう。
ハローワーク、シニア向けの転職サイトで仕事を探す
仕事を得るには、ハローワークや求人雑誌、転職サイトなどで仕事を探す方法もあります。
総務省の調査では、高齢者が就業する業種としてもっとも多いのは「卸売・小売業」、次いで「農業・林業」「製造業」「サービス業」となっており[12]、街中ではスーパーのレジ業務、試食販売、清掃、警備、配達員などに高齢の従業員が多く見られるようになってきました。
まずはこの辺りが、現実的な「老後の仕事」と言えるでしょう。
働きながら資格を取る
近年人手不足が叫ばれる介護業界では、病院や施設で働きながら介護系の資格を取得できる[13]ケースもあります。しかし、高齢になるほど体力は低下するため、健康面によほど自身がなければ難しいかもしれません。
日々の勉強をこなしながら、試験勉強をこなすのも相当な意志の強さが必要です。
さらに考えなくてはならないことは、環境の劇的変化です。
今の現役世代が老後を迎える20~30年後には「業種や働き方が大きく変化している可能性がある」という事実です。
実際にインターネットの普及とAI技術の進化により、「将来的に日本にある仕事の約半数がAIやロボット等に代替可能」という衝撃的なデータが発表されています[14]。
このデータを発表した野村総合研究所(英オックスフォード大学との共同研究)によると、「AIやロボットに代替される可能性の高い業種」として事務員・各種オペーレーター・清掃作業員・配達員などが挙げられました。
逆に「代替される可能性の低い業種」としてデザイナー・編集者・医師・カウンセラー・コーディネーターなどが挙げられています。[14]
つまりこれからも残る仕事とは、感情・思考・創造性を伴う「人間にしかできない仕事」「何かを創り出す仕事」であると言って良いでしょう。
現役ビジネスパーソンはどうあるべきなのか
そうは言っても、「自分に何ができるだろう?」と不安の声が聞こえてきそうです。
不安を軽くするためには、現実的な対策と、長い目で見た「活きる知識」を身に付けなくてはなりません。
それは、以下のようなものでしょう。
まずは「お金」という体力を
働き続けるにしても、いずれかのタイミングで起業を考えるとしても、あるいは予期せぬ病気やケガに備えるためにも、ある程度の預貯金は必要です。会社の財形貯蓄制度や積立定期預金を利用するなど、少額でもコツコツと貯め続けることが大切です。
このことは、決して軽く見てはいけません。
起業資金融資で知られる日本政策金融公庫は、その融資に当たり、計画的な資金の積み上げを何よりも重視します。
健康を維持する
いつまでも元気に働くには体が資本となります。中高年から増え始める生活習慣病を予防するためにも、栄養バランスのとれた食習慣や運動習慣で健康維持を心がけましょう。
地味なことを言うようですが、地に足をつけて将来を考えるためには、まずはお金と健康です。
ポータブル・スキルを磨く
その上で、ビジネスパーソンとして成功するためにも、起業を考える上でも、「ポータブル・スキル」という考え方はとても重要です。
日本の社会では、転職によってキャリアダウンを余儀なくされるケースが多く、また中高年以降の再就職を困難にする原因のひとつに「ポータブル・スキルの低さ」があると言われています[15]。
『下流老人』の著者であり、ソーシャルワーカーとして生活困窮者支援を行っている藤田孝典氏はその著書で、ポータブル・スキルを「業種や職場が変わっても持ち運び可能な能力」[15]と定義しています。これは「どの会社に行っても通用するスキル」と言い換えても良いでしょう。
藤田氏によると、日本ではその会社でしか通用しない「暗黙のルール」が多く存在し、職場が変わるたびに再教育が必要となるため、高齢の社員は「費用対効果が薄い(コスパが悪い)」と考えて敬遠されてしまうというのです。[15]
転職や再就職で役立つのは、今の会社だけで役立つスキルではなく、どこに行っても重宝されるポータブル・スキルです。起業であっても同様です。
業種に関連した資格をはじめ、コミュニケーション能力やマネジメント能力に長けていれば、職場が変わっても即戦力となる可能性が高いでしょう。
さらに、そのスキルを適切にアピールする能力も必要です。
残念なビジネスパーソンにならないために
また、投資家・作家として多くの著書がある本田直之氏によると、残念なビジネスパーソンの共通点として「変化を恐れる人」を挙げています[16]。
従来のやり方にこだわる、新しい考えを受け入れられないなど、「変われない人、変えられない人、変わることを恐れる人」[16]は、先程も述べたAI時代で生き残るにはリスクが大きいということでしょう。
さまざまな人付き合いを通して異なる意見に触れる、好奇心を失わず新しいことに挑戦するなど、残念なビジネスパーソンにならないために視野を広く持つことが大切です。
会社に依存せず「自分で仕事を創る」ことを考える
「今後はクリエイティブな業種が生き残る」という視点は、さきほど述べた野村総合研究所のデータだけでなくビジネス書やメディアを通して多くの著名人が述べていることです。
「クリエイティブな仕事」というとアーティストやデザイナーを想像しますが、決してそのような仕事だけではありません。
会社員時代に培ってきた知識・技術、さらには特技・趣味・経験を掛け合わせて、新しい仕事を創れないか考えてみることも有効でしょう。
インターネットが普及した現代では、SNSやブログを通して自分の特技を発信することができるため、そこから新たな仕事に繋がることもあります。
また、会社の中で新しいシステムを考える、プロジェクトを立ち上げるなど「新しい何か」を創り出すことも現職場や転職先での評価に繋がるはずです。
まとめ
繰り返しになりますが、AI時代の到来により将来的に仕事を失う業種が出てくるのは避けられそうにありません。
働き続けることを求められる現代人には、老後の働き方を具体的に考えるとともに、変化を恐れない柔軟な思考が必要です。
その上で、繰り返しになりますが健康とお金は日々のコツコツした努力の積み重ねです。
ビジネスパーソンとして成功するためには、健全な心と体を維持する努力に何よりも注意を払いましょう。
参照
[1]平成28年度社会保障を支える世代に関する意識調査 報告書(厚生労働省) p.27 図33
[2]内閣府 平成27年版 子供・若者白書(全体版) 労働
[3]平成28年度社会保障を支える世代に関する意識調査 報告書(厚生労働省) p.24 図30
[4]平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況 – 厚生労働省https://www.mhlw.go.jp › content p.8(厚生年金平均月額)
[5]平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況 – 厚生労働省https://www.mhlw.go.jp › content p.20(国民年金平均月額)
[6]老後の生活費はいくらくらい必要と考える? – 生命保険文化センターhttps://www.jili.or.jp › lifeplan › lifesecurity › oldage
[7]平成30年就労条件総合調査結果の概況 退職給付(一時金・年金)制度 厚生労働省 1ページ目
[8]平成20年就労条件総合調査結果の概況 退職給付金(一時金・年金)制度 厚生労働省 1ページ目
[9]平成20年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態 厚生労働省 第25表
[10]平成30年度就労条件総合調査結果の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態 厚生労働省 第23表
[11]高年齢者の雇用 |厚生労働省https://www.mhlw.go.jp › koyou_roudou › koyou › jigyounushi › page09
[12]高齢者の就業 – 総務省統計局https://www.stat.go.jp › data › topics › topi1133
[13]介護福祉士国家試験 受験資格(公益財団法人 社会福祉振興・試験センター)
[14]日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~ 601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~(野村総合研究所)
[15]続・下流老人 一億総疲弊社会の到来(藤田孝典・朝日新書)p.101-102
[16]50歳からのゼロ・リセット 「手放す」ことで初めて手に入るもの(本田直之・青春出版社)p.31-32
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いかがだっただろうか。定年後とはいえ、まだまだ働き続けなければならない日本。いつまでも生き生きと働けるだけの体力とスキルを身につけたいものである。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/