最近、AIが代わりに仕事を行ってくれる時代が来る、といった話題も見かけます。AIの進化で、仕事がなくなってしまうことはあるのでしょうか? マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」では、AIによってなくなってしまう可能性のある仕事、なくならない仕事について考察しています。
* * *
AIの進化が驚くべき速度で進む現代では、AIによりなくなる仕事がでてきています。そのような時代で生き残るには、AIへの理解を深めなくてはなりません。AIによりなくなる仕事と残る仕事、そしてAIと共存するためのポイントを解説します。
AIとは?
AIとは人工知能(Artificial Intelligence)のことです。近年は特にAI技術に注目が集まっていますが、AIという言葉が初めて使われたのは1956年で、アメリカの計算機科学者・認知科学者のジョン・マッカーシー教授が使った言葉だとされています(※)。
※参考:国土交通省 コラム「人工知能(AI)」の歴史https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h30/hakusho/r01/html/n1122c01.html
AIは、本来は知的な機械やプログラムを作る技術として翻訳されていました。しかし、AIの研究やデジタル技術の発展により、近年はAIの定義が幅広くなりました。人工的に作られた知能であることだけでなく、人に似た振る舞いをするシステムや、知能や心を持つロボットなどもAIと表現されています。
一般的には、人間の思考と似たプロセスで動作をし、自ら学ぶプログラムがAIと呼ばれています。
対話型AIの台頭
昨今、注目を集めているのがChatGPTやBardといった対話型AIです。ChatGPTとは、OpenAI社が2022年11月にリリースしたAIチャットサービスです。ユーザーが入力した質問に対し、自然な対話形式でAIが回答していきます。回答精度の高さが話題となり、利用者が急増しています。
Bardとは、Googleが発表した対話型AIサービスです。こちらもChatGPTと同じく人間と会話するようなスムーズさで、AIがユーザーの質問に回答できるところが特徴です。なお、2023年6月現在は試験運用中であるため、今後の正式発表が期待されています。
AIによって人間の仕事がなくなると言われている理由
2015年に日本の労働人口の49%がAIやロボットで代替が可能になるというデータが、オックスフォード大学と野村総研から発表されました。(※)当時、約半数の人がAIやロボットに仕事を奪われるというデータには、衝撃が走りました。
※参考:野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
なぜAIにより人間の仕事がなくなるといわれているのでしょうか。次の項目にて詳しく解説していきます。
単純作業を自動化できる
AIやロボットには、情報処理・正確性・継続性・スピードといった、人間の能力では限界のある部分を補えるという特徴があります。人間がAIに仕事の内容や手順を覚えさせれば、AIはそれをすぐに学習し、正確に実行できるようになります。
特に単純作業において人間は、疲労によってミスが増えたり、長い間作業することで集中力が落ちたりと、さまざまな原因で間違いを起こしやすい傾向にあるでしょう。
一方、AIにはそういった処理能力の限界なども少ないため、正確な作業を24時間継続できます。情報処理能力も高く、作業だけでなく計算やデータの整理などもスピーディかつ正確にこなせます。
人間の場合はどうしてもヒューマンエラーが発生することがあるでしょう。これは人間が肉体と感情を持っている限り、解決は難しい部分です。この部分が人間はAIに勝てず、仕事を奪われると言われている大きな理由です。
学習によって創作活動もできる
AIはインターネット上にある膨大なデータを記憶し、学習していきます。単純作業や、正確性とスピードが第一に求められる業務はもちろん、学習したデータを基に新たに創作することも可能です。
小説や脚本をはじめとした物語や台本制作の他、作曲やイラスト作成などもAIの手を借りて行えるようになっています。また、AIによって直接的に作品を完成させるだけでなく、AIとの対話において着想を得て、創作活動に活かすこともできるでしょう。
AIによってなくなる可能性のある仕事
AIによりなくなる仕事とされている職種には、パターン化やルーティン化できるものが目立ちます。どのような仕事が該当するのか、なくなるといわれる理由とあわせて知っておきましょう。
1.一般事務員
一般事務の仕事はデータ入力や計算、電話対応などが主なものです。データの入力や処理、計算はAIが非常に得意とする分野です。ミスも発生しないため、これらの作業は早い段階でAIに代替される可能性があります。
少し前までは、紙や音声のデータをパソコンに入力する場合は人の手が必要でした。しかし、画像認識や音声認識の登場でその問題は解決され、さらにAI活用の幅が広がっています。今後AI導入のハードルが下がれば、一般事務の仕事はなくなる可能性が高いです。
2.警備員
警備員のうち、監視業務はAIやロボットによって早い段階で代替される可能性があります。監視カメラやセンサーの技術が大きく進化したことで、不審者やトラブルの発生を高確率で発見できるようになってきたためです。加えて、AIは疲れによる能力の低下がなく、24時間365日高い水準の監視が可能です。
また、近年は決められたルートを巡回する警備ロボットも登場しました。これによって犯罪の抑止力も高くなったため、警備員の仕事はAIに代替される可能性が高くなっています。
3.スーパーやコンビニの店員
新型コロナウイルスへの対策として、スーパーマーケットやコンビニエンスストアではセルフレジやレジを使わない精算方法が導入されました。
この流れが進めば、スーパーやコンビニ店員のレジ打ちはなくなる可能性が高いでしょう。商品や売上のデータ処理もAIの方が素早く正確であるため、在庫管理や発注業務、日々の売上管理業務などもなくなるかもしれません。
さらに、近年はECサイトやバーチャル空間の利用率が高まっています。家にいながら必要なものを得られる時代になり、さらには仮想現実の世界でも買い物を楽しめる時代です。いずれは実店舗や小売店の必要性そのものが問われる時が来るかもしれません。
4.銀行員
銀行員の仕事の内、数字のチェックや入力をはじめとした単純業務や、査定や融資の審査などデータを元に判断をする業務はAIに置き換わる可能性が高いでしょう。
さらに、情報量や統計が重要になる資産運用や株価の予測も、人間が持つ知識や経験よりAIのビッグデータの方が圧倒的に有利です。
キャッシュレス化やFinTech(金融と技術の組み合わせ)の活用が広がる流れも手伝い、銀行のあり方そのものが変化すると考えられています。新規商品の開発や顧客とのコミュニケーションなど、人が必要になる業務もありますが、かなりの割合でAI化が進む業種だと考えられます。
5.ライター
ライターの仕事もAIによって多くが代替されると考えられています。ChatGPTに代表される文章自動生成AIの進化は目覚ましく、ルールを指定してテーマを設定するだけで、AIが自然な文章を作成してくれます。
AIが書く文章の情報元はインターネットが基本です。そのため、ライターの中でもインターネットで集めた情報を記事にするだけの業務は、早い段階でAIに代替される可能性が高いでしょう。
6.タクシー運転手
タクシーやバスの運転は、自動運転技術が進化すれば全て自動化されるといわれています。人や物を感知してブレーキをかけるシステムや、カーナビゲーションシステムは既に整い始めています。あとは、これらを運転システムと結びつけて処理できるAIと、自動運転技術が整えば自動運転タクシーは実用化されるでしょう。
実際に、都内では自動運転レーンの整備を検討しているという情報があり、政府も自動運転タクシーの導入には積極的な姿勢をみせています。
全てのタクシーが無人化するのはまだまだ先のことかもしれませんが、タクシーをはじめとしたドライバー職は、いずれは減っていく業種であると考えられます。
7.工場勤務者
工場勤務の中でも、ライン作業といわれる単純作業に従事する人の数は、AIの普及とともに減っていくと考えられます。AIは単純作業を継続することが非常に得意であり、高い精度とスピーディな業務を24時間365日休まず続けられるためです。オートメーション化しやすい業務が中心の工場ほど、従業員の仕事がAIに代替する割合は高くなるでしょう。
また、在庫管理や不良品の発見、危険が伴う業務など、工場での業務はAIやロボットが得意とするものが目立ちます。AI導入のハードルが下がれば、完全無人の工場も登場するかもしれません。
8.建設現場作業員
人手不足が深刻な建設現場では、AIやロボットの導入が積極的に進められるようになりました。掘削機やクレーンなど、建設現場で活躍する大型重機もAIで制御され、無人化していくと考えられます。
実際に一部の建設業者では、AIやロボットを導入して単純作業の自動化や、ベテラン作業員の作業情報をAIに学習させる試みなどが始まっているのです。
さらに、ドローンを使って現場全体の進捗を判定することや、作業員のシフト管理など、重機を使う業務以外の部分にもAIは活用され始めています。AIやロボットが本格的に活躍するようになれば、人間の必要性は薄れていくと考えられます。
9.薬剤師
薬剤師の仕事の内、薬の調剤と鑑査に関しては既に自動化が進んでいます。いずれも現段階では人間の業務をサポートする自動化のレベルですが、AIが浸透すれば人の手がほとんど不要になると考えられます。
さらに近年は、マイナンバーカードとの連携による電子処方箋の解禁や、医薬品のインターネット販売が可能になったことなどから、薬局の必要性が薄れ始めているでしょう。こうした変化も相まって、薬剤師の仕事は減ると考えられています。
しかし、服薬指導に関しては当面の間、人間の仕事として残るでしょう。薬の飲み方を通知することはAIにもできますが、患者さんの細かい体調の変化や生活環境、食生活などを考えたアドバイスはまだまだ難しいからです。
10.ホテルのフロント係
ホテルのフロント係は、既にロボットが担当している施設もでてきています。予約内容に従って受付をし、鍵を渡すという単純作業は、AIが得意とする分野です。
また、支払いも精算機を使えば人の手が不要であり、キャッシュレス化の波も手伝って、人からAIに交代されやすくなっています。さらに、AIは学習すれば多言語を容易に扱えるようになります。海外からの利用客にも対応できるため、外国人が多いエリアでは特に重宝される存在になるでしょう。
ホテルの周辺情報や近隣施設の情報なども膨大な量を処理できるため、利用者を案内する役割は人が担う必要がなくなっていくでしょう。
11.鉄道運転士・車掌
鉄道は自動車よりも自動運転技術が進歩しており、モノレールでは既にATO(自動列車運転装置)が実用されています。鉄道でも自動運転化を進める動きがあり、JR東日本やJR九州では添乗員付き自動運転を目指しています。
一方、人や車の侵入に代表される突発的なトラブルへの対応と、安全の確保には現状人の力が必要です。しかし、鉄道の自動運転化は自動車よりも早く進み、障害物の検知システムも開発が続けられています。必要な運転士や車掌の数は減少していき、すべての電車が完全無人で走行するようになる日が来る可能性は高いのかもしれません。
AIによってなくならない仕事
現在のAIには、人間の感情を理解したりゼロから新しいことを作り出したりする力はありません。現時点では信頼関係や安心感が求められる仕事やクリエイティブな仕事はなくならないと考えられます。
1.ITエンジニア
ITエンジニアの仕事は、デジタル技術の開発や運用、メンテナンスなどを行うものです。ITエンジニアがいなければ、AIやロボットの不具合や故障は修復できません。そのため、AIが進化しても簡単には消えることがないと考えられます。
実際にAIが普及するにつれて、ITエンジニアは人材不足になりつつあります。AIが自己修復やアップグレード、開発までできるようになるかは分かりませんが、当面の間はITエンジニアという職はAIに代替されることはないでしょう。
2.データサイエンティスト
データサイエンティストはAIが保有するビッグデータやデジタルデータの中から、必要な情報を読み解き、合理的かつ効果的な判断を行います。
データの収集や分析はAIを利用しつつ、人間にしかない発想力や創造力でより有用な情報へと構造化する必要があるため、この仕事も人間だけができるものです。
また、構造化した情報を元にクライアントに提案をしたり、ビジネス戦略に活用したりすることもデータサイエンティストの仕事です。これもAIがまだできないことであるため、なくならない仕事だと考えられます。
3.営業職
営業職は取引先との信頼関係がとても重要な職業です。商品やサービスが非常に優れていても、営業担当者のアプローチが取引先の心に響かなければ、なかなか良い結果は得られません。
AIには人間の感情を読み取ることや、空気を読むことはまだできない状態です。取引相手の人柄や提案に対する反応、その場の流れを読んだ臨機応変な交渉はできません。そのため、人と人とのつながりが重視される営業職は、AI技術が進化してもなくならないでしょう。
4.コンサルタント
コンサルタントも営業職と同様に、人と人とのつながりが重要な職業です。クライアントのニーズ、感情の変化を読み取り、相談に乗って効果的な提案をすることがコンサルタントには求められます。
コンサルタントも意識する市場の流れや株価の変動を収集してデータ化することは、AIが得意とする部分です。しかし、それをクライアントが求める形で分かりやすく伝え、きめ細やかなコンサルティングをすることは人間にしかできないでしょう。
5.医師・看護師
医師や看護師にも信頼感が求められ、自分の体をAIに診断されることに抵抗を持つ人はなかなか減らないと考えられています。
また、人の手による繊細な作業が医療の現場では必要不可欠であるため、それらすべてがAIやロボットに置き換わる日はまだまだ先のことでしょう。
一方で、カルテの管理や治療計画の立案、人の手が届かない部位の手術などでは、既にAIやロボットが活躍し始めています。医療現場では、今後もAIと人間が業務を分けて共存していくと考えられます。
6.介護士
介護士には肉体的なサポートに加えて、心の支えになることも求められます。また、介護施設やサービスの利用者だけでなく、その家族に対する多角的なケアが求められる場面もあります。
AIやロボットは、肉体の変化には気付けても、相手の気持ちを察知することができません。また、設定されていない業務への対応は難しいのです。
そのため、生活支援や体位変換、リハビリテーションのサポートなどではロボットが活躍することはあっても、コミュニケーションや心のケアは人間が担い続けるであろうと予想されます。
7.教師
教師の仕事は授業をするだけではなく、子どもの心を育てることや、社会性を身に付けさせることも含まれます。子どもの個性に合わせた対応と気持ちに寄り添うことが求められ、この部分がAIにはできません。
また、学校は子どもがコミュニケーション能力を付け、人間関係を作るための場でもあります。そうした成長の場では、より多くの人との触れ合いが重要です。この点からも教師の立場がAIに完全に奪われることはないでしょう。
教育の場では、AIは授業のサポートや雑務を処理する存在として活用されていくと思われます。
8.保育士
保育士も教師と同様、子どもの個性に合わせて心と体を育む対応が求められます。また、親から長時間離れる子どもに対して、安心感を与えられるのは人間だけです。AIでは子どもの安全を守ることは可能でも、安心して過ごせる時間を提供することはできません。
また、2歳~5歳くらいまでの子どもは行動や思考が予測できず、マニュアル化が非常に困難です。ルールのない業務はAIが苦手な部分であるため、子どもが利用する施設でAIが活躍できるのは、データ入力や掃除などの一部の業務に限られるでしょう。
AIと共存して働く2つのポイント
AIと共存して働くためには、AIに関する知識を身に付けて人間だけができることを見つけることが重要です。
1.AIに関する知識を身に付ける
AIは情報処理能力が高く、疲れ知らずで高いパフォーマンスを維持できる優秀な存在です。しかし、AIは全てにおいて万能というわけではなく、あくまでも人間が使うシステムの一つにすぎません。
そのため、共存して働いていくにはAIに関する知識を身に付け、AIと競うのではなく利用する側に回ることが大切です。
AIが得意とする分野や苦手とする分野を把握し、どのような活用方法があるのかを学びましょう。AIの強みだけでなく、AIの癖やAIを使うデメリットを知ることも大切です。
2.AIにはできないことを考え生み出す
AIは無の状態から何かを生み出すことはできません。しかし、人間には発想力や創造力があり、ゼロから何かを作ることができます。この人間特有の能力を活かして、AIにはできないことを考えてみましょう。
例えば、今までになかった新商品やサービスの開発、独創的なデザイン、新しい技術や遊びなどが挙げられます。
AIができないことを見つけて、それを形にする仕事は、AIがどれほど進化してもできないものです。スキルや知識を身に付け、AIの先を行く考えを仕事にしましょう。
AIによりなくなる仕事はチャンスにも変えられる
AIが進化するほどに人間が担当する業務は減り、将来的には半分ほどがAIによりなくなる仕事であると懸念されています。AIによりなくなるとされる仕事の関連会社にはショッキングな情報ですが、なくなる理由を理解すればチャンスにもなり得ます。
AIはあくまでも利用するものであり、競うものではありません。人間にしかできない強みを活かして、ビジネスチャンスにつなげましょう。
【この記事を書いた人】
識学総研 編集部/『「マネジメント」を身近に。』をコンセプトに、マネジメント業務の助けになる記事を制作中。3,000社以上に導入された識学メソッドも公開中です。
・コンサルタント紹介はこちらから https://corp.shikigaku.jp/introduction/consultant
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/