絶大な人気を誇るコミック『キングダム』。マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp/)」では、その登場人物から、多くの学びを得ることができるという。早速、ご紹介しよう。
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原泰久さんの『キングダム』は、『週刊少年ヤングジャンプ』にて2006年より掲載されている漫画です。その人気から2022年には実写映画の2作品目が公開予定であり、日本を代表する漫画のひとつとなっています。
『キングダム』は個性的なキャラクターが複数登場しますが、物語序盤から主人公「信」と共に行動し、軍師として活躍する「河了貂(かりょうてん)」もその中のひとりです。
仲間たちが厚い信頼を寄せる河了貂からは、組織を導くための姿勢やマネジメント術を学ぶことができます。
キングダムとは
※本記事はネタバレを含みます。
『キングダム』は、春秋戦国時代と呼ばれる2000年以上前の中国を舞台にした作品で、「信」という名の戦争孤児が天下の大将軍を目指す物語です。
信は戦争の孤児として田舎に暮らす下僕の少年。同じく下僕として生活する親友の漂と切磋琢磨しながら生活を送っていました。物語はそんな漂が、大王の身代わりとして暗殺されるところから幕を開けます。
漂が息絶える寸前に信に放った言葉、「俺を天下に連れて行ってくれ」。その最期の親友の言葉を背負い、信は中華一の大将軍になる決意をするのです。
物語序盤、大王「政」と行動を共にする信は、追手から逃げる中である少年(※)に遭遇します。少年は、鳥の頭のような仮面を付けており、聞けば梟鳴族という山民族の末裔とのこと。金のためなら何でもやるという少年の言葉を信頼し、信たちは少年「河了貂」を仲間に引き入れ、追手からの逃走を続けることになります。
※河了貂は当初、少年のように描かれていますが、後に女性だということが発覚します。
キングダムはなぜ日本でヒットしたのか?
主役や脇役を問わず、個性的なキャラクターが現れる『キングダム』は、読者にとって自身の状況や心境に当てはまる人物を見つけやすい作品です。したがって、他の作品よりも、ストーリーに感情移入しやすいことがヒットの要因でしょう。
ストーリーに感銘を受け、お気に入りの武将が頭に思い浮かぶという方は既に『キングダム』の魅力に引き込まれているといって間違いありません。
キングダムが日本社会に与えたもの
『キングダム』が日本社会に与えたものは、夢に恋い焦がれる人への「熱」でした。
春秋戦国時代と現代とでは一見繋がりがないように思えますが、当時も今も変わらぬことがひとつだけ。それは、皆夢を持って生きているということです。
「自分が目指す道は何か」や「夢を叶えるためにはどうしたらいいのか」と悩んでいる人にとって、『キングダム』は道標になる漫画です。夢を叶えるため、日々「熱」を持って暮らすこと。そんな大切なことを『キングダム』は私たちに教えてくれます。
飛信隊において絶対的な信頼を得ている軍師「河了貂」
河了貂は、他の登場人物と違って華奢な女性です。しかし、屈強な男たちに負けない信念、頭脳を用いて飛信隊(『キングダム』の信が率いる軍隊)の軍師としての役割を全うします。河了貂の活躍からは、組織をまとめ上げるのに必要な能力を理解することができます。
ここからは、河了貂について深堀りしていきます。
河了貂とは? キングダムの真のヒロイン【ネタバレあり】
出身 黒卑村
所属 秦
性別 女性
声優 釘宮理恵
実写 橋本環奈
実写『キングダム』で橋本環奈が演じた河了貂は、史実には登場しないオリジナルキャラクターです。信と政に追手から逃れるための抜け道を教えてくれた人物で、その動機は「お金がありそうだから」。現実的な河了貂を見て笑ってしまったという読者も多いことでしょう。
ふたりを手助けした後、王宮までついて行かないとお金がもらえないという話になり、河了貂はしぶしぶ信についていくことになります。
しかし、信たちと行動する中で、信のそばが居心地のよいことに気づき、段々と信が率いる「飛信隊」の中核を担う人物となります。
『キングダム』の作者、原泰久さんによると、漫画の構想段階では登場させる予定はなかったそうですが「王都奪還」まで物語が進むと、追加のキャラクターが必要だったため、河了貂を信一派に入れたそうです。
飛信隊における河了貂の役割
河了貂は当初、吹き矢を使用して信たちのサポートをしていましたが、「王都奪還編」以降、河了貂の吹き矢は豪傑が揃った戦場では役に立たなくなり、ひとり家で孤独を感じる日々を過ごします。それでも、河了貂は諦めませんでした。
信が夢のために邁進する姿を見ている河了貂は、役に立てる方法を模索し、軍師になることを決断しました。そして、昌平君の軍師学校で修行をした河了貂は軍師として信たちの前に再び登場します。
その後、飛信隊の頭脳として隊に適切な指示を与える姿からは、信の躍進は河了貂なくしてあり得なかったことが見て取れます。
河了貂の実績と軍師として発揮された能力
ここからは、河了貂の実績や能力を解説します。これまで河了貂が大きく活躍したのは以下ふたつの戦いです。
・万極戦
・黒羊丘攻略戦
河了貂は、ときには秦国最強の軍師である「昌平君」にも劣らない力を見せつけます。それぞれの戦いにおいて、河了貂なくして勝利はあり得なかったのです。
万極戦における活躍
趙国の将軍「万極」との戦いにおいて、信の軍団「飛信隊」は、上司「麃公将軍」の援護として参加することになりました。圧倒的な強さを持つ秦国の藨公将軍でも万極軍を追い詰めることは叶わず、長期戦になります。
時間が経つにつれて、飛信隊が疲労により分裂してしまったため、河了貂は軍師という立場でありながら、隊を整えるために乱戦の中に潜り込み、隊を立て直します。
万極の精鋭隊と戦う信の元へ到着した河了貂は、信が敵将「万極」と戦えるように隊をまとめあげます。河了貂のサポートなくして、信は万極の元へ辿り着くことはできなかったでしょう。
黒羊丘攻略戦における活躍
黒羊丘攻略戦では、河了貂の「信じる」戦略に秦は救われています。黒羊丘攻略戦において、飛信隊は敵軍に川の対岸を占拠されたことでなす術がなくなってしまいます。圧倒的に不利な状態であり、秦国一の頭脳を持つ「昌平君」ですら「策が無い」と判断するほどの事態でした。
こうしたなか、河了貂は道を切り開くために飛信隊の副隊長「渕」に重大な任務を与えます。それは、一見不可能とも言える激流の川を部下を率いて渡り、敵の裏をかくという任務です。河了貂が武も知力もない渕副隊長を重要任務に選んだ理由は「責任感があるから」というものでした。結果的に渕副隊長は対岸まで渡り切り、戦況を大きく変えることに成功します。
部下を信じた河了貂ならではの「奇策」でした。
【河了貂のマネジメント術】飛信隊の軍師に選ばれた理由
河了貂は、軍師として飛信隊に合流したばかりの頃は、実力がなかったため戦力として認められていませんでした。しかし、自ら飛信隊のために行動して力を示すことで徐々に隊員からの信頼を集めることになります。
ここからは、河了貂が飛信隊の軍師になれた理由をマネジメントの観点から解説します。
責任感がある
河了貂が飛信隊に入ったばかりの頃、河了貂は軍師の采配ひとつで死人の数が変わることに悩んでいました。
信は「そこまで背負い込むなら、この先続けられないから帰った方が良い」と諭しますが、河了貂は「そんな軽い気持ちでここにいるわけじゃない」と言い返し、その後軍師として成長を遂げることになります。
軍師はひとつひとつの行動に責任が伴います。だからこそ河了貂は苦悩するのです。しかし、時には犠牲を払ってでも決断しなければいけない。そしてその責任は自分に付き纏う。河了貂からは、そうしたマネジメントに必要な「責任感」が見て取れます。
部下への適切なアドバイスができる
『キングダム』の物語が進むにつれて飛信隊の規模も徐々に大きくなり、隊のメンバーが増えていきます。そして、飛信隊の人数が5千人になったとき、弓の名手である「蒼仁・蒼淡」兄弟が仲間に加わりました。
初陣で初めて人を討つことになった蒼仁・蒼淡兄弟は、戦いの最中に気後れしてしまいます。蒼仁は気を持ち直して震えながらも武功を上げますが、蒼淡は最後まで人に弓を向けることすらできません。
戦いの後、蒼仁は戦場で震えていた自分を責め、落ち込んでいましたが、河了貂はそばに寄り添ってこう助言します。
「その優しさと弱さは、これから強くなれる証だ」
このセリフが、後に蒼仁を支える言葉となるのです。
部下のマネジメントをする際は、時に上司が部下へヒントを与え行動を促すことが大切です。
決断力がある
一見軟弱に見える河了貂ですが、今までに幾度となく大きな決断をしています。
・力もない中で戦場に出る
・一か八かの策でピンチを脱する
・失敗が許されない状況で仲間を信じて任せる
中には、失敗をすれば飛信隊が全滅となる決断もありました。
河了貂が飛信隊の中で認められ、信頼されたのは「信の古くからの知り合い」だからではなく、困難な状況でも決断して行動したからです。
マネジメント層も同様、時には会社の業績を左右する決断が必要な時があります。その際、責任を転嫁せずに、指示を出すことができるか。この決断力こそが、河了貂の強みと言ってもいいかもしれません。
河了貂から学ぶ|組織を成長させる4つの方法
『キングダム』における河了貂の行動や言動からは、以下のような、部下をうまく先導し、組織を成長させるための4つの方法が見て取れます。
1.自ら行動して信頼を獲得する
まず、人の上に立つ人物は「役職だけで信頼は獲得できない」ということを覚えておきましょう。人からの信頼を勝ち取るには、自ら前線に立って力を見せることが大切です。上から与えられた仕事を部下に投げて終わりのリーダーには誰もついてきません。ときには部下と一緒に悩み、打開策を考えるなどの責任感が必要です。
2.部下の短所を活かす
リーダーの役割のひとつとして、部下の短所を活かすことも重要です。短所と長所は表裏一体であるため、使い所を変えれば「使えない人材」も生まれ変わります。
例えば、「人と接するのが苦手」という短所を持っている部下には「一人で作業するのが得意」という長所があるかもしれません。適材適所で人を使えば個人のモチベーションも上がり、業務の効率化が図れます。
3.決断力を示す
会社のリーダーとして働いていると、ときには辛い決断をしなければいけないこともあります。しかし、チームの編成や事業の指針を定めるときに、長い間迷っている時間はありません。
上司が重要な場面で決断ができず、人に責任をなすりつけるようであれば、部下のモチベーションは低下します。会社でリーダーとして働く以上、前例がないような場面でも大胆な決断が求められることを忘れないでください。
4.部下を信頼し任せる
リーダーは部下に任せるスキルが必要です。全てのことをリーダーが行っていては、リーダーからの指示がなければ動けない烏合の衆を生み出す恐れがあります。組織をスケールしていくためには、裁量権を部下に渡す必要があるのです。このため、河了貂のように重要な局面を部下に任せることがリーダーには求められます。
人に期待の言葉をかけて任せることで部下が成長することが実験からわかっています。これを「ピグマリオン効果」と呼びますが、こうした心理的な側面から見ても「部下を信頼し任せる」という河了貂のマネジメントは適切だったといえるでしょう。
参考:教師期待が学業成績の原因帰属に及ぼす影響| J-Stage:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/30/2/30_91/_pdf
まとめ
最初は自分を非力だと思い込み、男性として生きていた河了貂でしたが、『キングダム』が進むに連れて自分の才能を活かすようになります。ただ、河了貂が軍師として結果を出せたのは才能だけでなく、分析力と仲間からの信頼があったからです。分析力を持って適切な指示を送り、時には危険を顧みずに自ら突き進む河了貂だからこそ、部下が河了貂を信頼することができたのでしょう。
【この記事を書いた人】
識学総研 編集部 株式会社識学内にある、コンテンツを企画・制作する編集部です。 『「マネジメント」を身近に。』をコンセプトに、マネジメント業務の助けになる記事を制作。
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いかがでしたか。コミック『キングダム』の人気の理由とビジネスへの学びについておわかりいただけたでしょうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/