東京の隣にして、豊かな大地と青い海に囲まれた千葉県。今回は東京駅から東京湾アクアラインで約1時間という木更津市周辺に、情熱を持って取り組む食材の生産者たちを訪ねた。
高速道路を降りて海沿いから内陸へと入ると、緑が鮮やかになってくる。空気が気持ちよく澄んだ広い大地には、たんぼの稲が風に波打つ、のどかな風景が広がっていた。
最初に到着したのは、木更津市では唯一の養豚農家という平野養豚場だ。
平野養豚場が扱っているのは千葉県産のブランド肉「林SPF豚」。現在は、家業に入っておよそ20年という3代目の平野賢治さんと妻の恵さんが愛情を込めて豚の世話をしている。
「父の時代は東京に出荷することが目的でした。でも私たちは地元で食べてもらえるように活動していきたい」と賢治さんはいう。
「林SPF豚」は豚特有の特定病原菌を持たない健康な豚だ。抗生物質やワクチンの投与も少ないため安全性も高い。平野養豚場では自然交配で子豚から育て、飼料は植物性のみ、その配合にも気を配ることで、大きく育てるよりもいい肉質を作ることを重視している。
自分たちが育てた豚肉の美味しさを地元の人に知ってもらおうと、平野夫妻は忙しい養豚の仕事をやりくりして千葉県内のイベントに積極的に参加している。
お客さんが喜んで食べてくれることで仕事への励みにもなり、またこれからの課題も見えてくるという。そんな活動が実ってか、平野養豚場の豚肉を使って千葉県内の精肉店で加工品を作る取り組みが始まるなど、徐々に認知度も上がってきている。
【平野養豚場】
https://www.facebook.com/kisarazu.hiranoyouton/
次に向かったのは、県内の醤油蔵としては最南端に位置する1834年創業の宮醤油店だ。
歴史を感じさせる建物は昔ながらの醤油蔵の趣を残している。醸造蔵の中を歩くと、醤油のいい香りが立ち込めていた。蔵の中を案内しながら、現当主である宮敬一郎さんは醤油造りについて細やかに説明してくれた。
宮さんによれば、昭和初期は千葉県内に400軒以上の醤油蔵があったというが、どんどんと廃業するところが増えて、一貫生産を行う醤油蔵は今では13軒に減ってしまったという。
その中でもここ宮醤油蔵は昔ながらの天然醸造にこだわっている。
杉の木桶の中で最低でも1年間、長ければ2年は置くという醤油は、年ごとの気候のバラつきや木桶ごとの発酵の進み具合などにより、一定の品質を保つことが難しいという。だがその分だけ味わいが深く、ゆっくり発酵することによってまろやかな味わいになる。
「手造りですから、毎年全く同じものを作るということはできません。しかしそれだけに、恵まれた年には飛び切りの醤油ができます」と宮さんは顔をほころばせた。
【宮醤油店】
http://www.miyashoyu.co.jp/index.html
次に訪ねたのは、房総半島の中部、富津岬基部よりやや北側に位置する小糸川漁港。東京湾に面した小さな漁港だ。水揚げ後の港に着くと、マルト水産の平野敬一さんが待っていてくれた。
目の前のバケツには、ナメタガレイ、舌平目、鱚、ホウボウなど今朝揚がったばかりの魚がズラリと並ぶ。ここでは東京湾で有名な穴子も上がるが、漁は夜というから午前中に訪れたこの日は見ることができないという。その代わりに様々な高級魚が水揚げされていた。小さな漁港であっても、富津の海の豊かさを知ることができた。
さて、こうした地元の良質な食材は、やはり地元で食べてこその醍醐味がある。そこで向かったのは「食の地産地消」をテーマに、千葉県産や地元周辺の食材をメインに料理を出しているレストランだ。
「三井アウトレットパーク木更津」の目の前にある食事処『木更津 KiSARA(キサラ)』は、一流の料亭で腕を振った料理長が手がける本格的な割烹料理を地元ならではのリーズナブルな価格で味わえる。
ここでは、今まで訪ねた生産者の食材にも出会える。一頭買いするという「林SPF豚」を、自慢の出汁で食べる「出汁しゃぶ」が自慢料理だ。東京湾の肉厚の穴子を豪快に使った天ぷらや木更津や富津であがる新鮮な魚介類も人気のメニューという。
漁港からの直送をイメージした店内は、コンテナ風の造りで、リゾートを意識したゆったりしたテーブル席、浜焼きが楽しめるハーバーをイメージしたテーブル、そして開放的なテラス席ではバーベキュー(ペット同伴可)と、リゾートのように様々な要素が楽しめるところが魅力だ。
【木更津KiSARA】
住所/千葉県木更津市金田東6-3-6 三井アウトレットパーク木更津P4駐車場目の前
TEL/0438-38-6887
営業時間/11:30~22:00(L.O.21:00)
定休日/不定休
※コース料理は要予約。予約は前日18:00までに。
http://www.kisarazukisara.com/
以上、今回は千葉県の木更津市周辺に、情熱を持って取り組む食材の生産者たちを訪ねた。養豚、醤油、そして海の幸。のどかな自然と豊かな食材を求めて、内房を旅してみるのもよいだろう。
撮影/竹崎恵子
取材・文/岡本ジュン